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ナオミは月で、飲食店を経営することを義務づけられていた。移住者にはそれぞれの技能や経験にともなった仕事が割り振りされるんだ。ナオミが移住した当初、月はまだ、人が生活するには不十分な世界だった。と言ってもそれは、計画が遅れたせいではない。計画通りの不十分だったんだ。自らの力で月で生活できるように開発していくのが第一陣の役目ってわけだよ。計画が遅れたのは、そのための準備が遅れたっていう意味だ。月では調達できない資材を運んだり、人が生きていける空気や飲食に対する環境を整えていたんだ。
移住者は、自らの力で今の月世界を作っていったんだ。ナオミはそこで、労働者を支えるハンバーガー店を経営した。もちろん、それ以外の仕事もしていたんだ。住居や道路などの整備にも力を貸したそうだ。転送装置の発展にも貢献している。なんせ俺の娘だからな。祖父の血が流れているってわけだ。
俺はナオミから、ちょっと不思議な話を聞いた。月へ行ったのは、この世界の人類が初めてのはずだ。しかし、ナオミは道路整備の手伝いの最中にあるものを発見した。俺は実物を拝見しているから確かなことが言える。あれは間違いなく、明らかに文明以前の世界の品物だよ。
ナオミはそれを、砂の中から探し出した。布でできたタオルのような大きさのそれは、赤青白の派手な模様だった。俺は最初、スティーブに送られてきた画像で見たんだが、すぐに思い当たったよ。青の中に散りばめられた白い星、赤と白のストライプ、印象的だよな。俺はそれを、形のある本の中で見ていたんだ。つまりは文明以前の品ってことで疑いはなかった。
俺はナオミに、それのことは誰にも話すなと言ったよ。文明以前の人類が月に渡っていたなんてことは、きっと、知ってはいけない秘密だからな。スティーブに知られた画像もすぐに削除をさせ、適当に情報を操作して誤魔化した。タオルのようなそれは、俺が月に行ったときに預かったよ。それがなんなのかはいまだにはっきりしていないが、危険なことに違いはない。
宇宙開発には、文明以前の文化からの影響は一切ないはずなんだ。文明以前の人類は、月はおろか、大気圏さえ突破していないことになっている。確かにそんな証拠は一つもないが、俺だけは知ってしまった。俺はこの秘密を、ナオミにも説明していない。ただ、タオルのようなそれのことは忘れてくれと、真剣な眼差しで伝えただけだ。ナオミは賢い。たったそれだけで、俺が言いたいことを理解してくれたよ。
ハンバーガーの味は、月へ飛び出す前に決めていた。月へ行ってしまえば、連絡は取れるが転送はできない。会えない時間が長いってことが、あんなにも辛いとは初めて知ったよ。宇宙への転送が可能となったことは、あまりにも喜ばし過ぎる。




