表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/125

Ep41. 初めての恐怖

死は、怖くなかった。


前世の俺は、本気でそう思っていた。


   ◇ ◇ ◇


終わるだけだ。


意識が消える。

肉体が止まる。


それだけ。


むしろ、面倒が終わる分、楽ですらある。


だから、自分の命にもあまり執着がなかった。


危険な実験。

無茶な術式。

限界を超える魔力操作。


平気だった。


壊れたら終わり。


それだけの話だ。


   ◇ ◇ ◇


……なのに。


「最近、風邪流行ってるんだって」


オリヴィアの軽い声。


だが、その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が強く冷えた。


風邪。

病。


前世の俺にとっては、珍しくもないものだ。


軽症なら数日。

重症でも、治療法はある。


恐れるほどではない。


……そのはずだった。


「となりのおじさん、ずっと咳してたの」


咳。

熱。

感染。


思考が、勝手に動く。


症状。

進行。

最悪の可能性。


そして、そこにオリヴィアが結びつく。


——もし。


その瞬間、胸の奥が強く痛んだ。


……何だ、これは。


恐怖。


しかも、自分の死ではない。


オリヴィアが病気になる想像。


それだけで、呼吸が浅くなる。


   ◇ ◇ ◇


——ありえない。


前世の俺なら、患者の死など何度も見てきた。


当然だ。


医魔術師だ。


救えない命もある。


泣き叫ぶ家族も。

絶望する患者も。


全部、見てきた。


そのたびに、俺は距離を取っていた。


感情移入は、判断を鈍らせる。


だから切り離した。


死を、“現象”として扱った。


その方が合理的だったから。


……だが、今。


オリヴィアに、それができない。


想像しただけで、胸の奥が冷たくなる。


嫌だ。


——強く、そう思ってしまう。


   ◇ ◇ ◇


「ルーク?」


オリヴィアが覗き込む。


近い。

温かい。

生きている。


その事実だけで、少し呼吸が戻る。


……異常だ。


完全に。


俺は、そこで理解してしまう。


“失いたくない”の、本当の意味を。


来なくなるのが嫌。

離れるのが嫌。


それだけではない。


消えるのが、怖い。


存在そのものが、なくなること。


それが、こんなにも怖い。


前世では知らなかった。


知らないまま、終わった。


誰も特別にしなかったから。


誰の死にも、本当の意味で触れなかったから。


   ◇ ◇ ◇


「ルーク、なんか変な顔」


オリヴィアが笑う。


その笑顔を見て、胸の冷たさが少しだけ溶ける。


……弱い。


本当に。


致命的なほど。


だが、その弱さを——


もう、完全には否定したくなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ