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スティーブに唆されずとも、俺たちはきっと、音源を発表しようと考えたはずだよ。みんなで楽しむって発想は、ごく自然なんだよな。五人で楽しんでいただけだったけれど、誰からともなく友達を誘ったりして、気がついたときには地下室は満杯になっていたよ。こんなに楽しいんだから、他のみんなにも聞かせようって話はすぐに生まれたよ。そのアイディアは、スティーブが先だけど、俺たちを決意させたのは、観客の力だよ。いつの間にか全く知らない客が混じっていたんだからな。
それから俺は、スティーブを使っての録音を開始した。スティーブは本当に便利だよ。生の録音には最適だし、編集にも苦労をしない。しかし、スティーブだけだと、音源を配るのが難しかった。転送すればいいんだが、特定多数に対しては難しいんだよ。不特定多数なら簡単なんだけどな。だから俺は、ミカンと一緒に考えたんだ。個別に音源を渡すにはどうすればいいかってね。
その結果が今のタブレットだよ。これはまさに革命的な発明だな。こいつのおかげで、世界は変わったんだ。それは音楽が与えた影響よりも、ずっと濃いものだった。
俺とミカンは、ただ単純に音楽のことだけを考えていた。こんな結果になるとは思わなかったよ。まぁ、半分はいいことだ。
タブレットの作成には、あいつが役だったんだ。ピートのことはみんなも知っているだろ? そりゃそうだよな。ライクアローリングストーンのサポートメンバーでもあるし、タブレット開発の中心はピートだからな。世界中のタブレットは、ピートの会社
で販売しているんだ。
ピートは音楽を、食べてみようと言い出したんだ。馬鹿げた発想だが、面白いよな。飯は食ったら腹の中だ。音楽だって、腹で鳴るんだよ。腹の底にしまい込まれた感情を爆発させるのが音楽だ。なんてピートは言っていたよ。腹に納めるってのは無理があるが、食べるって発想は最高に的を得ていると思ったんだ。俺たちの頭にはスティーブがいる。そこへ音源を記憶させればいいんだ。身体に影響がないタブレットに音源そのものだけを埋め込めれば、そしてその音源だけをスティーブに送り込めればそれで解決だ。まぁ、口で言うほど簡単じゃなかったけれどな。
ピートはそっちの専門だった。家は食事屋だし、学校ではスティーブについての研究をしていた。俺より年上だけど、最後の年の同級生だ。俺も少しばかり、スティーブの勉強をしたんだよ。
ピートはバカじゃない。自らの意思で学校に残り、研究を続けていたんだ。俺が卒業してからも、数年間通っていたな。二十二年間丸々、受けられる教育をフルに活用したってわけだ。俺の知る限り、そんな奴は他にはいないよ。
タブレットは、情報を光の粒に変換したものをラムネ菓子の中に入れ、固めたもののことだ。それを食べると、ラムネは栄養になり、光の粒だけがスティーブに届く。それを情報として、スティーブが読み込むってわけだ。よく考えたもんだよ。スティーブの通信媒体は光だからな。まぁ、それを粒にするってのは大変な作業だったよ。俺も手伝ったんだが、光ってのは四方八方に飛び跳ねるからな。まずは制御して、それから固めるんだ。光ってのは、言うことを聞かない赤ん坊のようなもんだよ。コツさえつかめば、後は愛情次第だな。




