第五十一話 次は家をたてる!
小川のベースキャンプでウルフとゴーレムを連れて、まったりしていた昼下がり。
そよそよと涼しい風が吹く中、荷物を片付けたりして「やれやれ、今日もスローライフだなぁ」なんて思っていたら――近くの茂みがガサガサッと揺れた。
「ん? 何の音だ?」
ウルフが「ガウッ!」と警戒モードに入る。
ゴーレムのモノアイがピカッと赤に光る。この巨大ロボ感は頼もしいけど、ここで大暴れはやめてくれよ?
茂みの奥から姿を現したのは――
大きな耳とふさふさの尻尾を持つ、美少女風の狐キャラ(?)だった。
しかも軽やかに歩み寄ってくるし、笑顔だし……あれ、けっこう可愛いぞ?
「こんにちは、旅人さん。珍しい場所で人の気配がしたので近づいてみましたわ」
彼女はそう言って、手に持った大きな荷物をひょいと肩に担ぎ直す。
おお……。
獣人キャラだ。
「えっと……はい、こんにちわ」
なんとも普通のあいさつをしてしまった。
「どういった素性のお方でしょうか?」
こっちが警戒しつつ尋ねると、狐耳少女はふふんと笑って胸を張る。
「わたくし、カグラと申します。行商人ですの。この森を歩き回りながら物々交換やアイテムの売買をしてるんですわ」
「行商人……?」
へえ、そんな人(獣人?)もいるのか!
「そうですわ。もし旅人さんが何か必要なものがあれば、ぜひお声がけくださいませ♪」
と、鼻歌まじりに荷物をゴソゴソし始め、特製ポーションやら魔法のスクロールやら怪しげな香炉やらをチラッと並べてくる。
うわ、もう営業モード全開だなー。
「こちら、特製のポーションに、魔法のスクロール。そして、この香炉は香りで虫除けにも使えますのよ」
妙に嬉々として勧めてくるけど、俺には問題があるんだ……。
「いや、俺、実は借金が30億クルナあって、そういうの買える余裕ないんです……」
正直に言った瞬間、カグラの目つきがキラーン(悪い意味で)と変わった。
「あら、そうですの? お金がない人とは、正直お話するだけ時間の無駄ですのよ」
うわ、いきなり冷めた声! さっきまでの微笑はどこいった!? ウルフも「ガウ?」と首をかしげて困惑してる。
うう、なにも言い返せねえ……。
「借金があろうと、少しくらいのお金を捻出できないのなら、このもりで生きていくのは難しいですわね。ねえ、旅人さん、ちょっとは努力してますの?」
なんというか、圧がすごい。
「えっと、その口ぶりからすると、けっこうこのもりについては、詳しかったりするのか?」
「あら、もちろんですわ。私はこのもりを渡り歩いて生きてきたのです。なにからなにまで手に取るようにわかりますのよ」
まじか!
めっちゃいろいろ聞きたい!!
「あの、じゃあそのことについて、ちょっと聞きたいんだけど……」
「お金がない方に、お伝えすることはありません!」
ぴしゃっとシャットダウンされた。
ぴえん……。
キャバクラにきた貧乏客のような扱いをうける俺。
くっ。
仕方ない、こうなったら……。
「その、特性ポーションと、魔法のスクロール? ください……」
「あら! ご購入ありがとうございます♪ いま計算しますね!」
カグラはやたら満足げにニコッと笑い、俺にいくつかのアイテムを押しつけてきた。
何万クルナもするらしい。きびしいけど……しかたない。情報を得るためだ。
「それで……、もしよかったら、このもりの歴史とか、どんな住人がいるかとか、教えてほしい」
「おやすい御用ですわ♪」
カグラは一息つくや否や、森のあれこれについて語り始める。
商売もするけど、情報提供もするタイプの行商人らしい。
「この森は、昔からさまざまな生物たちが住み着いてきた場所ですの。特に、今いるこのエリアは、もっとも平穏ですみやすいところですの」
「やっぱりそうなんだな……ここに転生できてよかったよ」
ウルフが「ガウガウ!」と賛同してる(たぶん)。
ゴーレムは無言だけど、横でモノアイを青く光らせてるから、聞いてるのかも?
「ところで……その大きい岩のお方は……」
「ああ、気にしないでくれ。ペットだ」
「は、はあ……」
古代文明については、おそらくこの狐ちゃんも守備範囲外だろうから、いったんおいておく。
「それで、旅人さん、さきほど借金が30億クルナあるといっておりましたが?」
「ああ、そうなんだ。俺、どうにかして返済しなきゃいけないんだよ」
「30億クルナは、なかなかの額ですわ……」
カグラがあらためて、目を丸くして驚く。うん、まあ普通そうなるよな。
俺も自分で言ってて泣きたい。
「でも、この森にはまだまだ価値あるものがたくさん眠ってるはずですわ。上手く活用すれば返済の道も開けるかもしれませんわよ」
え? ほんとに?
「どうすればいいと思う?」
「そうですわね、やはり、貿易でしょう。ちかくには、エルフの村やベビードラゴンの村があります。そこを行き来して、物々交換ではなくクルナで商売を始めるのですわ」
「なるほど……たしかに」
なるほどな。
そういう方向もアリだよな。
いい案なんだけど、ただそれをするんなら、やっぱりきちんとした拠点が必要だよなー。
「うん、そうだな……商売を頑張るためにも、ここ家をつくるか」
俺は小川のベースキャンプ周辺を改めて見回す。
水が豊富で平らな土地、森の生き物も多いけど、ここを拠点にすれば交易に便利かもしれない。
ゴーレムもウルフもいるし、なんだかここで暮らしても楽しそうだ。
カグラが満足げにうなずく。
「すばらしい決断ですわ。わたくしもできる限りお手伝いいたしますわね」
「本当か? 助かるよ」
ウルフは「ガウガウ!」と嬉しそうに跳ね回り、ゴーレムは相変わらず無言だが、少しだけモノアイが光ったように見える(気のせい?)。
こうして、俺の次の目的は、家をたてる! ということに決めたのだった。




