Ep30. 怖いものの正体
恐怖には、理由がある。
理解できないから怖い。
制御できないから怖い。
失う可能性があるから怖い。
◇ ◇ ◇
前世の俺は。
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“特別”を避けていた。
◇ ◇ ◇
理由は単純。
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弱くなるからだ。
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優先順位が変わる。
判断が鈍る。
冷静さが崩れる。
◇ ◇ ◇
だから。
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作らなかった。
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誰も。
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特別にしなかった。
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……そのはずだった。
◇ ◇ ◇
だが。
◇ ◇ ◇
今。
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目の前に。
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例外が存在している。
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「ルーク?」
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オリヴィアの声。
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それだけで。
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身体が反応する。
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思考より先に。
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……異常だ。
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完全に。
◇ ◇ ◇
だが。
◇ ◇ ◇
もっと問題なのは。
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俺が、それを嫌いきれていないことだ。
◇ ◇ ◇
前世の俺なら。
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即座に切り離している。
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危険だと判断した瞬間。
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距離を取る。
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それが合理的。
◇ ◇ ◇
だが。
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今の俺は。
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理解しているのに、離れない。
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むしろ。
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近づいている。
◇ ◇ ◇
——最悪だ。
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理由は?
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考えるまでもない。
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軽くなるからだ。
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オリヴィアが笑うと。
◇ ◇ ◇
胸の奥が軽くなる。
◇ ◇ ◇
声を聞くと。
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ざわつきが減る。
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応答すると。
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落ち着く。
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……依存。
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いや。
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もう、それだけでは足りない。
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心配する。
気にする。
反応する。
◇ ◇ ◇
影響が深い。
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前世の俺が見れば。
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間違いなく嘲笑する。
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“脆くなった”と。
◇ ◇ ◇
……否定できない。
◇ ◇ ◇
実際。
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脆い。
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オリヴィアが傷つくと。
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落ち着かない。
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声が沈むと。
◇ ◇ ◇
胸の奥が重い。
◇ ◇ ◇
つまり。
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影響を受けている。
◇ ◇ ◇
完全に。
◇ ◇ ◇
……怖い。
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そこで。
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俺は、ようやく理解した。
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前世の俺が、本当に恐れていたもの。
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失うことではない。
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裏切られることでもない。
◇ ◇ ◇
——“影響されること”だ。
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自分以外の存在によって。
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状態が変わる。
◇ ◇ ◇
判断が揺れる。
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それが。
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怖かった。
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だから切り離した。
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誰も特別にしなかった。
◇ ◇ ◇
その結果。
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最後には。
◇ ◇ ◇
誰もいなかった。
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……静かだった。
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合理的で。
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効率的で。
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そして。
◇ ◇ ◇
空っぽだった。
◇ ◇ ◇
「ルーク、どうしたの?」
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オリヴィアが覗き込む。
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近い。
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前なら、嫌悪していた距離。
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だが。
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今は。
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少し違う。
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完全に平気ではない。
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それでも。
◇ ◇ ◇
拒絶したいとも思わない。
◇ ◇ ◇
……変わった。
◇ ◇ ◇
認めたくはない。
◇ ◇ ◇
だが。
◇ ◇ ◇
否定もできない。
◇ ◇ ◇
俺は。
◇ ◇ ◇
ゆっくりと。
◇ ◇ ◇
オリヴィアの方へ、手を伸ばした。
◇ ◇ ◇
触れる。
◇ ◇ ◇
小さな手。
◇ ◇ ◇
温かい。
◇ ◇ ◇
「ふふ」
◇ ◇ ◇
オリヴィアが笑う。
◇ ◇ ◇
その瞬間。
◇ ◇ ◇
胸の奥が、静かになった。
◇ ◇ ◇
……結論。
◇ ◇ ◇
怖い。
◇ ◇ ◇
だが。
◇ ◇ ◇
怖いからといって。
◇ ◇ ◇
もう。
◇ ◇ ◇
切り捨てたいとは、思えなかった。




