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パンクジャズ  作者: 林広正
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6

 俺はそのバーへの道なんて記憶してはいなかった。転送装置の記録とスティーブの記憶を元に大体の場所は見当がついたが、その後が大変だったよ。俺はライヴ後に直接会場の裏口からふらふらと歩いて行ったんだが、途中でトヨタにでも乗ったのかもっていうほどに離れた場所にその店はあったんだよ。その店から転送装置のある場所も、それなりに離れていたしな、その日の俺がどんな状態だったのか、正直知るのが恐ろしいと感じたよ。

 俺が曖昧な記憶を頼りに歩いていると、ショウは的確に俺の言葉を読み取り、時折スティーブで調べごとをしながら、その店を見つけ出したんだ。散々歩き回って苦労はしたが、見つけてしまえばなんてことはなかったよ。看板もなにもないが、その辺りで地下へと通じる階段はそこにしかなかったんだ。まぁ、その入り口が分かりにくくはあるが、それはそこにあることを知らないからであって、知ってしまえば簡単に見つけることができるんだ。地下への階段が、あまりにも地上に溶け込んでいたと言えば分かるか? たまにあるだろ? ずっと近所にあったお地蔵さんに気づかないでいたとかさ。目の前を毎日通っているのにも関わらずにだ。

 お地蔵さんってのは知っているか? こいつは俺の故郷だけに伝わる信仰でな。マルコメ頭の五歳児くらいの石像のことだよ。赤い前掛けをしているのが特徴だな。オデコにはちょっと大きめのイボみたいなのがついている。いつの時代から作られているのかは知らないが、街のあらゆる場所に置いてあるんだ。小屋の中に丁寧に置かれているものもあれば、木陰に置かれていたり、建物と建物の間にはまっていたり、なにもない野原にポツンんと置かれているものまで様々だ。雨曝しになったお地蔵さんに、傘をさしてあげている女性を見たことがあるよ。俺はそんな優しさに恋をした。つまりはまぁ、初恋の相手だってことだ。

 そんなお地蔵さんが、日本にもいるって噂を聞いたときは驚いたよ。まぁ、それもまたごく狭い地域での話ではあったが、俺の故郷とは違い、いくつかの町に点在しているそうだよ。俺も実際に、何体かを確認している。区別がつかないほど良く似ていたよ。だがしかし、俺の故郷と同じで、その発祥理由がわからないんだ。文明以前からって噂もあるが、確かめる術は今の所一つもない。まぁ、人間が考えることなんて似たようなもんだからさ、本当の偶然かも知れないしな。

 そんな町に溶け込んだお地蔵さんのように、地下への階段もまた、その場所に溶け込んでいたんだ。俺とショウは、何度もその前を通り過ぎていた。まぁ結局、最後に発見したのはショウだったんだけどな。俺はショウに言われるまで、言われてからもしばらくはそこにある階段に気づかなかったよ。

 階段に一歩を踏み出した瞬間に、あの日の光景が蘇ったよ。ここで間違いはない。後の案内は俺がしたんだ。

 中に入ると、バーテンに声をかけられた。心配してたんですよと、弾んだ涙声がそう言った。

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