表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/69

第五十八話 戦争


悔しさと怒りがこみ上げる。


すると騎士の一人がニヤリといやらしい笑みを浮かべる。


「そうだ。我らが砦を築くには余計なものだからな。そもそも貴様がやってた商売が森の住民を元気づけていたらしい。全部ぶっ潰して、簡単に従わせるほうが手っ取り早い」


「そんなんで、スローライフしてる俺を巻き込むのかよ……」


バカげてる。


貿易で少しこの森が豊かになっただけで、国が砦を作る邪魔になるなんて。いや、それだけ戦争ってのは容赦ないものなのか?


まだ頭が追いつかないが、騎士はさらに追い討ちをかけてくる。


「なんなら今からでも貴様を奴隷にして、砦の建設にこき使ってやってもいい。まあ、帰り道にも暇つぶしが欲しいからな」


背筋が凍る。奴隷化なんて単語、まさかこんな形で聞くとは。


ウルフが「ガウガウ!」と猛烈に吠える。


「クソッ……どうすれば……」


拳を握りしめ、痛む頬から血が伝っている。


こんなことになるなんて夢にも思わなかった。騎士たちは無言で剣を構え、こちらを囲むように位置を変えている。


あわや一触即発。


地面には炎の明かりがちらちらと映り、俺のログハウスが背後で燃え盛っているのを感じる。


なんという理不尽……。


そのとき、ゴーレムが「ゴゴゴゴゴ……」と低く唸るような音を立て、モノアイが青から真っ赤に変化。


ズシンと一歩前に出て、拳を振り上げた。


「ぐわっ!」


騎士のひとりがパンチ一撃で吹っ飛ぶ。


あまりにも強烈な打撃に、そいつは甲冑ごと転がって悲鳴を上げる。


残りの騎士が「こいつ、ただのガラクタじゃないのか!?」と動揺する。


ウルフも「ガウガウ!」と低い姿勢で牽制しつつ、鋭い動きで騎士の足元をかすめるように飛び回る。


複数相手には分が悪いが、ゴーレムの一撃があまりにも強いせいで、騎士たちは戦意喪失しかけてるようだ。


「こ、こいつ……動くのかよ! 退け! いったん退避するぞ!」


リーダーらしき騎士が撤退命令を出し、慌てて茂みに消えていく。


夜の闇の中でガサガサと甲冑が擦れる音が遠ざかり、森は再び静けさを取り戻す。


しかし、俺の背後ではログハウスがゴォォッと火柱を上げて燃え続け、まるで地獄のような光景が広がっていた。


「……助かった……」


俺はかすれ声で呟く。


外の世界では戦争が起きていて、その波がここまで及んでいる。


ここはエルフやドラゴンが平和に暮らす森だったはずなのに、国が砦を築くなんて……どうなっちまうんだ?


ウルフが「ガウ……」と俺の足元にすり寄ってくる。


ゴーレムは静かに佇んでいるが、先ほどまでのモノアイの赤光がかすかに残っているように見える。


まるで「危険は去ってないぞ」と言ってるようだ。


「こんなのって……本当にやめてくれよ……」


炎の熱気が肌を刺し、煙が目にしみる。


せっかく作り上げた拠点がこうもあっさり燃え落ちるなんて、しかも理由が戦争って……冗談じゃない。


ドサッと屋根が崩れる音がして、火の粉が舞い上がる。騎士たちはひとまず退いたが、またいつ襲ってくるかわからない。


「これ……どうしようもないじゃん……」


声にならない嗚咽が込み上げる。


ゴーレムが近くで佇み、ウルフが俺の足元にすがるようにしている。


炎の赤い光が彼らのシルエットを揺らし、まるで地獄絵図だ。


「こんなのって……ないだろ……」


血の気がひいてく。


せっかく稼いだクルナも、ここでの生活も、みんな消えていくような感覚。


騎士たちの言葉によれば、これからここは戦争に巻き込まれるらしい。


貿易もへったくれもない。


「うっ……」


情けない。


こんな大惨事の前では、結局何もできない無力な自分を思い知る。


ウルフが「ガウガウ……」と不安そうに吠え、ゴーレムの赤いモノアイが明滅する。


煙が目に沁みて涙が出るのか、悔しくて泣いてるのか区別がつかない。


だけど、このままじゃ終わりたくない。


こんな理不尽な状況を、見て見ぬふりなんかできるか。


それでも、今は炎を眺めるしかない。


呼吸するだけで苦しいし、ウルフとゴーレムを連れて安全な場所へ逃げるしか選択肢はないだろう。


「……行こう。ここにいても焼け死ぬだけだ」


ウルフが小さく「ガウ……」と頷き、ゴーレムがドッシンと一歩動く。


燃え盛るログハウスを背に、俺は夜の闇へと足を踏み出した。


暗闇の中、騎士たちがいつ再び襲ってくるかもわからない。


この森はもう安全とは言えない。けれど、俺の胸にはまだ燃え尽きていない炎がある。


そう、絶望の炎を浴びても、再起してやる……そんな無茶な気持ちが、くすぶっているんだ。


ウルフが「ガウガウ!」と小さく吠え、ゴーレムが力強くその拳を握る。


俺は二人(?)を連れ、夜の闇に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ