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パンクジャズ  作者: 林広正
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8

 一人の男が拳銃の引き金を引いた。拳銃ってのは、玉が飛び出る武器の名前だ。その男が、客席で、前の女の頭にぶち込んだ。演奏がうるさくて銃声なんて聞こえなかった。周りで上がる悲鳴にも気がつかない。しかし、吹き出した血飛沫が、ステージにまで飛び散った。その男は客席の二列目に立っていたんだ。銃弾は貫通し、そのとき俺がぶら下げていた六弦に突き刺さった。ライヴ中に俺が六限をぶら下げることはよくあるんだ。と言ってもまぁ、年に数回程度だな。一度のショウでは一曲しか弾くことはないんだけどな。血飛沫は、俺の全身を点々と染めていたよ。そんな俺の姿を見て、観客もメンバーも静まり返った。けれど俺だけが、歌うことを止めなかったんだ。っていうか、止めることができなかったんだ。

 俺が歌い続けている間に、俺の姿を見て逃げ出す奴もいたが、ただ固まるだけの奴や、興奮を増す奴らもいたんだ。最悪だな。興奮に身を任せ、固まった奴らを武器を使って殺したんだ。それだけでは興奮が収まらず、こうした奴ら同士での殺し合いまでもが始まった。俺以外のメンバーはスタッフに引き摺られてステージを後にしたが、俺だけは歌を止めなかった。スッタフは、俺に近づくことができなかったようだ。俺はまさに、狂気の真っ最中だったんだ。

 その事件の結果、死者は確か、二十三人だったはずだよ。最悪の結果だが、俺は無傷だった。メンバーもみんな、かすり傷一つ無かった。唯一は、俺の六弦に穴が開いただけだ。

 多くの犠牲がでたにも関わらず、俺たちはアメリカツアーを続けた。っていうか、そうせざるを得なかったんだ。俺は当然、拒否したが、面倒な契約の問題と、アメリカっていう国のモラルの問題でそうなってしまったんだ。後悔はしているよ。しかし、おかげで世間が騒いでくれた。

 スコットランドに戻った俺は、きちんと謝りの言葉を残した。当然だよな。俺が悪いかどうかが問題じゃなく、ライクアローリングストーンのライヴで事件が起きた。それが問題なんだ。世界中は、俺を許してくれた。しかし、アメリカは違う。それは、アメリカ国民がっていう意味じゃない。あの国は、誰もが罪を認めない。というか、なにが悪いんだというだけだ。国民個人の話じゃなく、そういう国ってことだ。あの事件後も、あの国だけは変わらなかった。世界の意思とは反対に、独自の道を進んでいる。

 事件後、物理的な武器の所持を禁止しようという流れが世界で巻き起こった。アメリカだけが反対をし、いまだに所持を続けている。他の国では、物理的な武器は所持も製造も禁止されている。国民からの反発も出ていない。アメリカでも、当然物理的な武器を所持することへの反対はある。しかし、ああいう国だ。論争はしても、結果は見えている。虚栄心の塊って怖いよな。反対はしても、現実に武器を捨てることを怖がっているんだよ。それこそが、アメリカが世界一にこだわる理由でもあるんだろうけれどな。

 物理的な武器を捨てたアメリカ以外の国も、やはり物理的な武器を持った人間は怖い。その対処法としてまず、物理的な武器の持ち込みを禁止している。しかし、どんなに禁止を謳ったところで、守らない奴は多い。スティーブを使った検査には、抜け道がある。アメリカ国内ではもちろん、国外でも事件は多く起きている。アメリカ人の物理的な武器での事件を止めることは難しい。そこで他の国の奴らが考え出したのが、スティーブによる制限の解除だよ。ある種の条件により、体内に埋め込まれた武器の利用が可能になるんだ。といっても、自己管理のできるものでなく、自然に解除され、本人の意思とは別に作動する。それは少し危険でもあるが、今のところは誤作動も過剰反応もなく上手くいっている。

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