第五十七話 襲撃
真夜中。
赤々と燃え盛る炎が夜の闇を照らし、まるで昼間のように周囲を鮮明に映し出していた。
ただ、その光景は恐ろしくも美しい……なんて悠長なことを思う余裕なんて、今の俺には一切ない。
「……なんで……」
俺は炎に包まれたログハウスを呆然と見つめるしかなかった。
苦労して建て上げ、さらに貿易の拠点として発展させてきた思い出が、目の前でバチバチ燃えている。
ウルフが「ガウッ!」と低く吠えながら、周囲を警戒するようにぐるりと回っている。
ゴーレムはゴツゴツと無言で立ち尽くしているものの、その動きが普段より落ち着かないように見える。
「……クソッ!」
俺は拳を握りしめたが、どうすることもできない。
あまりにも炎の勢いが強すぎるし、水をかけたところでこの火の勢いを止められるとは思えない。
歯噛みしながら無力感に苛まれていると、ウルフが「ぐるるるる……」と低く唸った。
「ウルフ?」
その視線の先、闇の中で何かが動いた。
ザワ……と嫌な空気が走る。
まさか、誰かいるのか!?
がさっ!
茂みの中から姿を現したのは、エルフでも洞窟村のベビードラゴンでもない——人間だった。
しかも鎧や甲冑を身につけ、腰には鋭い剣。
いや、まるで騎士みたいじゃないか?
「……人間!?」
俺が驚く間もなく、そいつは剣を振りかざして突っ込んできた。
「クソッ!!」
咄嗟に身をかわすが、ウルフにも攻撃が飛んできてる。
ウルフは器用にバックステップして威嚇の「ガウガウ!」を繰り返す。
気づけば4、5人の騎士らしき連中が俺たちを取り囲んでいた。
なんだこれは!?
「なんなんだお前ら!!」
思わず叫ぶ。
が、騎士たちは無言のまま拳や剣で攻撃してくる。
バキッという音と衝撃が、俺の頬を貫く。
「ぐっ……!」
普段、暴力なんて受け慣れてない俺は、簡単に地面に崩れ落ちる。
ウルフが一瞬こちらを見て「ガウ!」と吠えるが、そいつらの人数が多いからカバーしきれない。
ウルフはもうすっかり飼いならされていて、俺と初めて出会った時のようなどう猛さはもうないんだ……いいことなんだけどな。
「おいおい、誰に許可もらってここで行商なんてしてるんだぁ?」
騎士たちがクスクスと笑う。
その声がやけに耳につく。
俺を倒し、ウルフを封じ込め、ゴーレムはどうにかならないのかってそわそわしてる様子だ。
いや、こんなときに頑張ってくれよ!
ゴーレム!!
「お前が勝手にやってた交易、あれ迷惑だから制裁にきたんだよ。この森が他人の手によってこれ以上栄えても困るからな」
「……どういうことだよ……」
痛む頬を押さえながら問いかけると、騎士の一人が不敵な笑みを浮かべ、高らかに宣言する。
そいつらはいかにも軍規正しい雰囲気を漂わせているが、その言動はまるでならず者のように荒っぽい。
甲冑には見慣れぬ紋章が刻まれている。
「この森はもうすぐ〈グランゼル王国〉の支配下となる。戦争準備で砦を築くことが決まったからな。お前の交易なんぞ邪魔でしかない」
「グランゼル王国……? 初耳だぞ! え、そんな国が……この森の近くに?」
思わず言葉が詰まる。
え、この森ってエルフ村と洞窟村くらいしかなくて、外界とほぼ行き来がなかったはずだよな?
まさかそこまで大きな国が進軍してきてるだなんて……。
「どうやらお前、よほど世間知らずと見えるな。大陸で始まった大戦がじわじわとこの地にも迫っている。俺たち〈グランゼル王国〉はこの森一帯を征服し、新たな前線基地にする」
騎士が淡々と語るその姿からは、妙な高揚感すら感じる。
「エルフやベビードラゴンなどの亜人や魔物は管理するだけとなるが、ヒトは我らの支配下だ」
戦争だか何だか知らないが、そんな大事がこの平和な森に影響を及ぼすなんて本気で信じたくない。
けど、彼らが実際にここへ押し寄せてきて、家を燃やした事実を前に否定はできない……。
「だから……燃やした? 俺の家を……」




