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パンクジャズ  作者: 林広正
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 俺が子供だった頃は、クッキーが食事の主流になっていた。乳歯ほどの大きさで、口に入れるとすぐに気化してしまうんだ。時間を使わなくてもいいってのが一番の魅力だったな。食卓に着かずとも食事ができるしな。忙しい俺にはピッタリだったんだよ。学生時代は今よりも忙しかったからな。やりたいこともやることも多く、食事の時間は睡眠時間同様に無駄だったんだよ。まぁ、家族と食卓を囲み、会話をしながらの食事が大切だってのは理解できるが、食事をしながらじゃなくとも団欒の時間は持てるからな。睡眠だってそうだ。この世界には仮想睡眠メガネがあるからな。あれをかければ一時間で一日分の睡眠が確保される。メガネってのは本来、視力矯正用の器具なんだが、今ではそんな使い方をする奴は一人もいない。これもまた文明以前からの品物だよ。こいつについては、俺は証拠を掴んでいる。文明以前の形のある本で見かけているからな。俺には当時の詳しい用途は分からなかったが、調べるとすぐに答えが見つかった。文明以前の世界では、目が悪くて困ることが多かったらしいんだ。今では考えられないよな。今じゃ例え目玉がなくたって、スティーブが映像を脳裏に届けてくれる。寝ながらだって、三百六十度の景色を確認できる。とは言ってもまぁ、肉眼で見ることを求める奴らは多いんだ。俺もそうだが、映像を通してよりも、肉眼で見る方が外面も内面もよく見えるってもんだ。特に真実を見るには肉眼の方が信頼性に増す。だから俺たちは、目が悪くならないようにできているんだ。視力の低下がほんの少しでも感じられると、スティーブが内側から処置してくれるんだよ。目や耳、鼻に関する異常なら、スティーブの力だけで直すことがほぼ可能だ。まぁ、どんなことにも例外はつき物だがな。俺たちは、クシャミをすることさえ難しい身体なんだよ。鼻の穴に綿毛の草花でも突っ込まない限り不可能なんだ。まぁ、子供の頃にはそんな遊びが流行っていて、俺はしょっちゅうクシャミをばら撒いていたんだけどな。

 メガネをかけるのは、視力を矯正するってのが最初の目的だったようだが、いつの日からか、ファッションアイテムに変わっていったそうなんだ。

今の世界でも、俺が生まれたころにはまだそんなメガネをかけている奴がいたもんだ。って言うか、俺の親父がそうだったからな。まぁ親父の場合、ファッションと言うより、視線を誤魔化すためだったようだがな。他人に瞳を覗かれるのが嫌いだったんだ。

 そんなメガネの形をした仮想睡眠装置は、俺にはなくてはならないアイテムだな。あれを使うことで、俺の自由が長くなる。曲を作ったり、遊んだり、酒を嗜んだりする時間が増える。最高の発明だと俺は感じている。ただ、これは完全な主観的意見なんだが、メガネってダサいよな。肢を耳にかけるってのがまずダサい。鼻にまで支えを引っ掛けるんだ。特に俺は、それが我慢ならないんだ。耳の痛みだけならまだ我慢ができるが、鼻へかかる重みとあの違和感だけは我慢ができない。なんだか催眠術にでもかかっているようであり、無理矢理寄り目にされているようでもあり、眉間に得体の知れない圧力がかかるんだよ。さらにその形も俺好みじゃない。丸だか四角だかの薄い透明な板がいつも目の前に浮かんでいるんだ。なんども言うが、ダサいよな。親父がかけていたのは黒い板のメガネだったが、それでもやっぱりダサかった。今でもたまにかけている奴を見かけるが、親父を思い出す懐かしさはあるが、ダサいなって感情が芽生えないことはない。

 仮想睡眠メガネは、耳にかける肢も鼻にかける支えもない。目の前を邪魔するものもない。目を瞑ってしまうからな、それは邪魔じゃないって言う意味だ。ジェリー状の丸い板を両目に乗せるんだ。立っていても落ちることない粘着性があり、貼り付けると即時に睡眠を誘う。これをメガネと呼ぶには抵抗がある奴らもいるが、物の名前ってそういうもんだ。なにかになんとなくでも似ていれば、そんな名前を付けてしまうんだよ。新しく考えるより全然楽だからな。まぁ、名前なんてどうでもいい。俺はこの仮想睡眠装置がお気に入りなんだ。

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