Ep46. 名前のない関係
関係性には、名前が必要だ。
前世の俺は、そう思っていた。
家族。
友人。
恋人。
患者。
名前があれば、距離を測れる。
役割を定義できる。
だから楽だった。
“何者か”を決めてしまえば、それ以上考えなくて済む。
……だが。
今の俺には、オリヴィアとの関係をうまく定義できない。
「ルークー」
いつもの声。
いつもの笑顔。
それだけで、胸の奥が熱くなる。
安心する。
嬉しい。
会えないと落ち着かない。
傷つけば苦しい。
笑えば、軽くなる。
……何だ、これは。
友人?
違う。
赤子と子供だ。
対等ではない。
家族?
違う。
血は繋がっていない。
依存?
……それだけでは、足りない。
もっと複雑だ。
「今日はね、お花いっぱい咲いてた!」
オリヴィアが楽しそうに話す。
俺は、それを聞いている。
内容よりも。
声を。
表情を。
存在そのものを。
……終わっている。本当に。
前世の俺なら、呆れているだろう。
他人一人に、ここまで影響されるなんて。
脆弱。
非合理。
だが、今の俺は、その非合理を完全には否定できない。
なぜなら。
空っぽでは、なくなったからだ。
待つ時間がある。
会いたいと思う。
安心する。
怖がる。
守りたいと思う。
前世で切り捨てた感情が、今の俺を動かしている。
「ルーク?」
オリヴィアが首を傾げる。
近い。
もう慣れた距離。
俺は無意識に手を伸ばし、服を掴む。
オリヴィアが笑った。
「えへへ」
その笑顔に、胸の奥が静かに熱を持つ。
……名前がない。
この感情に。
この関係に。
まだ、適切な言葉が見つからない。
だが、ひとつだけ確かなことがある。
オリヴィアは、もう“いてもいなくても同じ存在”ではない。
この世界の温度を、変えてしまう存在だ。
そして。
その事実を、俺は少しずつ受け入れ始めていた。




