Ep240. 俺を死なせた事故
翌朝。
王立医術院。
旧棟地下三階。
昨日と。
同じ書庫。
でも。
今日は。
少し。
空気が重く感じる。
机の上。
二つ目の箱。
『ルーク死亡事故』
『最終検証資料』
「開ける?」
ノアが。
俺を見る。
「うん」
「今日は」
「大丈夫?」
母。
「昨日より」
「少し」
「疲れてない」
「無理なら」
「途中で」
「止めます」
「分かってる」
エリシア。
俺の隣。
「私も」
「見る」
「うん」
父系血縁。
二人。
この箱も。
同じ。
俺と。
エリシア。
両方。
必要。
「父さん」
「本当に」
「面倒な封鎖」
「安全」
エリシア。
「それはそう」
「でも」
「面倒」
「同意」
少し。
笑う。
昨日より。
自然。
◇ ◇ ◇
俺。
右手。
エリシア。
左手。
箱の。
白石へ。
『父系血縁』
『二名確認』
『封鎖解除』
蓋。
開く。
中。
書類。
一冊。
記録石。
三つ。
そして。
前世の俺が。
使っていた。
魔術触媒。
黒い。
細い。
金属棒。
「これ」
俺。
手。
止まる。
「知ってる?」
ノア。
「前世の」
「実験道具」
死んだ日。
使った。
記憶。
ある。
「触らないで」
母。
「触らない」
今日は。
素直。
記録書。
表。
『高位循環術式事故』
『死亡者』
『ルーク・E・オリバー』
前世の。
俺。
「事故」
エリシア。
ページ。
開く。
『当初判定』
『術式制御失敗による』
『魔力炉暴走』
俺が。
ずっと。
思っていたこと。
自分の。
失敗。
「でも」
次。
赤い。
追記。
『再検証』
『外部干渉痕を確認』
部屋。
静か。
「外部」
ノア。
「誰かが」
「触った?」
「たぶん」
胸。
冷える。
『干渉源』
『中央泉系統』
全員。
息。
止まる。
「ネイ?」
母。
「昔の」
「ネイ」
俺。
昨日。
話した。
前世の俺。
死後。
魂。
中央泉へ。
吸われた。
でも。
事故。
その前から?
「続き」
エリシア。
読む。
『事故発生』
『三十二秒前』
『対象術式へ』
『未登録魔力流入』
『流入量』
『総魔力の十一パーセント』
「十一」
ダグラス。
「それだけでも」
「高位循環術式なら」
「致命的」
「前世の俺」
「気づかなかった?」
記憶。
実験。
成功率。
高い。
計算。
合ってた。
突然。
制御。
崩れた。
『対象本人』
『異常を認識』
『外部遮断を試行』
『失敗』
俺。
覚えている。
確かに。
途中で。
術式。
変だった。
でも。
「自分の」
「計算ミスだと」
「思った」
セオドア。
「当時の調査も」
「そう結論した」
「なのに」
「父さんだけ」
「違うって」
「気づいた?」
「事故後」
「中央泉側へ」
「魂反応が」
「移動したから」
父。
そこから。
逆算。
した。
◇ ◇ ◇
「じゃあ」
ノア。
「ネイが」
「ルークを」
「殺した?」
言葉。
強い。
でも。
簡単。
ではない。
「まだ」
俺。
「決めない」
次のページ。
『重要』
『中央泉からの』
『干渉に』
『明確な攻撃意図』
『確認できず』
やっぱり。
「どういうこと」
母。
『推定』
『対象ルークの』
『高密度魂反応へ』
『中央泉が』
『接近を試みた』
『その結果』
『術式へ』
『過剰流入』
つまり。
殺そうと。
したわけではない。
近づいた。
触れた。
でも。
前世の俺。
高位術式。
実験中。
そこへ。
巨大な泉の魔力。
少し。
入った。
結果。
暴走。
「事故」
ノア。
「でも」
「原因は」
「ネイ」
「一部」
「そう」
胸。
重い。
昨日。
ネイ。
ごめん。
言った。
でも。
本人も。
全部。
覚えていない。
「これ」
ネイに。
「話す?」
エリシア。
「話す」
「今?」
「今日は」
「記録」
「全部見てから」
◇ ◇ ◇
次。
事故。
映像記録。
記録石。
一つ目。
「見る?」
母。
「うん」
「怖かったら」
「止める」
「うん」
起動。
白い光。
映像。
前世の。
俺。
研究室。
立っている。
年齢。
二十代。
白衣。
髪。
今と。
少し。
違う。
でも。
俺。
「本当に」
ノア。
「ルーク」
「嫌な顔」
「どういう意味」
「偉そう」
「前世だから」
俺。
映像の。
自分。
見る。
術式。
起動。
高位循環。
魔力。
何重。
円。
前世の俺。
「循環率」
「九十二」
「十分」
声。
俺。
今。
聞くと。
変。
「一人?」
母。
「実験助手」
「いない」
「また」
エリシア。
「一人」
「前世だから」
「言い訳」
「しない」
事故。
三十二秒前。
映像。
端。
青。
細い。
光。
研究室の。
床下。
「これ」
セオドア。
「中央泉」
前世の俺。
気づく。
「何だ」
映像。
俺。
術式。
止めようとする。
「外部干渉」
「遮断」
でも。
青。
増える。
魔術円。
歪む。
「まずい」
前世の俺。
初めて。
声。
焦る。
「逆流!」
光。
白。
衝撃。
映像。
乱れる。
最後。
前世の俺。
床。
倒れる。
呼吸。
ない。
映像。
終わる。
静か。
「大丈夫?」
ノア。
俺を見る。
「うん」
少し。
手。
震える。
母。
握る。
「怖い」
「うん」
認める。
◇ ◇ ◇
二つ目。
記録石。
『魂観測』
事故。
直後。
父。
現場。
いた?
映像。
違う場所。
第零研究室。
エドワード。
若い。
零号より。
もっと。
生きている。
顔。
焦っている。
「父さん」
母。
小さく。
呼ぶ。
保存盤。
『高密度魂反応』
『中央泉へ流入』
父。
「止めろ!」
誰かへ。
叫ぶ。
セオドア。
若い。
映像。
いる。
「遮断できない!」
「魂固定!」
「間に合わない!」
父。
保存盤。
手。
置く。
「なら」
「引く」
「どこへ」
セオドア。
「空の魂座」
「バーバラの」
母。
息。
止まる。
「危険だ!」
「分かってる!」
「でも」
「泉へ」
「渡すより」
「ましだ!」
父。
一人で。
また。
決めた。
でも。
時間。
数秒。
相談。
無理。
「ルーク」
前世の。
魂。
青。
中央泉。
引かれる。
父。
別の。
白い。
線。
伸ばす。
その先。
胎児。
まだ。
魂。
ない。
器。
「来い!」
父。
叫ぶ。
「今度は」
「一人で」
「死ぬな!」
俺。
胸。
詰まる。
白。
青。
ぶつかる。
そして。
魂。
中央泉から。
外れる。
映像。
切れる。
母。
泣く。
「それ」
聞いたこと。
なかった。
「父さん」
「そんなこと」
「言ったんだ」
セオドア。
今。
老人。
目。
伏せる。
「私は」
「覚えている」
「何で」
「昨日」
「言わなかった」
「映像が」
「残っていると」
「知らなかった」
「本当?」
「本当だ」
「なら」
「いい」
◇ ◇ ◇
三つ目。
記録石。
『事故原因最終推定』
父。
音声。
『中央泉は』
『ルークを』
『狙っていたのではない』
『少なくとも』
『殺す意図は』
『なかった』
『ただ』
『強い魂へ』
『触れようとした』
『それだけだ』
ネイ。
昔。
人。
声。
魂。
近づく。
触れる。
力。
大きすぎる。
壊す。
『しかし』
『意図がなくても』
『結果として』
『ルークは死んだ』
重要。
悪意。
ない。
でも。
結果。
消えない。
『事故という言葉だけで』
『済ませるべきではない』
『同時に』
『殺意と呼ぶのも』
『正確ではない』
「難しい」
ノア。
「うん」
『だから』
父。
『もし』
『中央泉と』
『いつか』
『対話できる者が』
『現れるなら』
『責めるだけではなく』
『何が起きたのかを』
『理解させてほしい』
俺。
止まる。
今。
それ。
できる。
ネイ。
話せる。
『力が大きい者は』
『悪意がなくても』
『人を傷つける』
『だから』
『自分の力が』
『他者へ』
『どう届くかを』
『学ばなければならない』
ネイ。
まさに。
今。
学んでいる。
第三の道。
同意。
制限。
停止。
『それは』
『ルークにも』
『同じだ』
何。
『前世のお前は』
『自分の能力を』
『正しいと思い込み』
『人の意思を』
『置き去りにすることがあった』
嫌。
当たってる。
『中央泉と』
『お前は』
『少し似ている』
ノア。
吹き出す。
「そこ」
「笑う?」
「だって」
「分かる」
「俺も」
「少し」
「思う」
エリシア。
母。
笑わない。
でも。
顔。
少し。
柔らかい。
『だから』
『もし』
『もう一度』
『生きるなら』
『力を』
『使えることより』
『相手へ』
『聞くことを』
『覚えてほしい』
父。
最後。
『それが』
『私が』
『お前へ』
『残せなかった』
『一番の教育だ』
音声。
終わる。
◇ ◇ ◇
俺。
椅子。
座る。
しばらく。
何も。
言わない。
「ルーク」
母。
「どう思う?」
「父さん」
「言うこと」
「今さら」
「多い」
「それは」
エリシア。
「本当に」
「同意」
「でも」
「当たってる」
俺。
「前世」
「相手に」
「聞かなかった」
「今は?」
ノア。
「少し」
「聞く」
「かなり」
「進歩」
「たぶん」
「便利」
ノア。
笑う。
◇ ◇ ◇
「ネイへ」
俺。
「今」
「話す」
母。
少し。
心配。
「疲れてる」
「直接接続じゃない」
「第三の道」
「短く」
「それなら」
許可。
出る。
第三の道。
起動。
『ネイ』
少し。
間。
『ルーク』
「話」
「ある」
『怖い?』
「少し」
『聞く』
「前世の俺が」
「死んだ事故」
「ネイが」
「関わってた」
長い。
沈黙。
『覚えてる』
「全部?」
『少し』
「俺の」
「魂」
「強くて」
「近づいた?」
『うん』
「実験中」
「触った」
『うん』
「それで」
「術式」
「壊れた」
『……うん』
「俺」
「死んだ」
沈黙。
長い。
『ごめん』
「うん」
『私』
『殺した』
「殺そうとは」
「してない」
『でも』
『死んだ』
「そう」
逃げない。
両方。
「悪意」
「なかった」
「でも」
「結果」
「俺」
「死んだ」
『うん』
「だから」
「俺」
「怒ってる」
ネイ。
反応。
小さく。
『怖い』
「でも」
「話す」
『逃げない』
「そう」
『ルーク』
「何」
『私』
『どうしたら』
答え。
簡単。
ない。
「まず」
「覚えて」
「自分の力」
「少し」
「触るだけでも」
「人を」
「壊すこと」
『覚える』
「次」
「勝手に」
「触らない」
『同意』
「そう」
「第三の道」
「作った理由」
「それ」
『うん』
「あと」
俺。
少し。
考える。
「俺を」
「生き返らせることは」
「できない」
『今』
『生きてる』
「そう」
「だから」
「過去」
「戻さなくていい」
「でも」
「忘れないで」
『忘れない』
「俺も」
「忘れない」
『許す?』
「まだ」
ネイ。
少し。
沈黙。
『分かった』
「でも」
「話すの」
「止めない」
『良い?』
「うん」
『ありがとう』
「それも」
「今は」
「受け取る」
少し。
間.
『ルーク』
「何」
『前世』
『死んだ』
「うん」
『今』
『生きてる』
「うん」
『私』
『関わった』
「うん」
『父』
『助けた』
「うん」
『皆』
「今」
「いる」
『不思議』
「本当に」
俺。
少し。
笑う。
『私』
『もう』
『魂』
『触らない』
「約束」
『約束』
通信。
切れる。
◇ ◇ ◇
「どうだった」
ノア。
「怒った」
「ネイに?」
「うん」
「嫌い?」
「分からない」
「でも」
「話した」
「それでいい?」
「今は」
「うん」
母。
俺。
見る。
「父さんにも」
「怒ってる」
「何で」
エリシア。
聞く。
「勝手に」
「転生先」
「決めた」
「でも」
「感謝も」
「してる」
「両方」
「そう」
姉。
少し。
笑う。
「人間」
「面倒」
「ネイみたい」
「本当に」
◇ ◇ ◇
帰る前。
箱。
底。
一枚。
紙。
残る。
「まだ?」
俺。
もう。
疲れた。
でも。
表。
短い。
『追記』
『ルークの死亡事故について』
『第三者の』
『人為干渉は』
『確認されず』
「第三者なし」
つまり。
誰かが。
ネイを。
使って。
殺した。
わけではない。
本当に。
事故。
ネイの。
無理解。
俺の。
一人実験。
複数の。
要因。
重なった。
『事故原因』
『一』
『中央泉外部干渉』
『二』
『単独実験』
『三』
『安全遮断機構不足』
『四』
『対象本人の』
『過剰な成功確信』
最後。
「それ」
「俺」
ノア。
「すごく」
「ルーク」
「うるさい」
でも。
その通り。
全部。
ネイのせい。
でもない。
俺だけの。
失敗。
でもない。
誰か一人へ。
原因。
押しつけなくていい。
「これ」
良かった。
俺。
「何が?」
母。
「事故」
「全部」
「自分のせいだと」
「思ってた」
「違った」
「でも」
「俺にも」
「原因」
「あった」
「それが?」
「一番」
「納得できる」
世界。
そんなに。
単純じゃない。
誰か一人。
悪い。
それだけ。
ではない。
◇ ◇ ◇
旧書庫。
出る。
今日。
全部。
終わり。
父の。
転生研究。
前世事故。
残された謎。
かなり。
埋まった。
「次」
ノア。
「何」
「もう」
「秘密の箱」
「ない?」
「多分」
セオドア。
「少なくとも」
「ここには」
「その言い方」
「怖い」
「すまん」
「もう」
「父さんの」
「隠し事」
「出てこないでほしい」
エリシア。
「同意」
「でも」
「次」
「義足」
「それ」
「隠し事じゃない」
「楽しい方」
姉。
研究。
本当に。
好き。
みたい。
「午後?」
俺。
「休みます」
母。
強い。
「明日」
エリシア。
「分かった」
「素直」
「最近」
「慣れた」
ノア。
「成長」
「うるさい」
◇ ◇ ◇
そして。
階段。
上。
医術院。
地上。
出たところ。
王城から。
伝令。
届く。
『マティアス審理』
『次回予定』
『五日後』
『最終判決』
もう。
五日。
その頃。
俺たちの。
王都滞在も。
終わりに近づく。
さらに。
もう一枚。
『中央泉』
『アルバート人格分離率』
『三十八』
順調。
『ナエル』
『安定』
『第三の道』
『異常なし』
問題。
少しずつ。
終わる。
その時。
俺は。
初めて。
考えた。
王都で。
やること。
全部。
終わったら。
村へ。
帰る。
その後。
何を。
する。
前世。
天才医魔術師。
今世。
第三鍵。
どちらの。
役割も。
もう。
俺を。
縛らない。
なら。
本当に。
自分が。
やりたいこと。
そろそろ。
決めてもいい。
そして。
その答えは。
たぶん。
王都ではなく。
俺が。
帰りたいと思った。
あの村に。
ある気がした。




