Ep32. 嫉妬という熱
嫉妬は、醜い感情だ。
前世の俺は、そう断定していた。
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他人を羨む。
他人を妬む。
他人を排除したがる。
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非生産的。
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無意味。
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そして。
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弱い。
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だから俺は。
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嫉妬する人間を軽蔑していた。
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……なのに。
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今。
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胸の奥にあるこれは、何だ。
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熱い。
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不快だ。
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ざわつく。
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落ち着かない。
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原因は明確。
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オリヴィアが。
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他人に笑っている。
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それだけ。
◇ ◇ ◇
それだけのこと。
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なのに。
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こんなにも、不快だ。
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……理解したくない。
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だが。
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理解してしまう。
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これは。
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嫉妬だ。
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——最悪だ。
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完全に。
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感情に支配されている。
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合理性がない。
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意味もない。
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オリヴィアは、俺のものではない。
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当然だ。
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そんな権利は、誰にもない。
◇ ◇ ◇
なのに。
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身体が納得しない。
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「オリヴィア、行こうぜ!」
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男の子が手を引く。
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オリヴィアが笑う。
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その瞬間。
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胸の奥が、強く熱を持った。
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嫌だ。
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——思ってしまった。
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行くな。
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こっちを見ろ。
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……ありえない。
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何だ、その感情は。
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幼稚すぎる。
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前世の俺なら、吐き捨てている。
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だが。
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今の俺は。
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否定しきれない。
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なぜなら。
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実際に、苦しいからだ。
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胸の奥が。
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重い。
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熱い。
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落ち着かない。
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これが。
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嫉妬。
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……醜い。
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本当に。
◇ ◇ ◇
醜い。
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「ルーク?」
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オリヴィアが振り返る。
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視線が合う。
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その瞬間。
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胸の熱が、少しだけ和らいだ。
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……確定。
◇ ◇ ◇
完全に。
◇ ◇ ◇
俺は。
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オリヴィアに依存している。
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精神状態が。
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影響されている。
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しかも。
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相当深く。
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——危険だ。
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頭では理解している。
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だが。
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もう、切り離せない。
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「すぐ戻るね!」
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オリヴィアが言う。
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笑顔。
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そして。
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走っていく。
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男の子と一緒に。
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……静かになる。
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部屋が。
◇ ◇ ◇
いや。
◇ ◇ ◇
違う。
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静かになったのは。
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俺の内側だ。
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熱だけが残っている。
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じわじわと。
◇ ◇ ◇
不快な熱。
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前世なら、切り捨てていた。
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こんな感情。
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不要だと。
◇ ◇ ◇
弱さだと。
◇ ◇ ◇
だが。
◇ ◇ ◇
今の俺は。
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その熱を。
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完全には、嫌いになれなかった。
◇ ◇ ◇
なぜなら。
◇ ◇ ◇
この熱は。
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“特別”の証明でもあったからだ。
◇ ◇ ◇
オリヴィアが。
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俺にとって。
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その他ではないという。
◇ ◇ ◇
どうしようもない事実の。




