Ep238. 罪と、その先
翌朝。
王都。
空は。
昨日より。
少し明るかった。
でも。
俺の気分は。
軽くない。
「今日だね」
ノアが言う。
「うん」
「マティアスの」
「予備審理」
王城。
監察院。
罪状確認。
証言。
セラ。
リア。
遠隔。
ノア。
俺。
エリシア。
それぞれ。
話す。
「怖い?」
俺が聞く。
「怖い」
ノア。
すぐ。
「でも」
「行く」
「うん」
「ルークは?」
「俺も」
「怖い」
「何が」
「自分が」
「何を言うか」
「分からない」
許す。
許さない。
それだけではない。
マティアスは。
俺たちを。
傷つけた。
でも。
中央の泉を。
終わらせようとした理由も。
分かった。
父。
アルバート。
その苦しみも。
知った。
だから。
簡単に。
悪人。
一言で。
終わらせられない。
「今」
「決めなくていい」
ノア。
俺の言葉。
「それ」
「便利」
「うん」
少し。
笑う。
◇ ◇ ◇
王城。
監察院。
大きな。
法廷ではない。
小さな。
審理室。
中央。
長机。
王家監察官。
三人。
書記。
医術院代表。
王城警備隊。
俺たち。
そして。
拘束された。
マティアス。
両手。
封魔具。
前より。
少し。
痩せて見える。
でも。
目。
逃げない。
「ルーク」
小さく。
「久しぶり」
「そうでもない」
「そうか」
ノア。
マティアス。
見る。
顔。
硬い。
「ノア」
マティアスが。
名前を呼ぶ。
少年。
すぐ。
「僕は」
「ノア」
「分かっている」
「なら」
「いい」
それだけ。
でも。
大事。
◇ ◇ ◇
監察官。
罪状。
読み上げる。
「王家霊廟への不法侵入」
「第二鍵の窃取」
「王立医術院警護官への傷害」
「禁制術式による」
「複数人体への記憶・魔力干渉」
「身元記録改変」
「未成年者を含む」
「被験者への」
「無断研究行為」
ノア。
拳。
握る。
セラ。
リア。
第三の道。
遠隔。
聞いている。
「被告」
「マティアス・グレイ」
「以上について」
「事実を認めるか」
マティアス。
顔。
上げる。
「認める」
「異議は」
「ない」
静か。
言い訳。
なし。
「動機」
監察官。
「中央泉へ融合した」
「父アルバート・グレイの」
「人格救出」
「及び」
「中央泉機構の停止」
「相違ないか」
「相違ない」
「その目的のため」
「他者を」
「犠牲にした」
「認識は」
マティアス。
少し。
止まる。
「ある」
「当時も?」
「……あった」
ノア。
顔。
上げる。
それ。
重要。
知らなかった。
ではない。
分かっていた。
「必要だと」
「判断した?」
「そうだ」
「現在は」
「誤りだったと」
「考えている?」
「考えている」
「なぜ」
マティアス。
少し。
息。
吸う。
「目的が」
「間違っていたとは」
「思っていない」
室内。
少し。
空気。
張る。
「父を」
「泉から」
「解放したい」
「その思いは」
「今も同じだ」
「だが」
「他人の人生を」
「道具にしていい理由には」
「ならなかった」
「当時の私は」
「それを」
「知りながら」
「無視した」
ノア。
黙る。
マティアス。
続ける。
「だから」
「罪状は」
「すべて」
「受け入れる」
◇ ◇ ◇
「証人」
最初。
ノア。
俺の隣から。
前へ。
小さい身体。
でも。
声。
震えながら。
出す。
「僕は」
「ノアです」
まず。
名前。
「マティアスに」
「前世のルークの」
「記憶を」
「入れられました」
「名前も」
「分からなくなりました」
「自分が」
「誰か」
「分からなくなった」
手。
震える。
「怖かったです」
監察官。
黙って。
聞く。
「今も」
「全部」
「戻ったわけじゃない」
「自分の」
「昔のこと」
「思い出せない」
「家族が」
「いたかも」
「分からない」
胸。
痛い。
「だから」
ノア。
マティアス。
見る。
「僕は」
「あなたを」
「許してません」
はっきり。
マティアス。
頷く。
「うん」
「でも」
「死んでほしいかは」
「分かりません」
監察官。
少し。
ペン。
止める。
「僕が」
「決めることじゃないし」
「今」
「決めたくない」
「ただ」
「もう」
「誰にも」
「同じこと」
「しないで」
マティアス。
「しない」
「僕に」
「約束して」
「約束する」
「嘘だったら」
「僕」
「すごく怒る」
「分かった」
ノア。
少し。
目。
赤い。
でも。
戻る。
俺の隣。
「どうだった」
俺。
「疲れた」
「うん」
「でも」
「言えた」
「うん」
◇ ◇ ◇
次。
第三の道。
起動。
紫。
薄い。
王城。
村。
つながる。
「セラ」
「聞こえる?」
『聞こえます』
監察官。
遠隔証言。
確認。
「本人確認」
『セラ』
『第三流路共同所有者』
「証言を」
『はい』
声。
少し。
硬い。
『マティアス』
「聞こえている」
『私たちを』
『どうして』
『選んだの』
ずっと。
聞きたかったこと。
マティアス。
すぐには。
答えない。
「条件が」
「合ったからだ」
セラ。
『それだけ?』
「……最初は」
「それだけだった」
「第三流路への」
「適性」
「姉妹間の」
「魔力共鳴」
「孤立した身元」
最後。
冷たい。
事実。
『孤立』
「家族が少なく」
「行方を」
「隠しやすいと」
「判断した」
リア。
息。
呑む。
『私たちなら』
『消えても』
『困る人が』
『少ないって?』
マティアス。
顔。
歪む。
「当時は」
「そう考えた」
沈黙。
重い。
『最低』
リア。
短い。
「そうだ」
『お姉ちゃん』
『足』
『なくなった』
「分かっている」
『分かってない!』
声。
強い。
『痛かった!』
『怖かった!』
『お姉ちゃん』
『死ぬかと』
『思った!』
「……ああ」
『それを』
『条件が合ったからって』
『言うの?』
マティアス。
目。
伏せる。
「言い訳できない」
『じゃあ』
リア。
泣いている。
声。
『謝って』
以前。
直接。
言うと。
約束した。
マティアス。
顔。
上げる。
「リア」
「セラ」
「私は」
「あなたたちを」
「人として見なかった」
「研究条件と」
「必要な部品として」
「扱った」
「その結果」
「身体と」
「人生を」
「傷つけた」
「すまなかった」
長い。
沈黙。
セラ。
先に。
『私は』
『許さない』
「分かっている」
『たぶん』
『ずっと』
『許さないかもしれない』
「それでいい」
『でも』
セラ。
声。
少し。
震える。
『ちゃんと』
『罪を』
『償って』
「そうする」
『死んで』
『終わりにしないで』
マティアス。
初めて。
明確に。
驚く。
「何」
『死刑になって』
『終わったら』
『私』
『嫌』
「なぜ」
『私の足』
『戻らないのに』
『あなたは』
『それで』
『終わりになるから』
室内。
静か。
『生きて』
『ずっと』
『自分がしたこと』
『覚えてて』
マティアス。
目。
閉じる。
「……分かった」
『約束は』
『いらない』
セラ。
『裁判が』
『決めるから』
強い。
「そうだな」
『それだけ』
セラ。
通信。
少し。
静か。
「リア」
監察官。
『私は』
『まだ』
『言いたい』
「どうぞ」
『マティアス』
「聞いている」
『私』
『嫌い』
「うん」
『でも』
『アルバートさんは』
『嫌いじゃない』
「……うん」
『だから』
『アルバートさんを』
『助けるのは』
『手伝ってもいい』
マティアス。
息。
止まる。
『でも』
『あなたのためじゃない』
「分かっている」
『アルバートさんが』
『出たいって』
『言ったから』
「ありがとう」
『礼』
『言わないで』
「……分かった」
リア。
怒っている。
でも。
人。
分ける。
マティアス。
アルバート。
別。
できている。
すごい。
◇ ◇ ◇
次。
俺。
証言席。
前。
「ルーク・E・オリバー」
「はい」
「被告との」
「関係」
難しい。
「敵でした」
少し。
室内。
反応。
「今は?」
「協力者でもあります」
「どちら」
「両方」
「説明を」
「俺を」
「第三鍵にするため」
「色々」
「利用しようとしました」
「でも」
「最後は」
「中央の泉を」
「壊さず」
「アルバートを」
「助ける方法を」
「一緒に探した」
「被告を」
「許している?」
「分かりません」
「怒りは」
「ある?」
「あります」
「何に」
「ノア」
「セラ」
「リア」
「人を」
「道具にしたこと」
「俺を」
「鍵として」
「見たこと」
「でも」
「父親を」
「助けたい気持ちは」
「理解できます」
「理解できれば」
「罪は軽くなる?」
「ならないと思います」
監察官。
俺を見る。
「理由」
「苦しかったら」
「誰かを」
「傷つけてもいい」
「には」
「ならないから」
前世。
俺。
自分。
同じ。
孤独。
母。
人。
信用しない。
それで。
傷つけた。
理由。
あっても。
消えない。
「ただ」
俺。
続ける。
「変わろうとしていることは」
「見てほしいです」
「情状酌量を」
「求める?」
「それも」
「俺が」
「決めることじゃない」
「じゃあ」
「何を」
「事実として」
「今のマティアスも」
「見てほしい」
「昔の罪だけじゃなく」
「今」
「何をしているか」
「それだけです」
監察官。
書く。
「以上?」
「あと」
「一つ」
「どうぞ」
「死刑は」
「できれば」
「避けてほしいです」
ノア。
俺。
見る。
マティアスも。
顔。
上げる。
「理由」
「セラと」
「少し同じ」
「死んだら」
「終わるから」
「アルバートの」
「分離研究」
「六人の子どもの」
「記憶回復」
「第三の道」
「マティアスが」
「責任を持って」
「できること」
「まだ」
「ある」
「罰を」
「受けながら」
「それを」
「続ける方法が」
「あるなら」
「そっちがいい」
監察官。
少し。
考える。
「意見として」
「記録する」
「ありがとう」
◇ ◇ ◇
エリシア。
証言。
彼女は。
マティアスの。
過去の研究。
第零研究室。
ラドウィン。
王家。
全部。
技術的な。
事実を。
淡々。
話す。
でも。
最後。
少し。
声。
変わる。
「マティアスは」
「危険な研究者です」
本人。
目。
閉じる。
「今も」
「知識は」
「危険」
「だから」
「自由に」
「研究させるべきではない」
厳しい。
「でも」
「その知識を」
「完全に」
「捨てるべきでもない」
「理由」
「中央泉」
「アルバート」
「模造器」
「彼しか」
「知っていない」
「部分が」
「多いからです」
「提案は」
「監視下での」
「研究協力」
「複数管理」
「単独判断禁止」
エリシア。
少し。
間。
「本人が」
「それを」
「受け入れるなら」
監察官。
マティアス。
見る。
「受け入れるか」
「受け入れる」
「自由を」
「大きく」
「制限される」
「分かっている」
「研究成果の」
「所有権も」
「持てない可能性」
「構わない」
「なぜ」
マティアス。
少し。
笑う。
「一人で」
「持たない方が」
「良いと」
「最近」
「学んだ」
ノア。
小さく。
鼻。
鳴らす。
「遅い」
「そうだな」
◇ ◇ ◇
審理。
休廷。
正式判決。
まだ。
後。
今日は。
罪状。
証言。
確認。
でも。
監察官。
最後。
「現時点では」
「被告の」
「死刑適用について」
「慎重審理とする」
マティアス。
表情。
変わらない。
「拘束は」
「継続」
「第零研究室への」
「直接立ち入り」
「禁止」
「ただし」
「中央泉及び」
「アルバート・グレイ人格分離に関する」
「技術協力を」
「監視下で」
「暫定許可」
俺。
少し。
息。
吐く。
死刑。
決まってない。
でも。
自由。
でもない。
今は。
それでいい。
◇ ◇ ◇
審理後。
廊下。
マティアス。
護送。
前。
少し。
止まる。
「ノア」
少年。
顔。
向ける。
「何」
「ありがとうとは」
「言わない」
「言わないで」
「ただ」
「名前」
「覚えている」
「うん」
「ノア」
「そう」
それだけ。
次。
俺。
「ルーク」
「何」
「死刑を」
「避けたいと」
「言ったな」
「うん」
「同情?」
「少しは」
「あるかも」
「でも」
「それだけじゃない」
「では」
「何」
「働いて」
「償って」
マティアス。
少し。
口元。
動く。
「厳しい」
「人を」
「道具にした人が」
「簡単に」
「終われると思わないで」
「……そうだな」
護送。
進む。
でも。
数歩。
マティアス。
止まり。
振り返る。
「ルーク」
「何」
「父上の」
「分離」
「今日」
「三十三だ」
「また五?」
「そうだ」
「安定?」
「百」
「良かった」
「父上が」
「君に」
「伝言」
「何」
「王都の」
「古い医術院地下書庫を」
「見ろ」
「どうして」
「エドワードが」
「最後に」
「残した研究が」
「あるらしい」
父。
また。
「何の」
「第三鍵ではない」
「では」
マティアス。
少し。
意味ありげ。
「転生についてだ」
俺。
止まる。
前世。
今世。
ずっと。
当たり前のように。
受け入れていた。
自分が。
自分へ。
転生したこと。
なぜ。
起きた。
その根本。
まだ。
完全には。
分かっていない。
「父さんが」
「調べてた?」
「そうらしい」
「アルバートが」
「中央泉の中で」
「断片を」
「思い出した」
「書庫」
「どこ」
「医術院旧棟」
「地下三階」
「封鎖区画」
前世の俺。
働いていた。
医術院。
その地下。
俺自身も。
知らなかった場所。
「セオドア」
「知ってる?」
老人。
少し。
顔。
歪む。
「場所は」
「知っている」
「中身は?」
「全部は」
「知らない」
「また」
「隠してた?」
「違う」
「エドワードが」
「私にも」
「開示しなかった」
血縁。
また。
父。
俺だけ。
「行く?」
ノア。
聞く。
俺。
少し。
考える。
「今日は」
「行かない」
全員。
少し。
驚く。
「疲れた」
「休む」
母。
すぐ。
満足そう。
「それでいいです」
「明日」
「皆で」
「行く」
「もちろん」
転生。
俺。
最初。
この人生。
やり直し。
自分で。
決めたと思っていた。
でも。
もしかしたら。
父。
中央の泉。
それより前。
何か。
関わっていた。
第三鍵は。
終わった。
だからこそ。
今度は。
鍵とは関係なく。
俺自身が。
なぜ。
もう一度。
俺として。
生まれたのか。
その答えを。
見る時が。
来ていた。




