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俺はカウンターの奥にある部屋に連れていかれたんだ。小さな部屋だったな。倉庫でもなく、雑務をこなす部屋のように感じられた。机と椅子以外にはなにもないが、スティーブを使い、机に画面を投影して売上計算とかをしているんだろうと想像したよ。俺はドアに背をもたれていた。そうする以外に立っていられるスペースがなかったからだ。そのバーテンは、壁際の机の下から椅子を引き出し、腰をかけた。そして机の引き出しを開け、中から一冊の実体のある本を取り出したんだ。
Movieの文字は読めなくても、その表紙は魅力的だったよ。いくつもの小さな写真が縦横斜めに張り巡らされていた。写真の上下には黒と透明の小さな四角が交互に並んでいる。一つ一つの写真が、俺にはなんだか物語のように見えたんだ。どれもが違う物語を写していて、俺はそれを眺めるだけで楽しい気分になったよ。
貸してくれないか? 俺がそう言うと、そのバーテンは笑顔でその形のある本を俺に差し出した。なんて言うかな、形のある本を目にしたことがある奴ならわかると思うんだが、その緊張感とたるや尋常じゃないんだよ。俺はそのバーテンが取り出したその形のある本を、少し距離を置いて眺めていただけだった。貸してくれって言うのは、その場で触らしてくれって言う意味だったんだ。しかしそのバーテンは、その形のある本を俺に譲ると言い出したんだ。これはきっと、貴方のような方に読まれるべき本なんですよ。ぜひとも大事に扱って下さい。そんなことを言いやがった。俺は一瞬戸惑ったが、手を伸ばし、その形のある本を受け取った。有り難く頂くよ。そう言って部屋を後にし、カウンター席に指紋を一つ置いていった。スティーブでの支払いにはいくつかの方法があり、一番簡単なのが指紋認証だ。決められた場所に指紋をつければいいだけだ。他の方法も便利ではあるが、一番楽でいいのが指紋だな。指一本で事足りる。おでこをくっつけたり、息を吹きかけたり、網膜をスキャンしたり、オナラを吹きかけるって方法もあるんだが、指紋はどの指でもいいし、掌でもいいんだ。なんなら足でもいい。便利なもんだよ。
俺はその形のある本を、家に戻るまで開かなかった。当時はまだ今のようにどこででも転送はできなかったから、俺は装置のある場所まで形のある本を懐に隠して歩いていった。ちょっとした恐怖だったな。俺のスティーブにはバレなくても、街中のスティーブにバレたらお終いだからな。特別に形のある本を所持することが禁止されているわけではないが、あの国では手にしているだけで犯罪者扱いだったんだ。表沙汰にはならないが、形のある本を所持していた人間が殺されたって噂はよく聞くよ。後から知ったんだが、あのバーには更に地下への階段があり、そこには転送装置が据えつけてあったんだ。俺が姿を消したことに、そのバーテンは驚きに顔を蒼くさせたって言うよ。後日ショウを連れて行ったときに聞いた話だけどな。
俺はショウに、実際に会って形のある本を見せたんだ。もちろん、俺が熟読した後にだ。ショウにしては珍しく、こんなものは見たことがないと興奮していた。写真は、白黒とカラーとが混じっていた。魅力を感じないものは一つもなかったよ。俺は今でも、その全ての写真が脳裏に焼きついているからな。
ショウは、Movieの文字すら見たことがないと言ったよ。まぁ、似たような文字列には心当たりがあるが意味まではわからないとも言っていたがな。




