第六十一話 巫女の研究所へようこそ
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「研究所に帰りますから、発掘機は止めるつもりでした」
「あ、ならそうしましょう、サンキューサンキュー」
どうにか、目的は達成できたな。
そんなこんなで、研究所とやらに共に向かう途中。
「あ、そういえば。あんた、名前は?」
「……申し遅れました。私はミナギ。この森で古代文明を調査し、魔導技術を研究する者です」
「ミナギか、オレはソータ。行商人で、借金返済中……ってのはまあ置いといて、いろいろあって森を守りたい人だ」
カナギは微かに笑みを浮かべ、「変わった経歴ですね」と呟く。
別に否定はしない。
ウルフが「ガウッ」と友好モードで先頭を歩くから、ミナギも警戒を解いてくれたっぽい。
森の奥を歩きながら、俺はミナギが何のために魔導掘削機を稼働させていたのか、騎士たちのことを知っているのか、気になることが山ほどある。
でもそれは研究所で落ち着いて話してくれるらしい。
ウルフが「ガウガウ!」と尻尾を振って楽しそうだけど、俺はドキドキだ。
とにかく俺は、巫女さんの後を追うことにした。
※ ※ ※
森の奥深く、木々に溶け込むように佇む外観からは想像もつかないほど、中は近代的……というか魔導的……というか、何とも不思議な空間だった。
「ここが……」
巫女さんの研究所へと足を踏み入れた。
思わず息をのむ。
外見は質素な木造建築に見えたのに、一歩中に入ると整然とした研究スペースが目に飛び込んでくる。
淡い光を放つランプが空間全体を照らしていて、壁にはびっしりと魔導文字の巻物や複雑な図面が掛けられている。
中央部には何やら動力部が剥き出しの魔導機の模型らしきものが置かれ、テーブルの上には大小さまざまな古代の歯車が散らばっていた。
「すごいな……こんなところがあるなんて」
ウルフが「ガウ?」と首を傾げて、床の上にゴロッと落ちている謎の歯車をクンクンと嗅ぎまわる。
俺も「こりゃなんだ?」と拾いそうになるが、めっちゃ大事なパーツかもしれないし、下手に触らないほうがいいかも……。
巫女さんは魔導ステッキ(と名付けよう)を軽く振って、シュン……と魔法陣を展開しながら言う。
「ようこそ、私の研究所へ。ここでは古代の魔導機を研究し、解析しています」
「てか、まず聞いていいか。それって……魔法?」
「はい。古代にはこのような魔法が存在しており、私の魔導ステッキを使えば活用が可能です」
「そうなんだ……すげえな……」
魔導ステッキ、名前、あってた……。
「そして私は、古代からこの地にあった魔導機……私はそれらを活用することで、より便利な生活が送れると考えているのです」
そう言いながら、ミナギさんは机の上の設計図をトントンと指し示す。
紙にはびっしりと書き込まれた魔導文字や歯車の設計図があり、正直ちんぷんかんぷんだ。
しかし、端っこに走り書きされたメモから察するに、なんか「発電」だの「冷却装置」だの、いろんな試作品を考えてるらしい。
「へえ……あの掘削機もそうだけど、この森にはいろいろ魔導機が眠ってるってわけだな」
「ええ。それらをちゃんと解析して、活用すれば、もっと豊かに暮らせるでしょう」
巫女さんは俺の顔をちらっと見て、再び設計図に視線を落とす。
その表情はどこか真剣だけど、同時に楽しそうでもある。
机の周囲には細長いルーペとか、魔導式のオシロスコープっぽい測定器とか、何かの結晶を検証するための小型インキュベーターみたいなものも設置されていて、どれも異世界感満載だ。
「これは……何だ?」
俺がテーブルの端にある円形の水晶を指すと、ミナギさんは微笑みながら答える。
「それは魔力濃度を測定する装置です。結晶が強く輝くほど、周囲に漂う魔力が多いという目安になりますわ」
確かに淡い光を放っていて、触れればピカッと光の強さが変化しそうな雰囲気。
ウルフが「ガウ?」と前足でツンツンしようとしてるから、慌てて制止する。
怖いからやめろ!
さらに、壁際に並べられた棚には、分厚い書籍や巻物が整理されていて、背表紙には「魔導機解析録 第7巻」「古代遺跡の構造」「魔力伝導理論」なんて難しそうなタイトルがズラリ。
「わあ……勉強熱心だな」
思わずつぶやくと、巫女さんはちょっと照れたような顔でうなずく。
「ええ……研究した内容はすべてまとめておかないと、二度と再現できなくなる可能性もありますから」
棚の一角にはスケッチたっぷりのノートがあり、ゴーレムのようなロボットのイラストが書かれているものもある。
あ、俺の相棒のゴーレムと似てる? いや、これはもっと細身というかスタイリッシュで、頭に角みたいなのが生えてるし……面白い。
「この森には数多くの魔導機が眠っています。掘削機もその一つ。私はこれを動かして、その可能性を探っていました」
ミナギさんがキッチリとファイリングされた書類を見せてくれる。
そこには掘削機の外観や内部構造のラフ画が描かれ、注釈がぎっしり。
さらに彼女は、研究室の端に設置された大型スクリーンのような魔導装置を操作し、ポワンと浮かび上がる立体映像を映し出す。
「この森の地下には、さらなる世界が広がっているという解析結果が出ています。おそらく、あの掘削機はそこへたどり着くための装置なのです」
「地下世界……?」




