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パンクジャズ  作者: 林広正
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 この世界の始まりは、アメリカにある。それは俺だけじゃなく、この世界の全てが知っていることだ。しかし、どのような始まりだったのかは誰も知らない。当時の様子を描いた形のある本なんて存在もしていない。全てを知るには、スティーブを頼るしかないんだ。そのスティーブの話も、なんだか神話じみていて真相に難しい。

 この世界を作ったと言われる神様が、この世界に息子を落とした。その地がアメリカであり、世界の中心がアメリカであるという話が残されている。聖話、なんて呼ばれているはずだ。その息子の名前が確か、クリストだったはずだ。アメリカじゃ、そんな名前の宗教も盛んらしいからな。文明以前からも続いているんだかいないんだかって話だよ。形のある本の中で、その文字を見たってショウは言っていたよ。クリストの象徴でもある十字架マークは、いたる地に残されている。有名になった頃のショウは、これで俺もクリストになれる。なんて発言をして一部から非難を受け、一部から賞賛された。

 クリストについての話は、俺なんかがしなくてもいいよな? 正直俺は、無心論者なんだよ。この世界の九割がクリスト信者だと発表されているが、それは表向きだな。実際のところ、九割が無心論者だよ。後の一割の中で、いくつかの宗教がその存在価値を争っているってのが現実だ。クリスト教ってのは、アメリカじゃ有名かも知れないが、現実にはただの飾りだな。宗教ってのは、一種のファッションなんだよ。

 俺のいる国は、特に宗教に無関心だ。一年中雨ばかり降っているジメジメした国だからな。神様なんて寄りつかないんだよ。って俺は考えているよ。しかし、ノーウェアマンのいる日本では、別の神様が崇められているんだ。ほっとけさんとかってショウは言っていたよ。それもまた、文明以前にも崇められていたって話だよ。なんだか宗教ってのは滑稽だよな。それがもし本物だとしても、偽物であったとしても、誰もその存在を確かめたことはないんだ。なんとなく感じるのが精一杯なんだよ。しかし、その感じるっていうのが大切なんだよな。いつどんなときでも都合良く感じることができる存在が神様なのかも知れない。そう考えると、俺にも神様はいるんだ。死んだ爺さんがそうだよ。あの家の地下室ではもちろん、どこにいるときだって、俺は常に爺さんを感じながら生きている。

 アメリカっていう国は、そんな宗教を盾に取り、この世界の中心だと主張してきた。別にそれでも構わなかった。どうでもいいんだよ。世界の中心は、常にこの胸の中だ。俺にとっては俺の胸だし、お前にとってはお前の胸っていう意味だよ。そんなことはどうでもいいってことだな。俺には興味がなかったし、世界中の国もまた、興味がなかった。だからこそ世界は回っていたんだ。偽りの平和を願いながらな。

 俺は正直、アメリカツアーには乗り気じゃなかった。けれど仕方がないよな。一応は世界の大国だ。ファンが待っているとなれば、行かないわけにはいかないんだよ。それで結局、事件が起きたってわけだ。最悪だが、あれが世界を本当の意味で変えるきっかけになったんだよな。単純な音楽だけの力でも、世界は大きく変わったが、今のように、本当の意味での変革が始まったのは、あの日以降なんだよ。あの日がきっかけで、戦争までもが巻き起こった。哀しい現実ではあるが、人間らしい世界の始まりは、残酷なものなんだよ。

 ライヴ中に、事件が起きた。人が、幾人も死んだ。しかも、俺の目の前でだ。情けないことだが、俺にはなにもできなかった。ただそこで、いつものように歌い続けるだけだった。演奏が止んでも、歌を止めることができなかったんだ。俺は滑稽にも、目の前で誰かが死んでいく姿を眺めながら、幸せになりたいなんて願いを込めた歌を歌っていたんだ。

 アメリカ人は、常に武器を携帯する。しかも、物理的な武器をだ。あれは危険だよな。誰が持っても、ただ振り回すだけで人体を傷をつけることができる。引き金を引けば、玉が飛び出るタイプもある。どちらも俺は持っていない。あの日は、そんな武器を持った連中が集まり、殺し合いを始めたんだ。

 まぁ、俺たちは、もっと簡単で単純な武器を生まれながらに備えているんだけどな。スティーブを埋め込む本来の理由は、そこにあるんじゃないかって話だ。逆にスティーブを埋め込んだからこそ芽生えた能力だという奴もいるがな。つまりはいまだに、未知の能力なんだろうな。俺たちの武器は、スティーブに制御されなくては危険すぎる。物理的な武器との危険さとはレベルが違うが、スティーブが働いていればなんの問題もない。しかし今、その制御を外そうとの動きがあるが、それの詳しい話はまた別の機会にだな。当然、俺としては反対だしな。

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