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パンクジャズ  作者: 林広正
68/102

5

 結局のところ、光を制御する方法は、ピートしか知らないんだ。俺もミカンも頑張ったが、無理なもんは無理だった。ピートはその方法を言葉では教えてくれるが、真似をしても上手くいかない。なんて言うか、あいつの指捌きが大事ってことだよ。いまだに後継ぎがいないと、嘆いている。まぁ、あいつはその方法を機械化することに成功しているから、今更あの指捌きは必要じゃないんだけどな。機械には任せられない特別な仕事も存在するようで、やっぱり全てを機械任せにはできないとかも言っていたな。俺は一度後継ぎに立候補したんだが、断られたよ。その理由が不味かったんだな。音楽をやめてもいいとまで言ったんだが、まぁ、俺がピートの立場なら受け入れらるはずもない。俺ならその場でぶん殴ったはずだ。実際にそうしたことも一度はあるしな。だがピートはそうはしなかった。勘弁してくれよなと、俺の両肩を掴み、項垂れて泣き出したんだ。俺はピートを抱き締め、すまなかったと、謝った。

 俺がなにをしたかは知っているだろ? そこそこなニュースになったからな。まぁ、結果としてはピートの望み通りになっちまった。そのことについては、俺は今でも、少しの後悔をしているんだ。

 俺はピートの娘に恋をしたんだ。年齢が離れていようが、自分の娘と同い年だろうが、そんなことはどうでもよかった。本当に愛していると、感じたんだから仕方がない。当時はまだ三番目の妻とも別れてはいなかったが、誰かを愛するのに未婚とか既婚とか、世間体なんてどうでもいいんだよ。気持ちがそっちに向かえば、それに従うしかないってことだ。まぁしかし、俺は振られたんだ。確かにそこには愛があったはずだが、まぁ仕方がなかったんだ。俺と父親のどっちを選ぶかで悩み、最終的には父親を選んだってわけだ。俺は彼女が苦しまなくてもいいようにと、覚悟を決めていた。音楽を捨て、ピートの後継ぎとして、彼女と一緒に生きていこうと考えたんだよ。

 俺は本気だった。彼女もまた本気でいたはずだ。ああいった形で死んでしまったことは、とても辛いよ。ピートと俺は親子にさえならなかったが、家族であることに疑いはない。彼女の死は、世間が思っているのとは大きく違っている。彼女は自殺未遂なんてしていないし、薬の過剰投与で死んだってのも嘘だ。俺との破局が、死へと繋がったってのは、全くのデタラメなんだよ。

 ピートがいくら項垂れたからといっても、悪かったなの言葉は出ても、それで彼女との関係が終わるわけではないんだよ。まぁ、彼女はその日、結婚は諦めようと言ったんだけどな。実はその言葉には、別の意味が隠されていたんだ。俺はなにも聞いていなかった。親であるピートでさえ知らなかったらしい。

 彼女は身体に爆弾を抱えていたんだ。血液が脳の近くで固まり、いつ爆発するかわからない状態だったらしい。定期的に病院で、その塊から血液を抜いていたようだが、それが結構な身体への負担だったんだな。外から刺して血を抜くわけにはいかない。そんな方法もあるにはあるが、彼女は週に一度は抜かなくては死んでしまう。身体が耐えられるはずもないんだ。内側から血を抜くために、ちょっとした薬を飲んでいたんだが、その薬の副作用がまた、強いんだ。その薬を作ったのが誰だがは知らないが、薬を入れるタブレットを開発したのはピートだ。ピートは悔やんでいたよ。自分が直接開発に関わっていたなら、副作用を抑制できるタブレットを開発したはずだとな。娘がその薬を服用していることさえ知らなかったんだ。無理な話だよな。しかしピートは凄いよ。その後ちゃんと、副作用抑制のタブレットを開発したんだからな。

 別れようと言われたとき、当然俺は断った。彼女は結局、死ぬまで事情を話さなかった。俺にも、ピートにも。

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