Ep36. 約束という呪い
約束は、嫌いだった。
前世の俺は、そう断言できた。
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守られないから。
破られるから。
期待だけを残して消えるから。
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人間は変わる。
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感情も。
状況も。
関係も。
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ならば。
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未来を固定する言葉など、信用に値しない。
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だから俺は。
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約束を避けていた。
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しない。
させない。
信じない。
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それが合理的だった。
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……なのに。
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「また来るよ」
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たったそれだけの言葉が。
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頭から離れない。
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——危険だ。
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理解している。
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その言葉を信じ始めている。
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期待している。
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待っている。
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前世の俺なら、嘲笑していた。
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子供の口約束だ。
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何の保証もない。
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現実には。
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簡単に崩れる。
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病気。
気分。
事故。
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理由など、いくらでもある。
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なのに。
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今の俺は。
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その言葉だけで、落ち着いている。
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……最悪だ。
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完全に。
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“期待”している。
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そして。
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期待とは。
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裏切られる可能性を受け入れることだ。
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——怖い。
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胸の奥が、ざわつく。
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来なかったら?
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忘れていたら?
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別の誰かと遊んでいたら?
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……熱い。
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嫉妬と似ている。
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だが。
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少し違う。
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もっと。
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不安に近い。
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前世では、感じなかった感覚。
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なぜなら。
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最初から期待しなかったから。
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だが。
◇ ◇ ◇
今は違う。
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期待してしまっている。
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“また来る”。
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その未来を。
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……脆い。
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本当に。
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脆い。
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その時。
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「ルーク、眠い?」
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バーバラの声。
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抱き上げられる。
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温かい。
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最近、わかる。
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バーバラの温度と。
オリヴィアの温度は。
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違う。
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どちらも温かい。
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だが。
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意味が違う。
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バーバラは、“包む”温度。
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オリヴィアは、“揺らす”温度。
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……厄介だ。
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人間ごとに、感覚が変わる。
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前世の俺は。
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全部まとめて、“他人”にしていた。
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だが。
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今は違う。
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一人ずつ。
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意味が変わる。
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温度が変わる。
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影響が変わる。
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……面倒だ。
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だが。
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嫌ではない。
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そこまで思って。
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俺は、自分で驚いた。
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嫌ではない。
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前世なら、即座に切り捨てている。
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感情に振り回される状態など。
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害悪でしかない。
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なのに。
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今の俺は。
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その不安すら。
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完全には手放したくなかった。
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なぜなら。
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不安があるということは。
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“また会いたい”が存在しているということだからだ。
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——最悪だ。
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約束を。
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待っている。
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そんな自分を。
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もう。
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笑えなくなっていた。




