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パンクジャズ  作者: 林広正
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7

 形のある本のことを知りたいんだと切り出したのは俺じゃない。ショウは、俺の家から勝手に持ち出していた形のある本を懐から取り出したんだ。丁寧にも布で包んでいたよ。まぁそれは、形のある本を守るっていうよりも、スティーブから身を隠すための布だったんだけどな。ちょいとばかり特殊な布だ。中に包めばスティーブには感知されないんだよ。まぁ、俺は普段着にもそんな布を仕込んでいるんだけどな。だからこそ、懐にしまっただけでも問題なく帰り着いたってわけだよ。

 これは一体なんなんだ? ショウはとても興奮していたよ。ただの写真集には感じられなかったからな。まるで統一性がなかったんだ。けれど、不思議と違和感は覚えなかった。よく分からないというそのバーテンの言葉に、ショウはしつこく問いただしていた。なんでもいいから教えて欲しい。これはなんなんだ? こんなにも魅力的な写真は初めて見たとまで言っていたよ。

 だったら先先代に会ってみますか? そのバーテンはそう言ったよ。ショウは驚きに目を丸くしていたな。どういうことだ? っていう言葉が表には出て来ず、頭の天辺に浮かんでいたよ。俺が代わりに尋ねた。あんたはなにも知らないってことか? なにも知らずにこの形のある本を俺に渡したのか? 当然の疑問だよな。

 それについての説明は、俺だからってことで片付けられたよ。俺になら手渡してもいいと思ったそうだ。その形のある本は、そのバーに代々受け継がれていたらしい。一言の条件と共にな。それは、その形のある本に見合う誰かを探せってだけだ。つまりは、その形のある本が俺を求めていたってことだな。

 俺とショウは、更なる地下へと降り、転送装置で先先代に会いに行った。ちなみに先代はバーの片隅でいつもウィスキーを楽しんでいたな。俺はずっと常連だと思っていたから、死んだときにその事実を知らされて驚いたよ。何度か言葉を交わし、お勧めをいただいたりもしていたんだ。アメリカ人で唯一の、モルト好き仲間だったんだよ。まぁ当然、美味いバーボンも紹介されたけれどな。

 先先代の家は、荒野のど真ん中にあった。牛を放し飼いにしている牧場の牧場主をしていたんだよ。まぁ、と言っても家族が経営していたってだけで、先先代はなにもしていない。親から受け継いだ財産でバーを作り、弟に牧場を任していたんだとよ。優雅な人生だよな。幼い頃から金には困ったことがなく、その家にも地下があり、転送装置が据え付けてあったくらいだからな。

 興味はあっても知識が足りない。わしはもう歳だ。あんたが本気なら、少しは教えてもいいが、それには条件がある。会ってすぐに、挨拶も交わさずにそう言われたよ。背の高い白髪混じりの痩せた爺さんだった。俺のイメージとは違っていたな。牧場主で酒好き、禿げ上がった小太り爺さんを想像していたからな。

 こいつはな、エイガの本だよ。エイガってわかるか? 写真ならわかるよな? 写真でさえも、正確には今のものとは大きく違うんだけどな。この本からだけじゃそこまでは分からないだろ? そんな先先代の言葉こそがまるで分からなかった。当時の俺たちの世界での写真っていうのは、スティーブが記録した映像の切り取りに過ぎなかったからな。形のある本の中の写真も、そんな感覚で眺めていたんだ。まぁ、それは正解でもあり、間違いでもあった。だからなんだろうな。あの写真の不思議な魅力の正体はそこにあったんだよ。

 エイガの言葉に、ショウが反応を示した。そんな言葉は聞いたことがない。どういう意味なんだ?

 先先代は笑ったよ。それはわしにも分からないと言いながらな。その言葉は、昔からその形のある本と共に伝わっている言葉だそうだ。意味はわからないが、映画がどんなものなのかの説明はしてくれたよ。そしてその条件もな。

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