第二十話 ベビードラゴンのねがいごと
「……このままじゃ、一向に借金返済できねえ……!!」
テントの中で雄叫びを上げる俺。
うっかり、異世界どうぶつのもりでスローライフを極めるところだった……。
あぶないあぶない。
俺は殺される前に借金30億円を返すんだ……。
そんなことをテントの中で考えていると、外からガサガサと物音が聞こえてきた。
「ん……? なんだ?」
外に出てみると、焚き火の近くで何かが動いている。
全身を覆う鱗が赤銅色に輝き、長い尻尾の先が軽く揺れている。まるで何かを訴えかけるような大きな瞳が印象的だ。
「げ……」
そう、一目見たら誰もがわかる。
それは小型のドラゴンだった。
マジかよ、確かに多少凶暴な魔物っぽい気配はあったけど、基本的には牧歌的な異世界どうぶつのもりだぜ。
もうこんなやばい種族来ちゃうの?
「がうがう!」
ウルフが警戒して吠える。
あ! ばか! ウルフ! 吠えたらお前、存在気づかれて襲われるぞ!!!
しかし、そのドラゴンが口を開いた。
「す、すみません……。そこにあるお魚、少し分けていただけますでしょうか……」
え!? 喋った!?
小型ドラゴンって喋るのか!?
驚きながらも耳を疑う。
「わたしたちの住処には、いつも食べていたミートラットが大移動してしまい、全く食料がないのです……頼みます、どうか助けてください」
そのドラゴンは悲しげな声で嘆くように言った。
「助けてくれたら、わたしたちの宝を差し上げます」
「……」
俺は一瞬考える。
「なんかどっかで聞いたパターンだな……」
そして、言葉を続けた。
「いや、遠慮しておく」
「そうですか! ありがとうござ……って、え、遠慮って……!?」
「行きたくないってこと」
「 そ、そうなんですか!?」
小型ドラゴンが目を丸くして驚いている。
「そうですよ?」
俺は焚き火のそばで肩をすくめる。
「でも……その……本当に断るんですか!?」
「いや、だって無理なものは無理だし」
ドラゴンはジタバタしながら、俺の決断を非難してくる。なんか可愛いな。
「そんな……私、どうすれば……うううううう!!」
ゴオッ!
あろうことか、ドラゴンが口から火を吐いた。
「熱っちぃ!!! 」
テメェ、何すんだよ!!
火ぃ、出てんじゃねえか!!
俺は、目の前のドラゴンから出た炎の噴流をかろうじて躱していた。
今の直撃コースだったんだけど。
てか、今のブレス避けれたのすごくね?
マジ無意識。
陰キャリーマン時代じゃ考えられないんだけど。
これはまさか……ギガマンティスとの死闘を潜り抜けて、レベルが上がったとかか?
もちろん【ショップ】機能にはそんな概念はない。あるとすれば隠れステータスか。
「すすすすみません! 感情が昂ると出ちゃうんです! ブレスが!」
ドラゴンが平謝りしている。
くそ、そこまで謝られるとこれ以上は責めづらい。
本当にわざとじゃなさそうだし。
「……そっちが勝手に来たんだから、俺に言われても困るっての」
俺は冷静に意向を再度伝える。
ドラゴンはぐぐいっと顔を近づけて宣言した。
「受けていただけるまでここを離れません!」
「はあ……、ご自由に」
でも、ファイヤーブレスだけは勘弁な。
「じゃ、朝のラジオ体操始めるか、ウルフ」
「ガウガウ!!」
無視して、モーニングルーティーンに入る俺たち。
「うう……こ、こんな理不尽なお方、初めてです!!」
ドラゴンが尻尾を叩きつけながら憤慨しているが、絶対理不尽なのはそっちだと思う。
炎属性で攻撃されたし。
「だって俺、借金30億あるし。お礼って言われても、どうせ、俺が食料あげるだけじゃなくて、やばい化け物退治とか命の危険のある薬草探しとかに付き合わされるんだろ。知ってる」
「そんなことは…………ありません…………よ?」
「絶対ありそうじゃねえか」
よーし、ラジオ体操だいいちー。
ちゃーんちゃかちゃちゃんちゃ、ちゃーんちゃかちゃちゃんちゃ。
ちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ。
ちゃちゃちゃちゃちゃー。
地団駄を踏む小竜を尻目に俺は運動を開始する。
「うう……。我ら一族に伝わる【飛行石】だって差し出す決意なのに……」
ぴく。
思わずラジオ体操を止めてしまう。
てか、今なんて?




