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パンクジャズ  作者: 林広正
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7

 そいつは闇の世界で見つけた楽器を勝手に拝借した。闇の店で音楽を聴いていると、どうしても身体が勝手に楽器へと引き寄せられてしまったそうだ。抵抗なんてできない。うずうずが止まらない。そいつは、自分の意思とは関係なしに楽器に手を伸ばしたんだ。そして、想いのままに指を動かした。これがもう一つの、音楽の始まりだよ。

 音楽に目覚めたそいつは、すぐにバンドを組むことを決心した。俺とは違う。そいつは手に入れていた形のある本を見ていたからこそ、身体がうずいたんだ。その形のある本には、楽器を手にして大勢の観客の前でなにかのパフォーマンスをしている写真が載っていた。そいつが楽器を手に持ったのは、形のある本を手にした翌日のことだ。

 そいつは学校の仲間と共にバンドを組んだ。本の写真を真似して、三人組にした。そいつが初めに手に取った楽器は、四弦だ。そいつが言うところのベースって楽器だよ。仲間には一人にギターを、もう一人にドラムを叩かせた。今のもっとも多いバンドの形を作ったのはそいつだよ。ベースが歌うっていうのが、かっこよかったんだ。

 そいつの話を詳しくするのはまた今度だよ。だってそうだろ? そいつ自身に語ってもらうのが一番だからな。と言ってもそいつはすでに死んでいるんだが、そいつ自身の言葉を再現した物語が発表されればって、俺は少し考えているんだ。まぁ、いつの日かの話だけどな。

 俺は楽器を作り、まずは一人で楽しんでいた。爺さんの地下室でな。あそこなら誰にも邪魔されない。爺さんは絶対に、俺がなにをしてても文句を言ってこないしな。それに、あの家には近所ってものがない。今でもそうだ。どうしてだろうな? あの家だけが、古くからずっと残されている。いつの時代からなのかはどうでもいいとして、あの場所だけでなく、この世界に、今や煉瓦造りの家は爺さんの家だけなんだよ。俺はそれを調べたんだ。スティーブが言っていたんだから、間違いないだろう。

 今はもう、爺さんはいない。けれど、煉瓦造りの家は残っている。俺がそうしようと思ったわけじゃない。国が、残せというんだ。壊してはいけない文化財とかいうやつに指定されているよ。まぁ、俺としても壊すつもりなんてなかったけれどな。正直、国に管理されるのはいい気分じゃない。だから俺は、金を払って自分で管理する権利を毎月買っている。

 この世界は実につまらない。世界が全てを支配し、それに国が従っている。そして俺は、その国に従っているんだけどな。抵抗はしても、反抗はしない。俺は案外と弱いんだ。

 国ってやつは、世界中に散らばっているが、その中にいるのは結局のところ同じ人間だ。その中にある街だって同じことだ。けれど、世界は違う。この世界は、一つきりだ。しかも、なんだかわからない奴らが仕切っている。音楽を生み出した俺でさえ、そいつらには直接会ったことはない。ただたまに、チケットの手配を頼まれたり、どこかの国のお偉いさんと会ってくれと頼まれたりするだけだよ。もちろん、スティーブを通してだ。

 この世界には、多くの謎があるんだ。文明以前の消された文化も、意図的なんじゃないかって噂もあるしな。音楽や映画を生み出した俺は、危険人物として命を狙われているって噂は今でも根強い。

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