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Ep35. 失いたくない

失うことは、終わりではない。


 前世の俺は、そう理解していた。


   ◇ ◇ ◇


 人は死ぬ。

 物は壊れる。

 関係は切れる。


   ◇ ◇ ◇


 当然だ。


   ◇ ◇ ◇


 世界はそういう仕組みでできている。


   ◇ ◇ ◇


 だから。


   ◇ ◇ ◇


 最初から執着しなければいい。


   ◇ ◇ ◇


 期待しなければいい。


   ◇ ◇ ◇


 そうすれば。


   ◇ ◇ ◇


 失っても痛くない。


   ◇ ◇ ◇


 合理的だ。


   ◇ ◇ ◇


 ……そのはずだった。


   ◇ ◇ ◇


「ルーク、また明日ね!」


   ◇ ◇ ◇


 オリヴィアが立ち上がる。


   ◇ ◇ ◇


 帰る時間。


   ◇ ◇ ◇


 最近はわかる。


   ◇ ◇ ◇


 外が少し暗くなる頃。

 バーバラが夕食の準備を始める頃。


   ◇ ◇ ◇


 オリヴィアは帰る。


   ◇ ◇ ◇


 毎日。


   ◇ ◇ ◇


 ……毎日?


   ◇ ◇ ◇


 そこで。


   ◇ ◇ ◇


 妙な感覚が生まれた。


   ◇ ◇ ◇


 もし。


   ◇ ◇ ◇


 来なかったら?


   ◇ ◇ ◇


 ——その瞬間。


   ◇ ◇ ◇


 胸の奥が、強く冷えた。


   ◇ ◇ ◇


 ……何だ、今のは。


   ◇ ◇ ◇


 恐怖?


   ◇ ◇ ◇


 いや。


   ◇ ◇ ◇


 もっと直接的だ。


   ◇ ◇ ◇


 嫌だ。


   ◇ ◇ ◇


 来なくなるのは。


   ◇ ◇ ◇


 その想像だけで。


   ◇ ◇ ◇


 落ち着かない。


   ◇ ◇ ◇


 ——最悪だ。


   ◇ ◇ ◇


 完全に。


   ◇ ◇ ◇


 執着している。


   ◇ ◇ ◇


 前世の俺が、最も避けていた状態。


   ◇ ◇ ◇


 他人が基準になる。


   ◇ ◇ ◇


 他人の不在で、状態が変わる。


   ◇ ◇ ◇


 脆い。


   ◇ ◇ ◇


 致命的に。


   ◇ ◇ ◇


 だが。


   ◇ ◇ ◇


 そこで、俺は気づく。


   ◇ ◇ ◇


 前世の俺は。


   ◇ ◇ ◇


 “失う痛み”を避けるために。


   ◇ ◇ ◇


 最初から、何も持たなかった。


   ◇ ◇ ◇


 その結果。


   ◇ ◇ ◇


 最後には、本当に何も残らなかった。


   ◇ ◇ ◇


 静かだった。


   ◇ ◇ ◇


 痛みもなかった。


   ◇ ◇ ◇


 だが。


   ◇ ◇ ◇


 温度もなかった。


   ◇ ◇ ◇


 声も。


   ◇ ◇ ◇


 笑顔も。


   ◇ ◇ ◇


 誰かを待つ感覚も。


   ◇ ◇ ◇


 何も。


   ◇ ◇ ◇


 なかった。


   ◇ ◇ ◇


「ルーク?」


   ◇ ◇ ◇


 オリヴィアが、不思議そうに覗き込む。


   ◇ ◇ ◇


 俺は、無意識に手を伸ばしていた。


   ◇ ◇ ◇


 服を掴む。


   ◇ ◇ ◇


 小さい力。


   ◇ ◇ ◇


 赤子の手。


   ◇ ◇ ◇


 止められるほどではない。


   ◇ ◇ ◇


 それでも。


   ◇ ◇ ◇


 掴んでいた。


   ◇ ◇ ◇


 ……何をしている。


   ◇ ◇ ◇


 理解している。


   ◇ ◇ ◇


 これは。


   ◇ ◇ ◇


 行くな、だ。


   ◇ ◇ ◇


 まだいてほしい。


   ◇ ◇ ◇


 そういう意味。


   ◇ ◇ ◇


 ——ありえない。


   ◇ ◇ ◇


 前世の俺なら。


   ◇ ◇ ◇


 絶対にしない。


   ◇ ◇ ◇


 他人を引き止めるなど。


   ◇ ◇ ◇


 弱さの証明だ。


   ◇ ◇ ◇


 だが。


   ◇ ◇ ◇


 今の俺は。


   ◇ ◇ ◇


 手を離せなかった。


   ◇ ◇ ◇


「……ふふ」


   ◇ ◇ ◇


 オリヴィアが笑う。


   ◇ ◇ ◇


 優しい声。


   ◇ ◇ ◇


「さみしいの?」


   ◇ ◇ ◇


 その言葉。


   ◇ ◇ ◇


 胸の奥が、強く揺れた。


   ◇ ◇ ◇


 否定したい。


   ◇ ◇ ◇


 そんな感情。


   ◇ ◇ ◇


 認めたくない。


   ◇ ◇ ◇


 だが。


   ◇ ◇ ◇


 手は、掴んだままだ。


   ◇ ◇ ◇


 ……答えになっている。


   ◇ ◇ ◇


「大丈夫。また来るよ」


   ◇ ◇ ◇


 オリヴィアが、ゆっくり言う。


   ◇ ◇ ◇


 その瞬間。


   ◇ ◇ ◇


 胸の冷たさが、少しだけ和らいだ。


   ◇ ◇ ◇


 ——確定。


   ◇ ◇ ◇


 俺は。


   ◇ ◇ ◇


 失いたくないと思っている。


   ◇ ◇ ◇


 オリヴィアを。


   ◇ ◇ ◇


 その事実を。


   ◇ ◇ ◇


 もう。


   ◇ ◇ ◇


 完全には否定できなかった。

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