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Ep43. 触れられる安心

接触は、苦手だった。


前世の俺は、人に触れられることを嫌っていた。


近いから。

煩わしいから。

境界を侵される感覚がするから。


必要最低限で十分だった。


診察。

治療。

手術。


そこに感情は不要。


触れるのは技術。

意味は、それだけ。


……そのはずだった。


「ルーク、あったかい」


オリヴィアが、俺を抱きしめる。


小さな腕。

柔らかい温度。


近い。


呼吸が触れる距離。


前世なら、即座に離れていた。


だが、今の俺は抵抗しない。


むしろ、落ち着いている。


……異常だ。


完全に、身体がこの感覚を覚えてしまっている。


温かい。

安心する。


胸のざわつきが、静かになる。


前世では、なかった。


誰かに触れられて、安心する感覚。


むしろ逆だった。


近づかれるほど、苛立った。


他人は面倒だった。


感情を持ち込む。

距離を詰める。

境界を曖昧にする。


だから切っていた。


なのに今、俺はその曖昧さの中にいる。


「ルーク、すきー」


オリヴィアが笑う。


抱きしめたまま、その声がすぐ近くで響く。


胸の奥が、熱い。


だが、苦しくはない。


むしろ満たされる感覚に近い。


——危険だ。


理解している。


これは完全に、“慣れて”いる。


オリヴィアの声。

温度。

触れ方。


全部、身体が覚えている。


そして。


失うことを、怖がり始めている。


……そこで、ふと前世を思い出す。


死ぬ直前。


研究室は、冷えていた。


静かだった。


誰もいなかった。


当然だ。


俺が、誰も近づけなかったから。


触れさせなかったから。


その結果、最後まで一人だった。


……寒かった。


今なら、わかる。


あれは、温度だけの話じゃない。


空っぽだった。


誰の熱も、残っていなかった。


「ルーク?」


オリヴィアが、俺の頭を撫でる。


ぎこちない手。

優しい動き。


その瞬間、胸の奥が静かにほどけた。


……弱い。


本当に。


どうしようもなく。


だが。


この温度を、もう失いたくないと思っている自分を。


俺は、完全には否定できなかった。

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