Ep29. 特別という異常
人間は、平等ではない。
そんなことは、前世の頃から理解していた。
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才能。
環境。
容姿。
知性。
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生まれた瞬間から差はある。
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だから。
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平等を語る人間は嫌いだった。
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現実を見ていない。
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あるいは。
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見ないふりをしている。
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……だが。
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“特別”という感覚は。
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もっと厄介だ。
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平等ではない。
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明確に。
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差をつける。
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そして。
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無意識に。
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優先順位を変える。
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——危険だ。
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極めて。
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前世の俺は、それを避けていた。
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特別を作るな。
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期待が生まれる。
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執着が生まれる。
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失った時、壊れる。
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だから。
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距離を均一に保っていた。
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誰にも近づかない。
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誰も特別にしない。
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そのはずだった。
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「ルークー!」
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声。
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聞こえた瞬間。
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視線が動く。
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身体が反応する。
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……もう。
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否定できない。
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これは。
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“特別扱い”だ。
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オリヴィアの声だけ。
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優先順位が違う。
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反応速度が違う。
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影響が違う。
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——最悪だ。
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完全に。
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前世の禁忌に触れている。
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「今日ね、転んじゃったの」
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オリヴィアが膝を見せる。
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擦り傷。
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浅い。
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問題ない。
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治癒魔術すら不要。
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自然回復で十分。
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前世の俺なら。
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そこで思考終了だ。
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だが。
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今の俺は。
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視線を止めている。
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傷に。
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赤く擦れた皮膚。
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わずかな出血。
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……不快だ。
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見ていて。
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妙に。
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落ち着かない。
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「ちょっと痛かった」
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笑っている。
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だが。
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完全に平気ではない。
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声が少しだけ弱い。
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……理解した。
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これは。
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“心配”だ。
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——ありえない。
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前世の俺は。
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他人の軽傷など気にも留めなかった。
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自業自得。
注意不足。
それだけだ。
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なのに。
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今は。
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違う。
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傷を見ると。
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落ち着かない。
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治るとわかっていても。
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不快感が消えない。
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……厄介だ。
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これが。
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特別、か。
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理解した瞬間。
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強い拒絶感が走る。
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危険だ。
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ここから先は。
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前世で、絶対に避けてきた領域。
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失えば壊れる。
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その可能性が。
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現実になる。
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だから。
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止まるべきだ。
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距離を取るべきだ。
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今なら、まだ間に合う。
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……なのに。
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俺は。
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オリヴィアの膝から。
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視線を外せなかった。
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「ルーク?」
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呼ばれる。
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俺は。
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無意識に。
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手を伸ばしていた。
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傷の方へ。
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触れる寸前で、止まる。
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……何をしている。
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理解不能。
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だが。
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そこで。
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オリヴィアが、笑った。
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「だいじょうぶだよ」
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その言葉に。
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俺の胸の奥は。
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少しだけ。
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軽くなった。
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——確定。
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オリヴィアは。
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もう。
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“その他”ではない。
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特別だ。
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そして。
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それは。
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前世の俺が。
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最も恐れていた状態だった。




