第四十二話 30歳ちょいの俺、異世界ではじめての遠出。
翌朝。
ベースキャンプで荷物を整えながら、俺は今日の計画を練っていた。
ウルフはすでに食事を終えて、俺のそばにちょこんと座っている。
まだ朝の空気がひんやりしているが、今日は遠出をするから丁度いいくらいだ。
「よし、おまたせウルフ」
「がう」
「さて……今日はちょっと遠出してみるか」
「がうがう!」
ウルフが「いいね!」と言わんばかりに、尻尾をブンッと振る。
どうやらやる気満々らしい。
俺も思わず口角が上がる。
いまさっき、きまぐれで遠出を決めた……わけではもちろんなく、俺はこのときに備えていた『おでかけグッズ』を改めてチェックした。
【遠出グッズ一覧】
お手製の地図:これまでの探索で作成したマイマップ。洞窟村から北や南東の道もマッピング済み
食料:焼き魚、ドラゴンアップル、乾燥ナッツなど、手軽に食べられて保存もしやすい
水筒:浄水機能付きの地球製アイテム。川や池の水でもある程度フィルタリングして飲めるのがありがたい
ロープ(50m):先日までの素材をDIY作業台で【合成】して手に入れた頑丈なもの。崖登りなどに重宝しそう
簡易テント:キャンプ用の寝具。最悪、野宿しても凌げるように
スコップとハンマー:発掘用。化石や鉱石を掘り出すのに欠かせない
虫除けスプレー:異世界の虫は危険度が高い。備えあれば憂いなし
その他:ウルフ用の水飲み用ボウル、特製骨付き肉(ご褒美用)
リュック:上記のグッズを収納するためのもの
これらは、昨日までの森の中でのアイテム採集や、それらアイテムの売却、売却したお金でネット購入した地球アイテムなどでそろえたものだ。
「よし、準備は万端だな」
荷物を背負い、ウルフも一声「ガウッ」と吠えてベースキャンプを出発する。
まだ日が昇りきらない森の道を、俺たちは軽快な足取りで歩き始めた。
おっと。
『いや、その『おでかけグッズ』が入った荷物、わざわざ背負わなくてもいいじゃねーか。オマエの【ショップ】機能で全部収納できるだろ!』
なんてツッコミはやめてくれよ?
そりゃあ野暮って言うもんだぜ。
もちろん、収納はできる。
クソ女神がくれた、悔しいが認めている最高のユニークスキル【ショップ】を駆使すればあらゆる大荷物も軽々持ち運びOKだ。
なんだけど、そんなの、全然『遠出』感でないじゃん!!
せっかくさ、ベースキャンプからちょっと距離離れたところまで頑張るんだからさ。
必要そうな道具はこれかな、つってリュックで背負いたいじゃんか。
なにごとも、雰囲気から入るのが、ブラック企業社畜リーマンのこだわりだぜ?
てわけで。
出発!
「がう!」
※ ※ ※
俺が今回目指しているのは、以前から気になっていた北の方角にある、圧倒的にそびえたつ高台だ。
実は虫の知らせでも「あの高台は危険だから近づくな」と頭の片隅で警鐘を鳴らしているんだが、地図をどんどん埋めたいし、遠目で見たときから気になる地形があった。
これは一度は行かねばならないだろう――そんなわけで、ウルフを連れての遠征だ。
洞窟村から南東に進んだときに作った地図を手に、目印を頼りに歩を進める。
もっとも「道」とは名ばかりで、動物やモンスターが通った跡や獣道のようなものを辿っているだけだ。
朝の森は静かで、鳥のさえずりが時折聞こえるくらい。
木漏れ日が差し込むと少し寒さも和らぐが、まだ油断はできない。
「この辺りの地形は傾斜がきついから滑りやすいな。ウルフ、気をつけろよ」
「がうっ!!」
ウルフは元気に返事して、鼻先をクンクンさせながら先導してくれる。
草や枝が行く手を阻むこともあるが、ウルフが先頭を切って動き回るおかげで助かる。
俺は汗をかきつつも、なるべく足を取られないよう注意しながらついていく。
どれくらい歩いただろうか。
日の高さ的に、もう昼近くになっている。
最初は体力に余裕があったが、この獣道をひたすら進むのはやはり骨が折れる。
ちょうど小さな開けた場所があったので、俺はウルフと一緒に腰を下ろすことにした。
「ふう……少し休憩しようか」
リュックを下ろし、水筒を取り出す。浄水機能付きとはいえ水は有限だから、ゴクゴク飲むのは控えめに。
ウルフには、携帯してきたボウルに少し水を分けてやると、嬉しそうにペロペロ舐め始めた。
「お待ちかねの昼飯だな。まだ高台までは少し距離があるから、腹ごしらえしておこう」
地図を広げつつ、食料として用意した焼き魚とドラゴンアップルを取り出す。
焼き魚は塩味がきいているから、簡単に食べられてありがたい。
ドラゴンアップルの甘みと酸味が体に染みわたる。
乾燥ナッツもつまみながら、しばし森の涼しい風を感じる時間が心地いい。
「ガウガウ?」
ウルフが首をかしげてこちらを見ている。
「あ! わるい! お前も腹減ってるよなぁ!!」
特製骨付き肉の一部を切り取ってやる。
ウルフは喜び勇んで食べ始め、尻尾をブンブン振っている。
「しっかり食べておけよ。あとでまた険しい道が続くからな」
ウルフが「ガウッ」と答え、満足げな表情だ。ここで少し体を休めたおかげで、俺も足の疲れが和らいだ気がする。
食後、再び荷物をまとめて歩き出す。
森の奥へ進むにつれて、少しずつ木々の背が低くなってきた気がする。
小鳥の鳴き声が遠く聞こえ、木漏れ日の角度が変わったころ、視界の先にようやく巨大な高台らしき険しい輪郭が浮かび始めた。
「……見えてきたかな」
ぼんやりと見えるその影は思った以上に大きい。
遠目でも迫力があるのがわかるし、地表には縞模様の地層がむき出しのように見える。
もしや、この先に行くには岩だらけの道をさらに登らなきゃいけないのかと思うと、少し気が重いがワクワクもする。
「ウルフ、もうちょい頑張ろう」
「がう!」
ウルフも疲れがあるのか、舌を出してハァハァしているが、それでも尻尾を振って「オーケー!」という感じだ。
俺は地図を見返しながら、高台へ近づくルートを確認。
いったん回り込むような形で斜面を越えていくしかない。
途中、傾斜がきつい場所もあり、滑落の危険もあるから慎重に行こう。




