第二十九話 振動音の元凶
どうにか巨大バチを退けた俺たち一行は、森の中をさらに慎重に進んだ。
森の外れにそびえる壁を横目に、南東に向かっていく。
すると、さらに森の茂みが鬱蒼とし始める。
「……? この先に目的地の崖があるはずなのですが……」
エンバーが首をかしげる。
ん?
なんだ……?
なんか変な音が聞こえるような……。
ゴゴゴゴゴ……という、地獄の底から化け物が唸っているような、不気味な音。
地面が今にも揺れんばかりの低音だ。
「これ……もしかして、ドラゴンたちの言っていた『振動音』ってやつか?」
「ええ、もちろん……。といいますか、ソータ様、今この音が聞こえてきたのですか?」
「ああ、そうだけど」
「なるほど……。人族の方々には、ようやくここで伝わってと言うことなのですね」
え?
どういうこと?
まさか、もっと前からエンバーはこの振動音をキャッチしてたってこと?
でも、それは周波数かなにかの関係で、俺には聞こえてこなかったけど、いまようやく目的地近くになって轟音として聞こえてくるようになった、と……。
いわゆるモスキート音ってやつ。
それだとたしかに合点がいく。
ドラゴンたちが洞窟村の時点で懸念していたこととか、ミートラットがこんなに距離がはなれているのに逃げていったこととか。
「まさか、ウルフにも聞こえてたのか?」
「がうがう!」
仲間はずれは俺だけだった!
ともあれだ。
その生理的に気持ち悪い、おどろおどろしい振動音は、目的地に近づくにつれどんどんと大きくなっていった。
地面が微かに揺れるのを足裏で感じる。
ウルフが低い唸り声を上げ、エンバーが不安げに周囲を見渡している。
「もうすぐみたいだな……でも、この振動、ただの音じゃないぞ」
木々の間から見える空は、振動に合わせて微かに葉が揺れている。
このあたりには、もう異世界どうぶつたちの姿は全く見えない。
鳥の声も聞こえず、静まり返った雰囲気がさらに緊張感を高めていた。
「おい、なんだあれ……!」
そして、ついに振動音の原因となっている場所へとたどり着いた。
森の中、南東方面の崖の直前。
目の前に現れたのは、錆びついた巨大な金属質の物体。
全長10メートル以上はありそうな金属の塊で、その表面はひび割れているものの、なにか奇妙な文様が描かれていて、それがわずかに輝く。
低い振動音を響かせながら、装置全体が周期的に揺れ、地面を微かに震わせている。
機器の周囲には、過去に使われたであろう部品の残骸が散らばり、不気味な雰囲気を醸し出していた。
「これが原因か……」
てか、なんなんだこれ?
この異世界の森では想像もできないような機械っぽい見た目。
木製を基調としたエルフの村や、岩石や彫刻といったものがメインのドラゴン洞窟村の文明レベルでは到底つくることはできなさそうだ。
「まさか、これは……古代の遺物でしょうか……」
「しってるのか! エンバー!」
どこかできいたことのある返しをする俺。
「はい……。私の村の壁画は、ご先祖様が代々描いていたものも含まれるのです。その中でももっとも古く描かれた壁画に、この物体と似たようなものがありました」
ドラゴンのご先祖様か、そうとう大昔でも通用しそうだな。
「いわく、神がつくりたもうた【古代の遺物】。それは収穫をもたらす恵みともなれば、災いをもたらす害ともなる……」
なるほど……なんかすごそうな装置ってことだけはわかった。
ん、ちょい待ち。
神がつくりたもうた?
まさか、あいつじゃないよな?
俺の脳裏に、あのクソ女神がよぎる。
別世界に生きていた俺を軽々と生き返らせたり、 【ショップ】なんてスーパー機能を付与させる力といい、性格はドケチだが神としてはマジですごいやつではある。
あいつが関わってるとしたらろくなことがないからな……注意せねば……。
もうこれ以上借金は増やしたくない。
ヴェノムホーネット戦で、弁済のために蓄えていたクルナもほぼ全額放出してしまったし……。
ともあれ。
俺は驚きと興味が入り混じる気持ちで装置を見つめる。
もしもあの女神が関わっているのだとしたら……。
俺は、轟音を放つその古代の遺物にゆっくりと近づき、【ショップ】機能を展開してみる。
「あの、ソータ様……!」
「ちょっと、しずかに」
ポン、とウィンドウが表示された。
魔導掘削機 Mk.III
古代の遺物シリーズ。魔導の力によって稼働する。地中のものを掘り当てる。
【ショップ機能】によるアイテム化、登録、売却不可。




