第二十二話 ようこそ、ドラゴンの洞窟村へ
「ようこそ、ここが私たちベビードラゴン族の住処です!」
エンバーが胸を張りながら洞窟の入り口を示す。
洞窟に足を踏み入れると、予想以上に居心地が良さそうな空間が広がっていた。
天井からは照明器具もないのに、ボワっと暖かい光が降り注いでいる。
これは、ヒカリゴケという植物らしい。ショップ機能で表示されていた。
そのコケが生えていると、柔らかな光が出て洞窟全体が明るくなるということだ。
壁面には、手作りの彫刻が並んでいて、ドラゴン族の歴史や伝説を描いたような絵が浮かび上がっていた。その緻密な細工に、村の文化と誇りが感じられる。
めっちゃ器用じゃん。この竜たち。
「おお、なんか想像したのとは全然違うな!! 勝手に暗くてジメジメしてるのを想像してぜ……」
トカゲっぽいからね。
「もう! それどういう意味ですか! 失礼ですね!」
さらに進むと、小型ドラゴンたちが使っている住居スペースが見えてきた。
洞窟内にはいくつもの小部屋が作られており、石や木材を使った家具が整然と並んでいる。
子供ドラゴンたちが小さな遊び場で駆け回っている光景に、どこかほっとする。
「あの家具とか、結構手間かかってそうだな」
DIYの経験上、そういうのもわかる。
「はい! 村のみんなで協力して作り上げたものです。けっこう手先は器用なんですよ♪」
エンバーが誇らしげに胸を張る。その言葉に、俺はふっと微笑んだ。
洞窟の奥から、複数の小型ドラゴンが駆け寄ってきた。
彼らはエンバーを見つけると、安堵したように声を上げる。
「エンバー! 無事でよかった!」
「本当に心配してたんだぞ!」
「みんな、大丈夫?」
エンバーが仲間たちに声をかけるが、どのドラゴンも元気がなさそうだ。
うなだれたままの者や、疲れた表情を浮かべている者もいる。
改めて思う。このドラゴンたち、森の中で静かに暮らす動物たちと何の違いもない種族だな。
全然怖くもないし、乱暴な感じもしない。むしろ優しそうなイメージしかない。
火を吐く以外は、だけど。
「なあ、これって……」
俺が視線で問いかけると、エンバーが肩を落としながら答える。
「はい。ミートラットが逃げてしまったため……それがわたしたちの主食だったのですが……」
「ミートラットのこと、詳しく教えてくれるか?」
「森に生息する小動物です。わたしたちは狩りをして、それを糧にして生きてきました。でも、最近になって突然、大移動を始めてしまい、森でラットたちを一匹も見かけなくなってしまったのです」
「なるほどな。それで食料がなくなったってわけか」
ドラゴンたちが肩を寄せ合い、互いを励まし合う姿に、俺は少し胸が痛んだ。
「もう何日もまともに食べていません。皆、空腹で力も出ない状態です……」
エンバーが俯きながら話す。その姿に、俺は何とかしてやりたい気持ちが湧いてきた。
「なるほどな。ところで、ミートラット以外にあんたたちが食べているものはないのか?」
「川で取れる魚や、山菜などです」
だから、俺のベースキャンプの焼き魚に興味を持ったのか。
事情を知ると、かわいそうなことをした気になってしまうな。
「ええと……、あんたらドラゴンだよな? だったらもっと、こう……ヤギを襲うとかウサギを食い殺すとかそういうことはしないの?」
「そんな! 野蛮すぎます! それに血が出て怖いじゃないですか!」
エンバーの言葉に、他のドラゴンたちもうんうん、と頷いている。
この一族、全員乙女なの?
怖くて獣を捕食できないドラゴンとかいるの? いや、俺も見たことないけどさ。
でかいトカゲみたいなもんだろ?
「てか、その理屈で言うとミートラットも食べられなくない?」
「いえ、ミートラットは、他の生物に襲われた際、下腹部の『ミート』部分を切り離して逃げるのです」
「あー、だからそれを食べてるってこと?」
「はい、その通りです」
なるほどなー。
なんという、他に害を与えない種族なんだ。
わかるようなわからないような……。
まあ本人たちがそう言ってるからそうなんだろう。
「わかった。それで……ミートラットがどこに行ったのか、手がかりはあるか?」
エンバーが神妙に語り始める。
「はい、わたしたちが知っている限りのことをお話しします」
※ ※ ※
ドラゴンたちから聞き取った話を整理する。
「まず、ミートラットは最近になって突如大移動を始めた、と。その理由は不明だけど、移動する直前に何か異常な音が森の奥から聞こえたらしいな」
「はい、その音は低い振動のようなものだったと聞いています」
「振動……?」
俺は考え込む。地震や何か大きな生物の動きか?
「その異常な音は、この洞窟から南東方面の森から聞こえてきた」
「はい。この岩壁を伝って進んだ先にある崖の方角です」
「崖か……そこに何かあるかもしれないな」
エンバーが少し不安そうに言葉を続ける。
「ですが、その崖の付近には魔物が出ると言われています。わたしたちは近づくのをためらっています」
「魔物か……まあ、それも確認しないとだな」
俺は手元のノートに簡単なメモを取りながら話をまとめた。
「ミートラットの異常な行動、その前に響いた振動音、音がした方角にある崖、そして魔物の存在……と」
「がうがう」
ウルフも頭を使ってくれているのか。俺のメモを取る姿を見ながら小さく唸る。
「よし、まずはその振動音がした崖に行ってみよう」
「ソータ様、本当にありがとうございます!」
エンバーが感激した様子で頭を下げる。
「いや、まだ何もしてないからな。これからだよ」
ウルフが「ガウ」と短く吠え、隣で頼もしそうに立ち上がる。
「よし、準備を整えて明日出発しよう。崖の近くで何か起きているのか、確かめるぞ」




