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波濤揺蕩う神殺し  作者: 韋駄天
病の神のパレード編
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ジェイクの記憶

「僕に策があります」


「乗った」


間髪入れずにジェイクの提案を承諾するシース。


「まだ何も説明してませんけど」


「あたしに策は無い、あるのはこれだけだ」


そう言ってシースは(落ち椿)を構え直す。


自分にできる事は切る事のみ、他は全てをジェイクに託すという彼女なりの意思表示だった。


「解りました・・・反対側に回り込んで、奴の注意を引いて下さい」


頼られているという責任からか、それとも自分しか頼る者がいないという開き直りからか、ジェイクは簡潔に自分の考えを伝え、二手に分かれた。


「はぁ・・・ははっ、作戦会議は終わったか?」


「終わったとも、あんたの方こそ祈りは済んだか? 好きな神に祈れ」


ズタズタに切り刻んだはずの傷がゆっくりと塞がる様子を見ながら、シースの闘気は萎える所かさらに燃え上がった。


百の太刀で殺せないなら、千の太刀で迎えるまで、彼女は何処までも己の心情と脅威に対して愚直だった。


「祈る? あぁ、それはこれからだ、お前の亡骸の前で、来世はもっとマシな人生になるように、祈ってやるぞ」


シースが注意を引き付けている間にジェイクはぐるりと沼を周り、ジョンドゥの背後に回り込むと(門)を開いて神を賛美する旋律を唄う。


「いと愛しき我等が神よ・・・」


ジェイクの言葉に呼応するかのように(門)が光を増すと、辺りはまるで海中のように輪郭がぼやけはじめ、何処から讃美歌の合唱が木霊する。


ザダの力があらゆる障害を越えて自身へ集まってくる感覚をジェイクは覚えていた。


「だが、まずはこっちからだ!」


ジョンドゥは何の前触れも無く、まるでジェイクの歌を待っていたかのように振り向くと、泥の中を全力で駆け出した。


「来た!」


突然ジョンドゥの矛先が自分へと向けられたことに気付いたジェイクは、慌てて讃美歌を止めて脱兎の如く駆け出す。


「お前は後回しだシース、先にこいつを殺る、こいつはグルグルの事に詳しい、また邪魔されると困るからな」


シースを真正面から仕留めるのは困難であると判断したジョンドゥは、まず戦力をそぎ落とすことから始めるようだ。


最初はもちろん、目障りな取り巻きから。


「待て、この!」


自分から遠ざかってゆくジョンドゥを止めようと、シースは懐から小刀を取り出すと全力で投擲する。


向かい合った状態では防がれるだろうが、今のジョンドゥは彼女に背を向けており、避けられるはずもない。


得物は一直線に標的の左足に向かい、踵の肉を裂き、骨を抉った。


「ぐわっ!・・・この程度、かすり傷だ!」


バランスを崩したジョンドゥは勢いのまま地に倒れ伏すが、すぐさま刀を引き抜き立ち上がると、シースを無視してジェイクへの追撃を再開する。


全速力で来た道を戻るジェイクを必死に追うジョンドゥ、本来であれば2人の身体能力の差は歴然であり、あっと言う間においつかれてしまう所だが、シースに受けた傷を放置したまま追走するジョンドゥはグルグルが持つ本来の速度が出せないでいた。


寝台のある広間を抜け、アザミの咲く道を駆け、ついに橋のかかっている川までたどり着いたジェイクは、ちらりとだけ後方を確認すると、川へ身を投げた。


「あれ、ジェイク、どうした?」


「今すぐ隠れてください!」


そう告げるとジェイクは一気に川底へと身を沈めてゆくが、状況が飲み込めないカトリーヌはそれを怪訝な顔で見ていた。


「おいおい物騒だな、オイラが・・・ワーーーー!」


突如目の前に現れたグルグルの姿に悲鳴を上げると、カトリーヌは一目散に岩の陰に隠れた。


「何処へ逃げても無駄だぞ!」


躊躇なく川へ飛び込んできたジョンドゥは、水中にも関わらず声を上げて恫喝する。


彼等は取り込んだあらゆる記憶の力を駆使してジェイクを追い詰めようとしていた、それほどまでにシースへの恨みは深いのだ。


ジェイクは背後を気にしながらも水中にある洞窟へと入り込む。


中は暗いが広く、ジョンドゥの侵入を拒む事はできそうにもないが、それでもジェイクは迷うことなく奥へと進んだ。


「自ら袋小路に入ったか、すぐに殺してやるぞ! あの手この手でな」


つい先ほどまでジェイクの体があった所に斬り落とされたはずの手が伸びてくる。


ジョンドゥはすでにシースから受けた傷の再生を終えていた。


追いつかれるのは時間の問題だろう。


「もぅ袋のネズミだな、ははっ! 鳴いてみるか、チューチューってな」


洞窟は内壁にへばりつく発光する藻のおかげで何かにぶつかる事は無かったが、背後から進んでくる怪物は水であろうが壁であろうがお構いなしに腕をかき、前に進もうとしていた。


ジェイクは考えていた、どうすればこの化け物を確実に処理できるか。


ただ、それだけを。


「やるしかない・・・か」


そうして洞窟はついに終着点を迎えた。


進む先は古びた扉によって閉ざされており、開かなければ奥には進めない。


ジェイクがその取っ手を掴もうとしたその時、強烈な力で足を引っ張られ、彼の腕は空を切った。


「どうだ! 捕まえたぞ、命乞いでもするか? 聞いてやるぞ、ここならシースも追ってはこれまい、存分にお前の恐怖を、このジョンドゥに開放してみせろ!」


ジェイクが振り向くと、そこには耳まで裂けた口で笑うジョンドゥがいた。


外見は内面の鏡であるという話は良く耳にするが、ジョンドゥの妄執は肉体を捻じ曲げるほどに肥大化していた。


もはや、ジェイクの知っているグルグルの面影すらない。


人間の精神が生んだ悪夢。


ここに来て、ようやくジョンドゥは自らの本質を限界まで高めていた。


全てはシースを葬る為に。


「・・・ここが誰の記憶かご存じですか?」


ジェイクは低く、抑揚のない声で話した。


その目に恐怖は映っていない。


追い詰められた人間の台詞とは思えないほど落ち着いた声が、ジョンドゥの神経を逆なでする。


「あぁ? 知らないね、興味ないね、何しろ初めて見る場所だ、今日初めて入ってきた新入りかな? しかしそんな事を気にしている暇があるのか? 今のお前に」


ジョンドゥは不愉快だった。


自分は恐怖の体現である、このちっぽけな男が最も恐れた存在と同一化している。


それは紛れも無い事実であるはずなのに、目の前の現実がそれを否定している。


その矛盾が、彼の怒りで鈍った思考をさらに乱した。


「そうですよね、知っていたら僕をここまで追ってくるはずはありません」


その言葉と共に、洞窟内部は突如明るさを増す。


光源は、ジェイクの背後にある古びた扉の隙間からだった。


その奥から、とてつもなく巨大な(何か)が蠢く気配がする。


思念公園の全ての恐怖をかき集めても、到底追いつかない(何か)が。


「ジェイク君、見てはならん!」


扉の奥から聴きなれない声がジョンドゥの耳に飛び込んでくる。


その声の主は何かに焦り、これから飛来する最悪の未来を予感させた。


そしてジョンドゥの意識の片隅に、1つの仮説が芽生える。


「・・・誰だ、今の声は?」


それは流行り病のように思考を埋め尽くし、他を駆逐してしまった。


自分はこの男を捕まえた。


それは紛れも無い事実だ。


しかし、いや、もしかしたら・・・。


捕らえられたのは、自分の方なのでは?


扉の奥にいる(何か)に。


「ここは僕の記憶です・・・紹介しましょう、我等の偉大なる神を」


ジェイクは掌に門を構築するが、そこから何かが飛び出す気配は無い。


ただ勢いよく水が流れ、閉ざされていた扉を開放しただけだった。


扉の奥は青白い光で満たされており、ジェイクとジョンドウは一気に真夏の太陽と見紛うほどの光に包まれた。


「あ、あ、あれは、あれは、あれは!」


そしてジョンドゥはジェイクの背後、その奥で光を放つ神を目撃してしまった。


その御身を視界に収めた者は、同次元の存在である別の神か、ザダの分け身である血族でなければ精神を破壊されてしまう。


それはジョンドウとて例外ではない。


「あああああああああああああああああ!!!」


ジョンドゥの意識が、精神が、脳が、神の圧倒的な質量に押し潰され、粉みじんに砕けてゆく。


恐怖も、トラウマも、あらゆる過去も、神の前では塵に等しい。


「あ、あ、あ・・・」


やがてジェイクの足を掴んでいた指から力が抜け、ジョンドゥは全身を弛緩させたまま動かなくなった。


「名誉な事ですよ、ザダ様に謁見する機会を賜るなんて・・・まぁ、聞こえてないでしょうけど」


ジェイクはもはや植物同然であるジョンドゥを引っ張り、地上にいるシースの下へと運び始めた。


神の光を背に受け、決して振り返る事無く、胸の中で感謝を述べながら。


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