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第三十六話 ドラゴン村での宴


  ※  ※  ※


翌朝。


俺たちは期待と不安を胸に、再び扇風機の場所へ向かった。


夜中に何かがあって、装置が壊されていないか、あるいは匂いに釣られて本当にミートラットが来ているのか……いろいろ気になることが多すぎて、昨晩はろくに眠れなかった。


「どうだろう……戻ってきてるかな……」


エンバーが小声で呟く。


声が上ずっているのは、きっと緊張しているからだろう。


「大丈夫だって。信じようぜ」


そう言いつつも、俺も内心ドキドキだ。


もし来ていなかったら、この作戦は失敗かもしれない。


少しずつ扇風機の設置場所へ近づいていくと、小さな影がうごめいているのが見える。


風車の回転音が変わりなく続いているのも幸いで、装置自体は壊されていないらしい。


「……あれ、もしかして!」


気が急くのを抑えきれず、駆け足で近づく。


すると、そこには――大量のミートラットがうじゃうじゃと集まっていた。


彼らはフルーツボムの香りに引き寄せられ、カゴの周りを囲むように群がっている。


チューチューと甲高い鳴き声が響き、物珍しそうにカゴを引っ張ったり、匂いを嗅いだりしていた。


「成功だ!」


いえーい!


俺とエンバーは思わずハイタッチ。


ウルフも「ガウガウ!」と吠えながら、嬉しそうに跳ね回っている。


これで洞窟村が求めていた【しっぽミート】を得る手段ができた。


何よりも、ミートラットたちを無理やり虐殺するわけでもなく、必要分だけ尻尾をもらうという共存の仕組みを構築できそうだ。


  ※  ※  ※


「ちょっと失礼な」


俺はミートラットの群れから一匹をそっとつまみ上げ、尻尾を掴んでみる。


プチッ。


驚くほど簡単に外れた。


それが【しっぽミート】。


ミートラットたちにとっては、トカゲの尻尾切りのようなものらしく、すぐまた再生するらしい。


「これで、洞窟村は救われるな」


俺は尻尾をポケットに入れ、慌てふためくミートラットを地面へそっと放す。


手を振り払うように草むらへ逃げていったが、別段こちらを恨む様子もない。


ただ、フルーツボムの匂いにつられてまだ周囲をうろうろしている個体も多い。


「ありがとうな。また頼むぜ」


心の中でそう呟きながら見送る。


エンバーやウルフも、「すごい……本当にソータ様の作戦どおりに……」「ガウッ!」などと喜んでいる。


今後はこの作戦を村にも広め、必要なときにしっぽミートを確保するのが理想だ。


  ※  ※  ※


その日の夜。


洞窟村では盛大なもてなしとお祝いが開かれていた。


村の中央広場には大きな焚き火が焚かれ、周囲には所狭しと料理が並べられている。


ドラゴン族特有の堅牢な住居が並ぶ中、人間の俺が馴染めるか心配だったが、この夜ばかりはまったく違和感がない。


「すごい……これ、全部俺たちのため?」


「もちろんです!」


エンバーが誇らしげに頷く。


彼女は今回の作戦にも深く関わってくれたし、村の住人たちとの調整役でもあった。


広場にはドラゴンたちの笑顔があふれている。


火の光で照らし出された鱗や翼がきらきらと光り、暖かな雰囲気を作り出していた。


「ソータ様が洞窟村を救ってくれたおかげで、みんなこうして安心して暮らせるんです」


それを聞いて、改めて嬉しさと安堵がこみ上げる。


確かに、【しっぽミート】が安定供給されなければ、ドラゴンたちは飢えに苦しむこともあったようだ。


俺が座るテーブルには、豪華な料理がズラリと並んでいる。


焼きたてのパンや香ばしい肉料理、フルーツたっぷりのデザート――どれも湯気が立ち上り、食欲をそそる。


「しっぽミートだらけかと思ったけど、違うな?」


「はい、ちゃんとソータ様が食べられるものを用意しました!」


エンバーがにっこり笑う。彼女が使う食材には細やかな配慮があるようで、ドラゴンの好物と人間向けの料理がうまく共存していた。


ウルフはというと、すでに特製の骨付き肉にかぶりついていて、尻尾を振りちぎれそうな勢いで振っている。


「よく、調理方法もわかったな!?」


「私の村の交易相手にエルフの村もありますので、そこのお方にいろいろ聞いたのです!」


なるほど、そういうことか!


「サイコーじゃん!」


俺はフォークを手に取り、まずは柔らかそうな肉料理を一口頬張る。


ジュワッと肉汁が広がり、香ばしい香りが鼻をくすぐる。


「これ、うまい! マジでうまいぞ!」


エンバーが嬉しそうに笑う。


「喜んでいただけて何よりです。村の皆も、こうしてソータ様に恩返しができることを誇りに思ってますよ」


周りを見渡すと、ドラゴンたちもそれぞれの個性的な姿で【しっぽミート】の食事を楽しんでいる。


カラフルな鱗が焚き火の赤い光を反射し、まるで祭りのようなにぎやかさだ。


テーブルの脇では子ドラゴンたちが追いかけっこをしており、時折ウルフも混ざって楽しそうに走り回っている。


(まさか異世界で、こんな形で皆に喜んでもらえる日が来るとはなあ)


俺はワインのようなフルーツジュースを一気に飲み干し、目を細めた。


村の人々――いや、ドラゴンたちの笑顔を見ていると、この世界に来たこと、そしてミートラットのしっぽを確保できたこと、そのすべてが報われた気がする。


こうして俺たちは洞窟村での成功を祝いながら、楽しいひと時を過ごした。


夜は深まり、焚き火の炎が少しずつ小さくなっていく頃には、ドラゴンたちも満腹でトロンとした眼差しをしていた。


ウルフはまるで子犬のように眠気に耐えきれず、俺の足元で丸くなっている。


そして、エンバーがそっと毛布を渡してくれたので、俺もその場で横になり、空を見上げる。


星々がきらめき、どこからかミートラットのチューチューという遠い鳴き声が聞こえてきた。


(この世界での暮らし、悪くない……いや、最高に充実してるかもしれない)


胸の奥に広がる温かさを感じながら、俺は静かに目を閉じた。


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