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第十八話 (後編): 奪われた切り札

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます!


今回は第十八話後編です。


ついにダンジョンの異常が、その正体を少しずつ見せ始めます。


「なぜレイナだったのか。」

「なぜ十階層なのか。」


そんな疑問を抱きながら読んでいただけると嬉しいです。


それでは、本編をお楽しみください!

黒い壁が意思を持つように、レイナの体を一気に呑み込んだ。


ズブ……。


ズブズブズブ……。


光が遠ざかる。


「レイナ!!」


エリシアの叫び。


「レイナさん!」


リシェルの声。


遠い。


どんどん遠ざかる。


(終わるのか……。)


そう思った、その時。


「レイナ。」


エリックの声だけが、はっきり届いた。


「お前。」


「スローライフに必要な人間だ。」


思わず笑いそうになる。


(……相変わらず。)


(言い方がおかしい。)


暗闇へ沈みながら、小さく目を閉じる。


(でも。)


(悪くない。)


心が、少しだけ軽くなった。



そして暗闇に落ちていく中で、



真っ暗だ。


何も見えない。


何も聞こえない。


(……変だな。)


(昔も。)


(こんな気持ちだった。)


孤児だった頃。


誰にも必要とされていないと思っていた頃。


胸の中は、いつもこんな暗闇だった。


でも、今は違う。


さっき、


「スローライフに必要だ。」


そう言われた。


理由はどうあれ。


あいつは、本気でそう思っていた。


(……だから。)


(帰らないとな。)


黒い壁が意思を持つように、レイナの体を一気に呑み込んだ。


「レイナ!」


 エリシアが叫びながら駆け寄る。


「レイナさん!」


 リシェルも杖を握り締めたまま駆け出した。


 しかし。


 黒い壁は静まり返っていた。


 そこにはもう、レイナの姿はない。


 エリシアは壁へ手を当てる。


「そんな……。」


 その瞬間。


 手にしていた水晶が激しく明滅を始めた。


「……!」


 《魔導監視網》が、自動的に解析を開始する。


 膨大な魔力の流れ。


 ダンジョン全域を巡る巨大な魔力回路。


 その中を、一つだけ高速で移動する小さな魔力反応があった。


 エリシアの瞳が大きく見開かれる。


「いました!」


「レイナは生きています!」


 リシェルの表情が明るくなる。


「本当ですか!」


「はい!」


 だが、その直後。


 エリシアの表情が険しくなった。


「ですが……。」


「反応が止まりません。」


「地下へ運ばれています。」


 エリックが短く尋ねる。


「追える?」


 エリシアは力強く頷いた。


「追えます。」


「《魔導監視網》が繋がっています。」


「完全には見失いません。」


 全員が水晶を見つめる。


 反応はさらに深く。


 さらに下へ。


 そして――


 ピタリと止まった。


 エリシアが静かに息を呑む。


「止まりました。」


「場所は。」


「十階層です。」


「十階層?」


「はい。」


「この異常な魔力反応からすると……。」


「おそらく、ボス部屋です。」


重い沈黙が流れる。


リシェルは杖を胸の前で強く握り締めた。


「レイナさんが……一人で……。」


エリックはGペン型の杖を肩へ担ぎ、小さく頷く。


「なるほど。」


「迎えに行く。」


 三人は十階層を目指し、洞窟を進んでいた。


 しばらく沈黙が続いた後、エリシアがぽつりと呟く。


「一つ、気になることがあります。」


 エリックが前を向いたまま答える。


「ん?」


「目的です。」


「なぜ……。」


「エリックさんではなく、レイナだったのでしょう。」


リシェルも頷く。


「私も、それが気になっていました。」


エリシアは少し考えてから言った。


「私なら。」


「まずエリックさんを狙います。」


「この中で、一番危険なのは間違いなくエリックさんですから。」


エリックは首を傾げる。


「そうか?」


レイナなら間違いなく、


「そうなんだよ!」


とツッコんでいた。


だが今、その本人はいない。


静かな沈黙が流れる。


エリックは短く呟く。


「鑑定。」


「生きてるダンジョン。」


「知能。」


「人間並み。」


「……。」


「なるほど。」


「物理攻撃が苦手か。」


 エリシアの足が止まる。


「……!」


「つまり!」


 エリックは頷いた。


「ああ。」


「一番邪魔な奴。」


「先に消した。」


「何故、レイナさんが物理攻撃役だとダンジョンは分かったのでしょうか。」


 エリシアが静かに尋ねる。


 エリックは迷いなく答えた。


「ゴブリン。」


「探らせた。」


「……。」


 エリシアは息を呑む。


「つまり、最初の戦闘は……。」


「偵察。」


「ああ。」


「誰が何をするか。」


「全部見られた。」


 リシェルが思わず杖を握り締める。


「そんな……。」


「最初から、私たちを分析していたのですね。」


 エリックは短く頷く。


「生きてるダンジョン。」


「考える。」


 エリシアは苦笑ともため息ともつかない息を漏らした。


「なるほど……。」


「かなり切れるダンジョンですね。」


そこから、三人はしばらく無言で洞窟の奥へと進んだ。


 重苦しい空気と、時折響く不気味な脈動の音だけが通路を満たしている。


 やがて、なだらかな傾斜が終わり、目の前の視界が開けた。


 通路の行き止まりに、それは鎮座していた。

 巨大な、黒い扉。


 王都のダンジョンにあるような、歴史を感じさせる厳かな石の扉とは根本的に違っていた。


 ドクン……。


 黒い扉そのものが、まるで巨大な生き物の心臓のように脈打っている。


 エリックが小さく呟いた。


「……ここか。」


 エリシアが手元の水晶を見つめ、静かに頷く。


「十階層――ボス部屋です。」


 エリックは腰のGペン型の杖を引き抜き、扉へと向けた。


「鑑定。」

 少しの沈黙。


 エリックの目が、僅かに細められる。


「名称。」


「コアビースト。」


「魔法無効。」


 エリシアの表情が凍り付いた。


「コアビースト……。」


「文献でしか見たことがありません。」


「まさか、本当に実在していたなんて……。」


 残された三人は、エリック、エリシア、リシェル。


 物理攻撃の要であるレイナを失った今、目の前に現れたのは「魔法無効」の絶望。


 ドクン。


 大きく脈打つと共に、黒い扉が内側からゆっくりと開き始める。


 隙間から溢れ出してきたのは、これまでとは比較にならないほどの濃密な悪意と瘴気。


 闇の奥で。

 巨大な赤い瞳が一つ、ゆっくりと開いた――。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


今回はレイナ救出へ向かう道中と、ダンジョンがただの迷宮ではないことが少しずつ明らかになる回でした。


ここまで読んでくださった皆さまは、「このダンジョン、普通じゃないな」と感じていただけたのではないでしょうか。


次回はいよいよ十階層ボス部屋へ。


エリックたちがどのように立ち向かうのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。


面白かったと思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また次回お会いしましょう!

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