Ep37. 来なかった日
約束は、破られる。
前世の俺は、それを知っていた。
だから信用しなかった。
期待しなければ、裏切られない。
合理的だ。
……そのはずだった。
◇ ◇ ◇
朝。
俺は目を覚ました。
窓の外が明るい。
鳥の声。
いつも通り。
そして、思考が先に動く。
——今日は来る。
……最悪だ。
起きた瞬間から待っている。
完全に依存だ。
だが、もう否定しきれない。
身体が理解している。
オリヴィアが来る時間。
足音。声。扉の開く音。
全部、覚えている。
◇ ◇ ◇
そして昼になる。
……来ない。
俺は耳を澄ませる。
違う足音。
違う声。
違う音。
——来ない。
胸の奥がざわつく。
熱ではない。
もっと冷たい。
不安。
いや、恐怖に近い。
来ない。
なぜ。
忘れた?
別の誰かと遊んでいる?
嫌になった?
……止まれ。
思考が勝手に広がる。
最悪の想像ばかり。
前世の俺なら切っていた。
“来ないなら、それまで”。
そう結論づけて終わっている。
だが、今の俺は終われない。
理由を探してしまう。
期待が残っている。
まだ来るかもしれない。
その可能性を、切り捨てられない。
……苦しい。
待つことは、こんなにも落ち着かないのか。
◇ ◇ ◇
「ルーク?」
バーバラが覗き込む。
「どうしたの? 今日はずっと静かね」
当然だ。
思考が全部、そこに向いている。
扉。
音。
気配。
……来ない。
その事実が、少しずつ重くなる。
——約束は、破られる。
前世の俺が囁く。
だから言っただろう。
期待するなと。
信じるなと。
その通りだ。
完全に正しい。
なのに。
胸の奥は納得しない。
苦しい。
重い。
落ち着かない。
◇ ◇ ◇
そして夕方。
外から慌ただしい足音が聞こえた。
軽い。
速い。
聞き慣れた音。
瞬間、身体が反応した。
胸の奥が、一気に熱を取り戻す。
扉が開く。
「ルーク、ごめんね! お母さんのお手伝いしてたの!」
オリヴィア。
息を切らしている。
慌てている。
……来た。
その瞬間、胸の重さが全部消えた。
——確定。
俺は完全に、この存在に感情を支配されている。
前世の俺なら軽蔑する。
だが、今の俺は。
来てくれたことに、安心してしまっていた。




