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Ep42. 守りたいという衝動

守る、という発想が嫌いだった。


前世の俺は、そう考えていた。


守るという行為は、傲慢だ。


他人を、自分より弱いものとして扱う。


助ける側。

守る側。

救う側。


そこには必ず、上下が生まれる。


だから俺は、“守りたい”という言葉を信用しなかった。


偽善。

支配欲。

自己満足。


そういうものだと思っていた。


――なのに。


「わっ」


オリヴィアが、小石につまずく。


ほんの小さな動きだった。


転ぶほどでもない。

実際、すぐに体勢を立て直した。


問題ない。


そのはずなのに。


俺の身体は、先に反応していた。


手を伸ばす。


届くわけもない。

赤子の短い腕。

意味などない。


それでも、身体が動いた。


――危険だ。


完全に、思考より先に感情が動いている。


「だいじょうぶだよー」


オリヴィアが笑う。


平気そうだ。

怪我もない。


そこでようやく、胸の緊張が少し緩む。


……今のは、何だ。


転びそうになった。

危険を感じた。

止めようとした。


つまり。


守ろうとした。


――ありえない。


前世の俺なら、絶対に否定している。


他人は他人だ。

自分の責任ではない。

過剰に関わる必要もない。


そう切り離していた。


だが、今の俺は。


オリヴィアが危ないと思った瞬間、考える前に動いた。


合理性も。

損得も。

意味もない。


ただ、傷ついてほしくなかった。


……熱い。


胸の奥が。


恐怖とは少し違う。


もっと強い。

衝動に近い。


「ルーク?」


オリヴィアが近づいてくる。


顔を覗き込み、不思議そうに首を傾げた。


「びっくりした?」


……違う。


びっくりじゃない。


怖かった。


一瞬でも、オリヴィアが傷つく姿を想像したことが。


嫌だった。


その瞬間、俺は気づく。


前世の俺は、“守りたい”を偽善だと思っていた。


だが、今のこれは違う。


誰かに良く思われたいわけじゃない。

感謝が欲しいわけでもない。


ただ。


傷ついてほしくない。


それだけだ。


……理解不能だ。


非合理すぎる。


だが、嘘ではない。


胸の奥が、それを証明していた。


「へへ」


オリヴィアが笑う。


いつもの笑顔。


その顔を見た瞬間、胸の熱が少しだけ静かになった。


――終わっている。


本当に。

完全に。


俺は、“自分以外の誰か”を。


守りたいと思ってしまっていた。

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