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波濤揺蕩う神殺し  作者: 韋駄天
芸術の街アンチェイン編
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ある男の記憶

ホコリっぽい空気、散らかった絵筆、破かれた無数のキャンバス。


外には雪がちらつくほどの寒さだというのに、一切の暖房が焚かれておらず、吐く息が白く濁る、こんな所で創作活動など、正気の沙汰ではない。


奴を除けば・・・の話だが。


室内には似合わない毛皮のコートに毛むくじゃらの熊のような頭、荒っぽい呼吸でキャンバスへと向かう背中はまるで獣のようだ。


しかし、その筆使いは本物だ、一筆で命が宿り、魂の鼓動が聞こえる。


彼は人物画の天才だ、どこまで神に愛されればこうなるのか。


足元で音がした、見ると折れたデッサン用の木炭を踏みつけたらしい。


せっかく磨き上げた靴だというのに、不快だ、不快で仕方がない。


何故このような者に芸術の神はほほ笑むのか?


それとも、何もかも持たざるがゆえに、慈悲深い神が憐れんでいるだけなのか・・・理解に苦しむ。


「誰だ? 勝手に入ってくるな」


「ノックはしたぞドーベルマン、盗人みたいに言わないでくれたまえ」


ドーベルマン・メジンスキーは美術学校時代の私の同期だった。


学生時代の4年間は私の人生で最も忌むべき時だ、それも全てこの男のせいだ。


皆の羨望の眼差しも、称賛の言葉も、首席のイスも、何もかも私から奪った悪魔め、その報いを受ける時がもうじき訪れるぞ。


「ヨハンか・・・一体何の用だ、見てのとおり忙しいんだ」


「君の様子が気になってね・・・来週がコンクールの締め切りなんだ、まだ仕上がってないみたいじゃないか?」


「ふん、余計なお世話だ・・・今調子が出てきた所なんだ、邪魔しないでくれ」


「そうか、調子が出てきた、か・・・それは良かった」


良かった、本当に良かった。


調子が出ずにコンクールを辞退なんてされたら、それこそ計画が台無しになってしまう所だ。


「そうだ、最高にな、だからとっとと出てってくれ」


「解った、そう噛みつくな・・・当日を楽しみにしているよ」


そうなんだ、私は当日が待ち遠しくて仕方がないんだ。


会場で君にどんな評価が下されるだろうか、どんな言葉が投げつけられるのかな?


あぁ・・・その時が楽しみで愉しみで憎しみで蔑みでしょうがないよ。

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