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パンクジャズ  作者: 林広正
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 睡眠時間と食事時間を削った俺を、つまらない奴だと娘はよく言っているよ。ナオミは、食事をクッキーで済ませる俺が気に入らないようだな。

とは言っても、俺だってたまにはまともな食事を摂ることもある。ナオミの店にはよく顔を出すしな。あの店の味を決めたのは俺なんだぜ。って言っても俺は、いくつかのハンバーガーの中から一つを選んでこれが美味いって言っただけなんだけどな。

 次女のナミコから言わせると、睡眠だってしっかり摂ることは大事なんだそうだ。仮想睡眠装置では身体の疲れは取れても、心の疲れは取れないって言われたよ。俺はそんな風には思えないが、夢を見ないのがその証拠なんだとさ。確かに俺は、夢を見ない。けれどそれは、寝ている間だけの話だ。起きている間は、夢しか見ない。夢ってのはさ、空想とは違う。叶えるための目標みたいなもんだろ? 俺にとってはだが、叶わない夢はない。なんせ俺は、叶うまで夢を諦めないからな。例えどんな無茶な夢でもな。

 寝ているときに見る夢は、心を癒してくれるそうだ。見る夢によって、その日の心の状態を知ることができる。そんなことになんの意味がある? 心ってのは、己自身だろ? 癒すもなにもない。心のコントロールは、己ですればいいんだ。とは言っても、俺だってバランスを崩すことはあるんだがな。酒に溺れたり、ちょっとおかしな草木やキノコに手を出したりすることもある。まぁ最悪俺は、スティーブに頼ることにしているんだけどな。スティーブによって内側から癒してもらうのが確実なんだよ。その日の心の状態も、スティーブは俺自身よりもよく理解してくれているからな。

 けれどまぁ、こうは言っちゃなんだが、スティーブってのは嫌われ者だろ? 心をスティーブに晒すのが裏切りだと感じる奴がいまだに多いんだよな。俺がこんな発言をすると、そっち側なのかなんて疑われるが、よく考えてみろよ。俺たちは生まれながらにスティーブに監視されている。支配されていると言っても間違いじゃない。心の問題なんてな、遠にお見通しだろ? 利用できるもんは利用するのがスマートなやり方なんだよ。夢に頼る理由が分からない。

 けれどな、ナミコは俺のそんな考えを否定する。夢に表れる意識は、スティーブさえ気がつかない深層心理の表れなんだとさ。ナミコは、夢診断をメインとした夢の研究を仕事にしているんだ。まぁ、学校の先生ってわけだ。この世界では、なにかの研究をするには先生になるのが都合いいからな。中には企業に属していたり、フリーで仕事したりしているのもいるが、それってあまり金にはならないそうだ。政府側の立場である先生ってのが一番都合よく研究できるってわけだ。色々制限はあるらしいが、そこんところは学者らしく上手く渡る方法があるんだよ。政府側の奴らは、結局のところバカだからな。専門用語を並べながら、下手に話を進めると、簡単に研究を進められるってわけだよ。と言ってもさ、御存知とは思いますが・・・・ なんて前置きを入れるだけなんだけどな。

 ナオミとナミコは年子なんだ。二人は仲がいい。ナオミもナミコも、初めは学校で宇宙の勉強を専攻していたんだ。ナオミはその経験とそのときの仲間を頼りに月へと渡った。ナミコは、宇宙で暮らすことへのストレス軽減のための研究として、夢診断を選んだんだ。

 二人が宇宙に興味を持った理由は、俺にあるそうなんだが、俺には心当たりなんてなかった。説明をされても、いまだに理解できていない。俺はただ、歌を宇宙に届けただけだ。あれはなんとなくの思いつきで、光の波に音楽を乗せ、宇宙に解き放ったんだ。光ってのは、驚くほど遠くまで届くんだよな。俺たちの音楽は、今頃全宇宙で鳴り響いている。

 宇宙開発が本格的に始まったのは意外と新しいんだ。俺が子供の頃にはまだ、月へ行くのが精一杯だった。防護服を着て、飛行型のスニークで飛び出してく。地球の軌道から月へと飛び出すのは簡単だ。そういった計算はスティーブが得意としているからな。エネルギーの問題もない。光っていうのは、宇宙空間でも得ることができるんだ。宇宙への旅は、月へ向かうことがその第一歩だった。

 月の開発は、意外と時間がかかったんだよな。ナオミは運が良かった。予定通り進んでいたら、第一陣の移民に選ばれることはなかっただろうからな。月への移住計画は、十年遅れて実現された。ナオミが宇宙の勉強を始めた直後くらいに計画は発表されたんだが、当時のナオミに移民になる資格はなかった。第一陣になることは諦めざるを得なかった。月への移住は大人気だったが、第一陣に限っては資格さえ得ていれば全員選出されることになっていたんだ。こんなチャンスはないよな。第二陣も予定はされていたが、選考基準がぐっと厳しくなるって噂だった。計画が十年遅れたおかげで、ナオミは資格を得ることができ、そのまま月に旅立ったよ。今では月への転送も可能だが、当時はまだスニークに乗って飛んで行くしか方法はなかったんだ。転送装置は月にはまだなく、最新技術でも月への転送にはリスクが大き過ぎたんだ。

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