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パンクジャズ  作者: 林広正
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8

 アメリカ軍は、俺たちのいた慰問公演の会場を除き、ベトナムの街を一つ全て焼き払ったんだ。最悪だよな。直ぐにバレてしまったが、最初はそれを、連合軍の仕業にしていたんだからな。その理由は実にくだらない。自分たちの利益のため、その残虐な行為を少しでも正当化するための言い訳だ。他人のせいにしてしまうのが、一番簡単な逃げ口上だからな。バレてしまったとはいえ、当のアメリカは依然としてそれを認めてはいなかったりするんだから、あの国は実に滑稽なんだよ。

 俺たちは、利用されたんだ。俺たちのショウを観るためなら、アメリカ軍だろうが連合軍だろうが、疑いなく集まってくる。周りに誰がいたって楽しめるのが音楽だからな。まぁ、俺たちは最初から守られていたってわけだ。

 ベトナム国民も、三分の一は俺たちの演奏を聴いてくれた。しかしその他は、街の中、爆撃の犠牲になった。全員が死んだわけではないけれど、かなりの人数が死んだよ。悲しいことだが、スティブっ子が恋をした彼女の家族は無事だった。不謹慎だが、それはかなり、嬉しいことだったよ。

 この日のショウは、中途半端に終わってしまった。俺はいつの日か、この日の続きをしようと考えている。このままで終わらせるわけにはいかないんだよ。それは、多くの犠牲者に対しても失礼だからな。

 しかし現実は、難しい。あれからすでに二十年以上だ。なにも変わらない。世界は少しもよくはならないんだよな。あの日をきっかけに、戦争は激しくなった。アメリカへの不信は強くなるばかり。けれどそれは、アメリカ以外からの意見であり、アメリカ人から言わせれば、アメリカの結束も強くなっている。

 ベトナムの街が一つ壊滅をしても、俺は生きている。しかも、あいも変わらず歌を歌う。俺ってなんなんだ? 疑問を感じながらも、俺は歌を歌う。最低だよな。あの日も俺は、ホテルで歌を歌った。誰もいないシャワールームで、シャワーを全開に、裸で声を張り上げる。

 会場からは、街を爆撃したそのヘリコに乗せられホテルへ連れていかれた。もともと泊まっていたのとは別のホテルだ。俺たちが泊まっていたホテルは、跡形もなくなっていた。スティブっ子が恋をした彼女の家族も一緒だった。

 しかし、全ての観客がホテルに避難できたわけではなかった。軍人たちはそのほとんどが大慌てで動き回っていた。なにをしていたのか俺は詳しくは知らないが、もっとも、知りたいとも思わないんだが、軍人っていうのは忙しない生き物だと感じたよ。俺たちとはちょっと違うが、軍人の家族なんかも慰問に訪れている。だが、その全員が避難できたわけではなかった。一番酷いのは、ベトナムの人々だ。避難できたのはほんの僅かだ。スティブっ子が恋をした家族を含めても、数十人ってとこだ。ほとんどがその場に取り残され、自力で生きてきたんだ。壊滅した街は、そんな人等の力によって、二年後には復興したよ。

 スティブっ子は、国に帰って直ぐに結婚をした。家族には俺が家を建ててやった。まぁ、幸せってやつが一つ訪れたんだ。

 しかし、訪れたのはそれだけじゃなかった。俺たちは、まぁ、守られていたとはいえ、慰問公演で始めて身の危険を感じたんだ。こうやって死んで行くんだろうなとの実感は、恐怖を感じる暇もなかった。ホテルに戻り、発狂した後にようやく感じたんだからな。ずっと胸に溜まっていたんだろうよ。

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