表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンクジャズ  作者: 林広正
89/102

2

 俺も子供の頃はしていたんだが、日本では大人になっても絵を描くんだ。もちろんそれは頭の中でではなく、表に描くんだ。壁や床、地面にも描く。空にだって描いてしまう。しかしそれは、最近になってからの話で、紙に描くのが日本の伝承なんだよ。日本式のドアに紙を貼り、そこに描くこともあるが、基本は横長の紙に描いている。長ければ数メートルにもなると言うが、そのまま壁に貼り付けて鑑賞することもあるようだが、普段はぐるぐる巻きにして保存するようだ。なんでも、巻物って呼ばれているようだ。紙には大抵墨を使って描くという。墨っていうのは、煤を膠で固めるんだとさ。どっちも耳慣れない材料だが、この世界でも案外と使い道はあるそうだ。まぁ、俺には直接的には無関係だけどな。墨っていうのは、つまりは黒い個体で、水で溶かして使うんだよ。濃淡をつけるとなかなかに味のある絵が描けるんだが、俺には難しすぎるな。

 俺も墨絵には挑戦したことがある。っていうか、大好きなんだよ。墨絵の巻物はいくつも所有しているくらいだからな。まぁ、あれは日本人でなきゃできないみたいだな。他の国では見かけたことがないよ。

 ショウが言うには、その巻物が、エイガだというんだよ。巻物に描かれた絵は、連続する物語になっているというんだ。俺は実際に目にしたから分かるが、確かにその通りだったよ。流れるように左から右へと物語が進んでいくんだ。まさにエイガそのものだと感じたよ。というか、エイガの原型が巻物なんだと感じたんだ。しかしショウは、それは違うと言った。この巻物は、エイガを元に作られているようなんだと。そもそもエイガは流れるような絵ではないという。写真の連続がエイガなんだよ。別にその写真を絵で描いても構わない。実際に今ではそんなエイガも存在するからな。その写真を連続で映し出すことで、流れる映像になるんだ。ただ横並びにしただけでは、写真は巻物のようには流れていかない。ショウがエイガの存在を知っていたのは、まぁあいつは活動写真と呼んでいたが、それは巻物に描かれていたからなんだ。俺もその巻物を読んだよ。活動写真の上映を描いている物語だった。写真が活動するなんて、あの国らしい表現だと思ったよ。

 撮影機や投影機の作成は思いの外順調だったが、問題はそれを使って写す画像をどう保存するかってことだ。写真機の方はそれほど問題ではなかった。専用の紙を作ればいいだけだったからな。まぁ、いろんな素材を試したから、それなりの手間はかかっているんだけどな。俺たちはその紙を、フィルムと名付けた。理由は簡単で、先先代から譲ってもらった実体のある本の中にfilmの文字を見つけたからだ。なんとなくだが、その文字が写真のことを示しているのは感じられた。そしてショウがいうには、フィルムと読むそうなんだよ。撮影機にもそのフィルムを利用してはいるんだが、その方法に辿り着くのが大変だったんだよ。巻物をヒントにしてはいるが、映像となるとその量が莫大なんだ。出来上がった機械に取り付くような形を考えて、今のような渦巻き型には落ち着いたんだが、量の問題は解決出来なかった。一つのエイガを作るのに、俺は二時間を目安にしている。どんなに頑張っても機械の大きさから判断して一本の渦巻きで十五分間の上映が限界だったんだ。撮影をするときは何本ものフィルムを交換すれば問題はないが、上映するときが問題なんだよ。一台の投影機で交換しながらの上映は間が空くからな。そこでまぁ、数台の投影機を用意することで解決はしたんだよ。エイガってのは、色々と手間がかかる。しかし、その手間があってこそのエイガなんだよ。最近はスティーブを利用したエイガのような映像物語も登場しているが、俺はあれをエイガとは認めていないよ。確かに楽だし、映像も表面的には綺麗だ。けれどなんていうか、感動が薄いんだよな。綺麗だが、味がない。だってそうだろ? 現実にこの目で見るより綺麗な映像に、心は感動しないんだ。エイガの映像は、現実よりは綺麗じゃないかも知れないが、内面に響く映像なんだよ。夢や思い出の中の景色によく似ている。

 俺はまず、先先代の約束を守った。エイガがどんなものなのかを知るには、取り敢えずは撮ってみるに限るだろって考えたんだよ。しかし、いきなり商業的にとはいかないだろ? だから俺は、先先代を主演に物語を考え、エイガにしたんだ。今では幻のエイガと言われ、その世界ではかなり貴重な作品なんだよ。スティーブには記録されていないから、渦巻きフィルムでしか見ることができないんだ。その渦巻きフィルムも現存はしているようだが、誰が所有しているのかは俺も知らない。ただ、時々何処かの街で上映されたって噂を聞くよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ