束の間の休息
「・・・何ですか、これ?」
「どうやら、昨日は飲み会があったみたいですね」
真面目な文体に馬鹿馬鹿しい内容が書き連ねられた報告書に、2人は開いた口が塞がらないようだった。
毒や危険物でない事は2人も解っていた事だが、まさか飲んで騒いだあげくに管理者から釘を刺された文書が流れてくると誰が予想しただろう。
「大丈夫かしら、この教団? 肝心の病気や呪いの治癒に関して何も明記されて無いではありませんか・・・」
「ん~、ウチは色々とゆるい所がありますから・・・それに血族達は人間より病気に強いので、そっちの調査はこれからなんでしょう・・・たぶん」
ジェイクは教団を庇護するが、メリッサの視線に耐えかねたのか目をそらす。
「はぁ~、教団との契約とは言えせっかくの賜り物を売り渡すなんて・・・ワタクシ、神様に合わせる顔がありませんわ」
「まぁまぁ、あんな金ピカの酒器持ち歩くわけにもいかないですし、調査預かり扱いにしてもらっているのでいつでも引き出せますから、質に預けたと思えば・・・お金がないとご飯も食べられませんよ」
ジェイクの言う通り、神殺しの酒器は教団が買い上げたわけではない。
神々の秘宝ともあれば莫大な金額になる事は間違いなく、教団も全てに即金で応じれるほどの財力は無い。
そのため今回は調査預かりという形で継続的な調査を行いながら、冒険者には秘宝の利用料を定期的に支払う、という方法を取っている。
雫の神もメリッサが野たれ死ぬ事は望んでいないだろう。
「たしかに、先立つ物は必要ですわ・・・お酒は人生を豊かにしますけど、それだけで生きては行けません」
メリッサは腰にぶら下げていた瓢箪の栓を抜き、中身をあおった。
猿酒がメリッサの胃から全身に行き渡り、ささくれ立つ思考をなだらかにする。
「そうそう、それにメリッサさんにはバオバオさんからもらった猿酒があるじゃないですか、僕の話で雫の神様だって最初から売り物にするってわかってますよ」
ジェイクの話にしぶしぶと頷きながらも、瓢箪から猿酒を飲み続けるメリッサ。
1人故郷を離れ、見知らぬ地で孤独に苛まれる彼女に取って猿酒は数少ない慰めだった。
「んぐ・・・んぐ・・・良し、ワタクシ決めました!」
「何をです?」
そんなメリッサの数少ない知人であるジェイクは今日も話相手をつとめるのだ。
家族のいない痛みを知る者同士でもある、死闘を潜り抜けた戦友でもある、そして杯を交わした友でもある。
奇妙な縁が2人の間に絆を育んでいた。
「世界中をジェイクさんと一緒に回り、もっとすごい秘宝を見つけて大金持ちになります!」
「えぇ? 昨日は困っている人を助けるって言ったじゃないですか?」
突然俗っぽい事を言い始めるメリッサ。
どうやら、思考をアルコールに支配され始めているようだ。
バオバオは彼女の人生を豊かにしたのは間違いないが、アル中としての道も開かせてしまったのはジェイクにとって頭痛の種と言えよう。
「それはそれでやります、両方やるのです!」
「はぁ・・・まぁ、僕は構いませんけど」
ジェイクは半ば諦めたようにため息を付く。
朝から本日2人目の酔っ払いの戯言など、真面目に聞く方が阿保らしい。
無難に聞き流そうとする彼を、誰が攻められようか?
「やります、ワタクシはやります・・・そして神殺しも~返してもらって~」
「大丈夫ですかメリッサさん、飲みすぎじゃないですか?」
かくして冒険者組合バッカニア支店の朝は平和な酒臭い空気に満たされ、何事もなく流れてゆく。
骨を休め、傷を癒し、その目に再び冒険への火が灯るその時まで。
「それで~ジェイクさんと~・・・ウフ、ウフフフ」
「あ~駄目だ、今日は仕事になりそうもないな・・・」
せめて、2人の神殺しが穏やかに過ごせることを祈ろう。
寝かせて深みを増す名酒のように。




