第五十九話 おやすみゴーレム
焼け落ちたログハウス。
あったはずの“俺のスローライフの拠点”は、もう影も形もない。
ついさっきまで、あの家で商売の計画を立てたり、ウルフと昼寝を楽しんだりしていたはずなのに……そのすべてが炎で消えてしまった。
「くそっ……」
思わず声が漏れた。
ウルフが足元に寄り添い、「クゥーン」と悲しげに鳴いてくれるのが余計に胸に刺さる。ゴーレムは何も言わず、ただ無表情なモノアイを揺らしている。
この状況が悔しすぎて、泣きたいのか怒りたいのか分からない。けど――
(だけど、落ち込んでる暇はないだろ)
騎士たちの言葉が脳裏に蘇る。「この森はもうすぐ戦争になる」……もしそれが本当なら、エルフ村や洞窟村、そしてこの森に暮らす異世界どうぶつたちもみんな、俺と同じ悲劇に巻き込まれるかもしれないじゃないか。
「そんなの、絶対にさせねぇ……!」
拳を握りしめる。
ウルフが「ガウッ!」と低く吠え、応援しているようにも聞こえる。
ゴーレムは相変わらず表情を変えないが、モノアイの光が少し強く揺れている。
きっと同意してくれてる……と勝手に思っておく。
「だけど、俺ひとりじゃ無理だ……」
そりゃそうだ。
ログハウス一つ守れなかった俺が、森全体の防衛をどうにかするなんて無謀じゃね?
でも、やらなきゃ誰も助けてくれない。
ここは立ち上がるしかないだろ……!
「お前の力、もっと使わせてもらうぞ。ゴーレム」
俺はゴーレムの巨大な腕に触れながら、そう呼びかける。
先の騎士との戦いでは見事に一矢報いてくれたゴーレムだが、
「ん……?」
気づけば足取りがぐらついているような……?
ふらふらとするゴーレム。
するとモノアイがわずかに光り、「ゴゴ……」と低くうなる。
なんか、様子がおかしいな。
人間で言うと、風邪をひいたみたいな……。
元気がないというか、エネルギーが切れたみたいな……。
んん!?
ちょっと待て!
エネルギーが切れた、だって!?
俺は急いで、ショップ機能からゴーレムのポップアップウィンドウを表示させる。
【魔導バッテリー 残量 1%】
「マジか……!」
一気に焦燥感がこみ上げる。
ゴーレムは魔導エネルギーで動いているから、燃料切れすればただの置物と化す。
まさに今、残り1%って……電池切れのスマホのようなものだ。
「これからってときに……!」
ゴーレムがカクンと膝をつき、ズシン……と腰を下ろす。
モノアイの光は今にも消えそうだ。そりゃ、ログハウス建設や戦闘で酷使したし、補充なんてしてなかったし……。
俺は歯を食いしばって頭をかきむしる。
今はバッテリーを探す術もなく、俺が掘り起こせたのは数日前に見つけた一つだけ。
もう使い切ってしまったんだ。
「ありがとう、ゴーレム。ちょっとここで休んでてくれ……必ず新しいバッテリーを持って迎えに来るから」
「ジジ……」
モノアイが「わかったよ」というように最後の光を明滅させる。
そうして、ゴーレムが俺に向かって腕を伸ばしてくる。
「なんだ……?」
手の中に、なにかがある。
差し出されたそれは、古代文字が書かれた、小さな石板だった。
「これ、俺に……?」
モノアイが点滅し、「お持ちください」と言っているような気がした。
そして、ゴーレムは、ズシン、と完全に動かなくなってしまった。
何の意味があるかわからないが、俺はゴーレムのゴーレムの(一時的な)形見ともいえるそれを、大事に収納する。
それにしても……。
くそ、またしても困難続きじゃねえか……でも弱音吐いてる場合じゃない。
この森を守るには、ゴーレムのパワーが絶対いるし、それ以外にも仲間が必要だ。
情報を集めて、なんとか対抗策を見つけないと。
俺は深呼吸して頭をクリアにする。
騎士たちが言ってた戦争が本当に起きるなら、ほかにも魔導ゴーレムの知り合いや強い仲間を探すしかない。
あ、そうだ……。
魔導ゴーレムの知り合い……というか、魔導……。
そこで俺は思い出す。
“南東の森”にある【魔導掘削機】について。
あの装置、ゴーレムと同じく古代文明の遺物だけど、稼働してたよな……!
俺が止めちゃったけど。
もしかしたら、あの装置の周りに、ゴーレムの仲間が埋まっているかもしれない。
いや、あれを動かしていた人物(人なのか?)がいれば、話し方次第では仲間になってくれるかもしれない。
もしかしたら、魔導バッテリーの補充もできるかもしれない。
「……よし! あそこに行こう!! 南東の森だ」
いまは、騎士たちを防ぐためなら、なんだって試すべきだ。
ウルフが「ガウガウ!」と尻尾を振ってノリノリだけど、あのエリアは俺がほとんど行ったことのない未知の地。
危険生物がゴロゴロしてる可能性だってある。
ヴェノム・ホーネットなんてのもいたしな……。
でも、行くしかない。
「ゴーレム……待っててくれ」
そう言い残し、俺は動かなくなったゴーレムをそっと木陰に寝かせておく。
ウルフが「ガウ……」と名残惜しそうに鼻先でゴーレムをツンツンするのが切ない。
でも仕方ない。
いまはバッテリーを持ってないから、ここでお別れして、必ず再起動させるって決意だけ胸に抱いて進むしかない。
俺はウルフを連れて出発することにした。
正直、もはやログハウスは焼け落ちてるし、半分は避難行動でもあるけど……ま、開き直ろう。
「いくぞ、ウルフ。道中で食料を採集しつつ、がんがん進むスタイルだ」
ウルフが「ガウ!」と元気よく吠え、俺も地図(というか簡単なスケッチ)を広げて方角を確認。
騎士たちがまた出てくるかもしれないから気は抜けないが、スローライフを諦めたわけじゃない。
数時間森を進むと、景色が少しずつ変わってくる。
木の種類や地面の苔の色、鳥の鳴き声が違っていて、ちょっと幻想的な雰囲気もある。それがまた冒険心をくすぐるんだが……。
まってろよ、ゴーレム。
それに、森のみんな。
俺がここを戦争から守ってみせる。




