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パンクジャズ  作者: 林広正
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 大変な騒ぎになっているけど、本当にやるのか? そんな言葉を言ったのは、ミカンだ。なんのことだ? 俺は本当になにも知らないでそう言い返したんだ。するとミカンは、ならいいんだけどななんて言ったきり、話をそこで打ち切ってしまったんだよ。その後のことは、正直俺は関知をしていなかったし、その日が来るまで知らずにいたんだ。嘘みたいな話だろ? あれだけの大騒ぎになっていたのに、当事者の俺が蚊帳の外状態だったなんてな。まぁ、俺って奴はいつでもそんな感じだっていう奴も大勢いるんだがな。

 俺の耳に、少しも情報が入ってこなかったってわけじゃない。他のバンドやら関係者以外にも、ファンや街中の住人たちから声をかけられることは多い。頑張って下さいとか、楽しみにしていますなんて言葉に、疑問なんて感じない。また新しいことを始めるんですねと言われ、なんのことだ? とは感じたが、俺は常に新しいことを求めて活動をしているから、昔から続けていることだって相手によっては新しいことに感じるんだって思う程度だったんだよ。一緒のステージに立てるなんて幸せですなんて言う若いバンドの言葉も、俺たちが演奏したことのある同じ場所でライヴをやるんだろうくらいにしかとらえなかったよ。俺たちが演奏していた会場は、そのほとんどが音楽の聖地と呼ばれているからな。俺たちが世界で初めてライヴとして使った会場は多いんだよ。音楽専用の会場を作ったのも俺たちだしな。世界中のあちこちに聖地が存在してるってわけだ。このときのフェス会場もそうだ。今でも毎年続く老舗のフェスであり、やはり、聖地と呼ばれている。変な言葉だよな。聖地なんてさ。宗教的な匂いはあまり、好きじゃない。

 結果として、フェスは大成功だった。俺が生まれた街の農場を会場にし、幾つものステージを設置したんだ。俺は知らなかったが、参戦グループの数が百は超えていたらしいからな。俺が声をかけた奴らが、ねずみ算的に広げていったんだよ。俺は初めに、生まれ故郷で開催したいと言ったんだ。日付は、母親の誕生日にしようかと言ったが、俺の母親だけの日じゃちょっと自分勝手が過ぎるからな、母の日にしようと言い直したんだ。計画は俺を無視して進んでいき、母の日を挟んだ三日間の開催が決まった。ちなみにだが、俺の母親の誕生日は母の日の前日で、父親の誕生日が翌日だった。

 三日間のフェスは、夜通し行われる。全ての会場でってわけじゃないが、どこかの会場で必ず音楽が聞こえてくるようになっていた。俺たちは主催だからな。メイン会場でのトリを三日間任されたよ。

 ナオコがステージ裏に現れたのは、最終日のことだ。あいつの担当していたバンドの名前は覚えていない。残念なことだが、フェスに参戦した全てのバンドが俺のお気に入りだったわけじゃないからな。俺が知らないだけでいいバンドも多くいたことだろうが、つまらないバンドが混じっていたのも確かなんだよ。あいつの担当がどうだったのかは別としてな。正直俺は、一度見ているはずなんだが、まるで覚えていないんだよ。

 俺がナオコに気がついたのは、演奏がスタートして一時間ほど経過してからだった。俺はステージを走り回るが、ステージ上では一切水を飲まないんだ。それでも汗はかくからな。当然喉が乾くんだよ。曲の合間にステージ裏に走り、水を頂くことがある。だいたい俺は、二回ほど水を飲むんだ。五百ミリ入った一本のボトルを一気飲みだよ。あの日もそうだった。そして、一気飲みをしている俺の姿を見つめる視線に気がついたんだ。

 俺は飲みかけのボトルをそのまま落とし、視線の先へと歩き出した。ほとんど無意識だったよ。そしてそのままの勢いでナオコを抱き締め、キスをしたんだ。参るよな。その光景が映像としてステージ奥の壁に映し出されたんだからな。

 その後の俺は、いつもに増して元気が良かった。演奏も観客も、それまでで最高の盛り上がりだったよ。あれが演出じゃなかったのが良かったんだと俺は思うが、あの後からだな、ライヴ中の演出が増えたのは。次第に過剰になっていく演出の先駆けだったんだよ。

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