Ep28. 優しさの定義
優しさとは、何だ。
前世の俺なら、即答していた。
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“余裕”だ。
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力がある者が。
持っている者が。
損をしない範囲で与える行為。
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つまり。
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本質は自己満足。
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そう定義していた。
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だから。
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信用しなかった。
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優しさは、簡単に裏返る。
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余裕がなくなれば消える。
見返りがなければ終わる。
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実際、何度も見てきた。
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だから俺は。
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“優しい人間”を信用しなかった。
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……なのに。
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「ルーク、やさしいね」
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その言葉が。
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頭から離れない。
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誤認識。
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評価ミス。
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俺は優しくない。
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その事実は変わらない。
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花を捨てなかった?
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だから何だ。
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ただ捨てなかっただけだ。
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そこに善性はない。
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……はずだ。
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だが。
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問題はそこではない。
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なぜ。
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オリヴィアは、そう判断した。
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基準が違う。
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前世の俺と。
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根本から。
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価値観が違う。
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……面倒だ。
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だが。
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無視できない。
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俺は。
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花を見る。
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少しだけ萎れている。
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当然だ。
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切られた植物は枯れる。
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生命活動の停止。
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ただの現象。
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……なのに。
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少しだけ。
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残念だと思った。
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——最悪だ。
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感情移入。
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非合理。
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価値の低いものに対する執着。
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前世なら、切り捨てている。
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だが。
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今は。
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そう簡単に割り切れない。
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「ルーク?」
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オリヴィアの声。
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俺は視線を向ける。
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自然に。
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もう。
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意識するまでもない。
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「お花、好き?」
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質問。
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……わからない。
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花そのものは、好きではない。
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だが。
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嫌いとも言い切れない。
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理由は明確。
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オリヴィアが絡んでいるからだ。
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つまり。
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これは花の問題ではない。
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関係性の問題。
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……そして。
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そこまで分析して。
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俺は、気づいた。
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前世の俺は。
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“人”を中心に物事を考えていなかった。
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価値。
結果。
効率。
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基準は、常にそこだった。
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だが。
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今は違う。
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オリヴィアがいるから。
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花の意味が変わる。
◇ ◇ ◇
声の意味が変わる。
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応答の意味が変わる。
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……厄介だ。
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極めて。
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だが。
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完全に否定もできない。
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「ルーク、きれいなお花見つけたら、また持ってくるね」
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笑う。
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その顔を見て。
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俺は。
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ほんの少しだけ。
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思ってしまった。
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——また、見てもいい。
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花を。
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……いや。
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たぶん。
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オリヴィアの、その顔を。




