第二十一話 いざドラゴンのすみかへ
【飛行石】とか言った?
「がう?」
隣でウルフが不思議そうにこちらを伺う。
「【飛行石】? そんなのあんの?」
俺は思わずドラゴンに詰め寄る。
「はい、私たちの住処には【飛行石】があり、代々ご先祖様より大切に守られてきたものです」
マジかよ……。
俺のオタク人生、子供の頃から憧れる、夢のアイテムじゃねえか!?
「飛行石……それがあったら、飛空挺みたいなの作れるんじゃね!?」
幼少時代の記憶が蘇る。
お前らも経験あるだろ? ゲームやアニメで見た飛空挺への憧れが!! 手に入れた瞬間に一気に世界が広がるあの感覚!
空賊として大空を駆け巡る!!
海に浮かぶ不思議な小島や、空中に取り残された浮遊大陸にもひとっ飛びだぜ!
お前らも、ひと切れのパン、ナイフ、ランプをカバンに詰め込んで、父さんが残した熱い想いと母さんがくれたこのまなざしと共に空から落ちてくる少女を救いたいだろう!?
一気に胸が熱くなる。
「がう?」
感慨に耽り、身体をプルプル振るわせる俺を、ウルフが怪訝な眼差しで見つめてくる。
「まさかこの異世界で、俺のオタク人生とDIY趣味を掛け合わせた終着点を見つけることができるとは……!!」
とっくに諦めてた子供の頃の夢が叶うって、大人にとって最高のシチュエーションじゃね!?
俺は拳を握りしめた。
ウルフと同様に怪訝な顔をしているドラゴンのほうに向き直る。
「じゃあ……助けに行くよ」
「いいんですか!!」
ドラゴンが目を輝かせながらぺこぺこと頭を下げる。
「嬉しいです!! 本当にありがとうございます!!」
ゴオッ!
突然ドラゴンが火炎を吐いた。
「うおおおおおおお!!!」
「きゃううううううん!!!」
ウルフも驚いて飛び退いた。
「テメェ! ぶっ殺すぞ!」
「すすすすみません! 感情が昂ると出ちゃうんです! ブレスが!」
ドラゴンが平謝りしている。
「お前んとこの住処、大丈夫かよ? 火事の不始末、多そうだけど」
俺は呆れたように聞き返した。
※ ※ ※
ドラゴンと共に、森の中を進む。
ようやくの自己紹介タイムである。
「わたしはエンバーと申します。ベビードラゴン族の巫女です」
「エンバーか。俺は桐原颯太。よろしくな」
てか、巫女ってことはこのドラゴン、メスなのか。まあそれっぽくはあったが。
「事情があって借金まみれでさ。森の中で生活してる」
「借金まみれ……それでも助けてくださるなんて、本当に優しい方です!」
エンバーが感激して頭を下げる。
いや、【飛行石】が欲しいだけだ。勘違いするな。
「がうがう!」
「こいつは、ヘッジホックウルフ。俺の相棒だ」
「それはそれは……今後ともよろしくお願いします」
とかなんとか話しながら森を歩く。
※ ※ ※
エンバーがガサガサと茂みを掻き分けながら進む。
俺とウルフはそのあとにつづく
ドラゴンの住処とやらはまあまあ遠いらしい。
「しかし、お前よく俺のベースキャンプまで来たな」
「それは……食べ物の匂いが遠くまで届きましたので!」
「いや、どんだけ必死なんだよ……」
移動中、ふとエンバーにこの森について尋ねてみる。
「お前ら一族、この森での生活長いんだろ? ドラゴン以外に、どんな種族がいるんだ?」
どうぶつが喋る。
それだけでも驚くべきことなのだが、この異世界どうぶつのもりなら当たり前なのかもしれない。
だからこその情報収集だ。
「たくさんいますよ。リッサー族、クマイン族、あとフロクス族も。それぞれが独自の文化を持ちながら暮らしています」
まったくわからん。
たぶん、最初から、リス、クマ、フクロウっぽいのかな。
「それって、みんな喋るのか?」
「ええ、今のは一例です。森の動物たちは基本的に言葉を話しますよ」
「……なるほどね」
むしろウルフが異端なのかもしれない。
さらに聞くと、この森にはエルフ以外にも人間タイプの種族が存在するという。
いつかは出会えたりもするんだろうか。
どんどんと森の中をつきすすんでいくエンバー。
「この森は、ずっと平和な場所だったのですが、最近は異常な出来事や現象が増えておりまして……」
ミートラットの大移動もその一つらしい。
「もりのどうぶつたちは困っているんです。食料が減ったり、知らない魔物が現れたり……」
「ふうん……そんなこともあるのか」
俺はふと考え込む。
スローライフとしては気になるな。
今度、もしまたクソ女神が出てきたら聞いてみるか。忙しいとか言ってたけど、絶対あいつ暇だろ。
「ところでお前、飛べないの? ずっと森の中、歩いてるけど」
「ええ、私にはまだ無理です。飛べるようになるには、訓練と特殊な魔力の素質が必要なんです」
「なるほどな……なんかドラゴンも大変だな」
このエンバーの種族はさっき本人が言ってた通りベビードラゴン種らしい。
つまり巨大なドラゴンではなく、小型。
ほんのごく一部のエリートしか空を飛べないのだとか。
それでこうやって森の中を歩いて進んでるのか。
納得。
だから【飛行石】を代々守っているのかな。
気軽に空を飛べる種族なんだとしたら、たしかにありがたみを感じない気もするし。
この辺もあとで聞いてみるか。
憧れの飛空挺のためには、DIYで組み込まなければならないからな。
空賊の道を諦めたくないぜ。
※ ※ ※
どれくらい時間が経っただろうか。
しばらく森を進むと、ついにエンバーの住処が見えてきた。
森に接する山の壁面、巨大な洞窟の入り口が現れ、その周囲にはドラゴンの痕跡が至る所に残っている。
「ようこそ、ここが私たちベビードラゴンの住処です!」
エンバーが誇らしげに胸を張る。




