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パンクジャズ  作者: 林広正
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 俺たちは、爺さんの地下室に集まっては試行錯誤の繰り返しだった。楽器の弾き方なんて誰も知らないしな。俺は形のある本を誰にも見せなかった。ミカンには絵を描いて伝えたんだ。その立ち位置や楽器の構えなんかは、俺は少しも指示を出さない。それぞれが思いのままに手に取った楽器で音を出していた。俺は当初、もう一本六弦を作ってもらい、それを弾きながら歌っていたんだ。まぁ、今でもたまに弾くんだけどな。家でこっそりとだよ。

 俺はミカンに、小さめのサイズにしてくれと注文をした。身体はまん丸で、首は細く、弦も細く、軽くて身体が宙に浮かぶような音を出したいと言ったんだ。そいつはまさに大正解だったな。ちっちゃな六弦のおかげで、俺たちは楽しい音を生み出せたんだ。

 しかしまぁ、結局はその楽器を表に出したことはない。理由はいくつかあるが、第一に、俺が演奏するのを拒否したからだ。あの楽器を手に持っていると、踊りが地味になっちまうんだよ。だから、音源を録るときはいいが、ライヴ向きじゃないんだよ。それからもう一つ、ジョニが奏でる音は、俺の六弦の雰囲気を完全にカバーするんだ。ジョニは凄いんだ。自分の音に俺の音を重ねてしまうんだからな。今はそれがジョニのスタイルにもなっている。

 俺たち五人は当初、地下室で個人的に音楽を楽しんでいただけだ。当時はそれで世界を変えようなんて考えは少しもなかった。っていうか、そんなんで世界が変わるっていう想像すらなかったんだよ。けど、あいつがこのままでいいのかって言い出したんだ。楽しい時間は世界と共有するべきだってね。

 あいつっていうのは、スティーブのことだ。スティーブには人格があるからな、ときには余計はちょっかいを出してくる。まぁ、スティーブのちょっかいがなければ俺たちは今でも爺さんの地下室で満足していたはずだ。

 スティーブは俺たち人間の思考の全てを把握している。だから厄介なんだよ。心で思っていることまで知られてしまうんだからな。スティーブに隠し事は難しい。色々と裏技があると言ってもな、特に思考の漏洩を抑えるには長い時間の訓練が必要なんだ。当時の俺たちはまだ、その思考がダダ漏れだったんだよ。俺だけじゃない。ライクアローリングストーンのメンバー全員の思考がスティーブには見えていたんだ。っていうか、本当のことを言って仕舞えば、世界中の思考が、なんだけどな。

 俺たちが理屈抜きに楽しんでいるのを、スティーブは気に入ったんだろうな。世界中のみんなが楽しくなれる。そんなことを言い出したよ。結果としては確かにそうなったんだけど、俺たちとしては馬鹿げた話にしか感じられなかった。音楽っていう概念がそもそもなかったんだ。楽しむのは、個人的な趣味でしかないと感じるのが当然だったんだよ。周りを楽しませるって発想は湧いてこなかったよ。

 今思えばだけど、俺たちはスティーブに利用されていたんだよ。前にも言ったろ? この世界はスティーブに支配されているかもってな。スティーブは、ノーウェアマンの動きも当然把握していたはずだからな。世界の果てと果てで動き出した新しい文化だ。世界を変えようとしていたスティーブにとっては、好都合だったんじゃないかな? なんて、俺の考えすぎだな。

 しかし、当時の世界が荒れ果てていたのは確かだ。長い歴史の中で、世界中が不満でいっぱいだった。特に争いはなく、表面上は平和だったよ。戦争なんて生誕以前の記憶だったしな。しかし、なにもかもがシステマチックだった。俺たちは、生まれたその瞬間から、ある程度の人生が決められてしまう。そして誰もが、平然とそれに従っていたんだ。しかしそれもまた、表面上はだよ。

 世界に闇があるってことは、不満があるってこととイコールなんだ。スティーブは、いくら制御をかけようとも、結局は全てを知っている。俺がこうして物語っていることも、今はまだ制御しているが、いずれは知られてしまうんだ。俺や世界中のみんなが隠れてしていた悪さも、スティーブは全て把握済みってことだ。

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