Ep236. 泉と老人の対話
翌日。
王立医術院。
小会議室ではなく。
地下の。
対話観測室。
今日は。
ラドウィンがいる。
封魔具。
そのまま。
警護官。
二人。
俺。
母。
ノア。
エリシア。
セオドア。
ダグラス。
ゲイル。
人数。
多い。
「本当に」
ラドウィンが。
周囲を見る。
「ここまで」
「必要か」
「必要」
俺。
「嫌なら」
「やめる?」
「いや」
「話す」
老人。
変わらない。
「ネイにも」
「伝えてある」
「私と」
「話したいと?」
「うん」
「理由は」
「本人に」
「聞いて」
今日は。
俺が。
答えを。
代わりに言わない。
◇ ◇ ◇
媒介層。
いつもの。
食卓。
でも。
今日は。
場所。
少し違う。
王都の。
医術院。
窓。
外。
高い建物。
それでも。
机。
椅子。
鳥肉の煮込み。
変わらない。
「また」
ノア。
「鳥肉」
「約束」
俺。
「今日は」
「ラドウィンも」
「入る?」
直接ではない。
対話参加者。
座席。
一つ。
本人が。
いつでも。
切断できる。
「準備」
セオドア。
「完了」
『媒介層』
『構築』
水音。
ネイ。
来る。
青い少女。
赤い布。
鈴。
『鳥肉』
「うん」
『良い』
そこ。
確認。
早い。
続いて。
別の椅子。
白い光。
ラドウィン。
媒介層。
姿。
現れる。
老人。
最初。
ネイを。
見た瞬間。
動かない。
「あなたが」
「中央の泉?」
ネイ。
少し。
眉。
寄せる。
『ネイ』
「……そうだったな」
『あなた』
『消す人』
「そうだ」
即答。
空気。
重い。
「私は」
「君を」
「危険だと判断している」
『知っている』
「人を」
「何人も」
「傷つけた」
『うん』
「死者を」
「模造した」
『うん』
「人を」
「勝手に」
「つないだ」
『うん』
「それでも」
「生きる資格があると?」
母。
現実。
少し。
身体。
動く。
でも。
止めない。
ネイ。
長く。
黙る。
『資格』
「生きていい理由だ」
『分からない』
ラドウィン。
少し。
意外そう。
『私』
『悪いこと』
『した』
「そうだ」
『でも』
『今』
『変わりたい』
「それで」
「過去は消えない」
『消さない』
ネイ。
すぐ。
答える。
『覚えてる』
『ネイラ』
『ナエル』
『人』
『傷つけた』
『全部』
「苦しくないのか」
『苦しい』
「なら」
『それでも』
少女。
顔。
上げる。
『消えたくない』
ラドウィン。
目。
細くなる。
「自分の命は」
「大事か」
『うん』
「傷つけた人間の命より?」
難しい。
ネイ。
黙る。
『比べない』
俺。
少し。
息。
止める。
同じ。
「誰に」
「教わった」
『ルーク』
ラドウィン。
俺。
見る。
「なるほど」
何。
「そういうことか」
「何が」
「泉へ」
「人間の倫理を」
「教えている」
「悪い?」
「危険だ」
「どうして」
「人間の倫理は」
「一つではない」
「ルークが」
「正しいとは限らない」
「うん」
俺。
即。
「だから」
「俺だけじゃない」
ノア。
母。
ゲイル。
ダグラス。
ナエル。
エリシア。
セラ。
リア。
皆。
「ネイも」
「自分で」
「決める」
ラドウィン。
少し。
黙る。
『ラドウィン』
ネイ。
「何だ」
『あなた』
『怖い』
「君が?」
『違う』
『何を』
老人。
止まる。
『私が』
『また』
『人を』
『傷つけること』
「当然だ」
『それだけ?』
長い。
沈黙。
「……違う」
ラドウィン。
初めて。
声。
低くなる。
「私が」
「間違っていたと」
「認めることだ」
エリシア。
媒介層の外。
息。
呑む。
「私は」
「五十年以上」
「中央の泉は」
「消すしかないと」
「信じてきた」
「そのために」
「エリシアへ」
「役割を与えた」
「六人の子どもも」
「使った」
「君が」
「本当に」
「変われるのなら」
「私は」
「何をしてきた」
ネイ。
静か。
『分からない』
「慰めないのか」
『私も』
『同じ』
「何」
『私が』
『人を』
『離さなかった』
『何百年』
『必要だと』
『思った』
『でも』
『違った』
『だから』
『今』
『何だったか』
『分からない』
ラドウィン。
何も言わない。
『でも』
ネイ。
『今から』
『変える』
「過去は」
「戻らない」
『うん』
「私が」
「壊したものも」
『戻らない』
「なら」
『これから』
それしか。
ない。
「それで」
「十分か」
『分からない』
ネイ。
『でも』
『今』
『できる』
ラドウィン。
長く。
少女を。
見る。
「君は」
「人間か」
『昔』
「今は」
『ネイ』
「答えになっていない」
『良い』
ノア。
思わず。
笑う。
「それ」
「ネイらしい」
ラドウィン。
少し。
眉。
動く。
「私は」
「君を」
「まだ」
「信用しない」
『良い』
「なぜ」
『信用』
『今』
『なくても』
『話せる』
老人。
止まる。
『あなた』
『第三根』
『管理する?』
俺。
ネイ。
早い。
「ネイ」
「本人に」
「今?」
『聞く』
ラドウィン。
目。
細くなる。
「なぜ私だ」
『信用しない人』
「それが理由?」
『うん』
「普通」
「信用する相手へ」
「任せるものだ」
『皆』
『信用する人だけ』
『危ない』
セオドア。
小さく。
息。
吐く。
「正論だな」
「何」
ラドウィン。
少し。
嫌そう。
「第三根」
俺。
「残すなら」
「共同管理」
「ネイ」
「ナエル」
「セラ」
「リア」
「エリシア」
「そこへ」
「ラドウィン」
「入る案」
「俺も聞いた」
「どうする?」
老人。
すぐには。
答えない。
「私は」
「ネイを」
「消すべきだと」
「今も」
「完全には」
「考えを変えていない」
『良い』
「それでも?」
『止める人』
『必要』
「私が」
「また」
「第三鍵を」
「作ろうとしたら」
『皆で』
『止める』
「私も」
「管理される側か」
『皆』
対等。
誰か一人。
権限。
持たない。
「条件」
ラドウィン。
「一つ」
『何』
「中央泉が」
「外部へ」
「強制接続を」
「一度でも」
「再開した場合」
「第三根を」
「即時停止できる権限を」
「管理者全員へ」
「持たせろ」
ネイ。
考える。
『良い』
早い。
「嫌じゃない?」
俺。
『約束』
「何の」
『勝手に』
『つながらない』
「破ったら」
『止めて』
自分で。
言う。
ラドウィン。
少し。
顔。
変わる。
「分かった」
『管理』
「参加する」
エリシア。
外。
目。
見開く。
「本当に?」
「聞こえている」
ラドウィン。
「エリシア」
「私も」
「一人で」
「決めすぎた」
「今さら」
「遅い」
エリシア。
即。
「そうだ」
「でも」
「参加するなら」
「勝手に」
「第三鍵」
「作らないで」
「約束する」
「六人みたいなことも」
「しない?」
ラドウィン。
長く。
目。
閉じる。
「しない」
ノア。
媒介層。
声。
「本人に」
「聞く?」
「聞く」
「嫌って」
「言われたら?」
「やらない」
ノア。
少し。
頷く。
「覚えて」
「覚える」
◇ ◇ ◇
「ネイ」
俺。
「第三根」
「再構築」
「やる?」
『今』
「今日は」
「話だけ」
『待つ』
「できる?」
『できる』
「えらい」
『えらい』
ラドウィン。
少し。
眉。
ひそめる。
「自分で」
「言うのか」
『良い』
「誰が教えた」
「ノア?」
「違う」
「自然」
俺。
「たぶん」
「たぶん」
ノア。
笑う。
空気。
少し。
軽い。
「ラドウィン」
ネイ。
『質問』
「何だ」
『私』
『生きていい?』
老人。
止まる。
さっき。
資格。
問うた。
今度。
ネイ。
真正面。
聞く。
ラドウィン。
長い。
本当に。
長い。
沈黙。
「私に」
「聞くな」
ネイ。
少し。
影。
揺れる。
「君が」
「決めろ」
少女。
止まる。
「ただ」
老人。
続ける。
「生きると」
「決めるなら」
「過去に」
「目を閉じるな」
『閉じない』
「また」
「傷つける可能性も」
「認めろ」
『うん』
「止められる仕組みを」
「受け入れろ」
『うん』
「それでも」
「生きたいなら」
ラドウィン。
静か。
「私は」
「今は」
「止めない」
ネイ。
水。
頬。
少し。
揺れる。
『ありがとう』
「礼を」
「言われる筋合いではない」
『でも』
『聞いた』
「勝手にしろ」
言い方。
硬い。
でも。
以前。
泉を。
消すしかない。
そう。
言っていた男。
今。
止めない。
大きい。
◇ ◇ ◇
対話。
終了。
「ネイ」
「次」
『二日後』
「第三根」
『皆で』
「そう」
『ラドウィン』
「参加」
老人。
現実側。
溜息。
「参加する」
『良い』
「まだ」
「信用していない」
『良い』
「その返事」
「気に入らんな」
『良い』
ノア。
吹き出す。
「ネイ」
「わざと?」
少し。
間。
『少し』
「成長」
「そこ?」
俺も。
笑う。
媒介層。
消える。
◇ ◇ ◇
現実。
ラドウィン。
目。
開く。
封魔具。
そのまま。
最初。
何も。
言わない。
「どうだった」
俺。
「分からん」
「便利」
「その言葉を」
「使うな」
「でも」
「今」
「決めなくていい」
老人。
俺。
睨む。
「君は」
「本当に」
「エドワードに」
「似ていない」
「それ」
「褒めてる?」
「半分」
「半分?」
「残りは」
「腹が立つ」
「じゃあ」
「それでいい」
ラドウィン。
少し。
口元。
動く。
笑った?
たぶん。
◇ ◇ ◇
面会後。
エリシア。
廊下。
壁。
寄りかかる。
「大丈夫?」
俺。
「少し」
「ラドウィン」
「参加した」
「うん」
「意外」
「私も」
沈黙。
「嬉しい?」
「少し」
「腹立つ?」
「かなり」
「両方」
「そう」
エリシア。
俺。
見る。
「ルーク」
「何」
「昨日」
「義足」
「話」
「したでしょう」
「うん」
「設計図」
「見せて」
「今?」
「今」
「休まない?」
「見たい」
「好き?」
エリシア。
少し。
考える。
「研究」
「たぶん」
「好き」
「それ」
「二回目」
「なら」
「本当かも」
役割。
ではない。
本人。
選ぶ。
最初の。
もの。
「宿」
「来る?」
「いいの?」
「母さん」
見る。
バーバラ。
少し。
止まる。
でも。
「夕食までなら」
「いいです」
エリシア。
驚く。
「あなたが」
「許可するの?」
「宿は」
「私たちの部屋ですから」
「嫌なら」
「来なくていい」
「……行く」
母。
少し。
頷く。
◇ ◇ ◇
宿。
机。
義足。
設計図。
エリシア。
座る。
紙。
見る。
数秒。
「ここ」
「駄目」
「早い」
「負荷が」
「膝に」
「集中する」
「でも」
「関節」
「必要」
「二段」
「分ける」
「どうやって」
紙。
別。
書く。
速い。
「魔力補助」
「第三流路」
「常時」
「使わない」
「俺も」
「そう思う」
「歩行開始」
「方向転換」
「段差」
「その時だけ」
「補助」
「そう」
「それなら」
「リアの負荷も」
「減る」
セラ。
本人。
最終。
選ぶ。
でも。
選択肢。
増やす。
「靴」
「履きたいって」
俺。
「義足に?」
「うん」
「なら」
「足部」
「交換式」
「何それ」
「靴に合わせて」
「先端を」
「変える」
「できる?」
「職人次第」
エリシア。
目。
少し。
明るい。
楽しそう。
「これ」
ノア。
横から。
「研究?」
「医術設計」
「好き?」
エリシア。
止まる。
「……好き」
「三回目」
俺。
「確定?」
「何が」
「研究」
「好き」
エリシア。
少し。
笑う。
「そうかもしれない」
その時。
母。
夕食。
持ってくる。
「今日は」
「一緒に」
「食べますか」
エリシア。
手。
止まる。
「私も?」
「嫌なら」
「無理には」
「食べる」
即。
本人も。
驚いた顔。
「じゃあ」
俺。
「一緒」
「そうね」
◇ ◇ ◇
食卓。
母。
俺。
ノア。
オリヴィア。
ダグラス。
ゲイル。
エリシア。
鳥肉ではない。
魚。
「ネイ」
「怒る?」
ノア。
「今日は」
「対話終わった」
エリシア。
「泉は」
「食事まで」
「気にするの?」
「かなり」
「なぜ」
「匂い」
「覚えた」
「変」
「本人に」
「言わない方がいい」
「なぜ」
「怒るかも」
「泉が?」
「ネイ」
「そう」
エリシア。
少し。
笑う。
食べる。
一口。
止まる。
「どう?」
母。
「おいしい」
「良かった」
それだけ。
でも。
エリシア。
少し。
目。
伏せる。
「こういう」
「食事」
「初めて?」
俺。
「大人数は」
「研究室でも」
「あった」
「でも」
「違う?」
「違う」
「何が」
少し。
考える。
「目的が」
「ない」
「食べるだけ」
「そう」
「変」
「悪い?」
「いいえ」
エリシア。
もう一口。
「良い」
ネイと。
同じ。
◇ ◇ ◇
食後。
エリシア。
帰る前。
母が。
小さな包み。
渡す。
「何」
「焼き菓子」
「どうして」
「夜」
「お腹が空くかもしれないので」
「子どもじゃない」
「二十八歳ですものね」
「なら」
「いらない?」
エリシア。
包み。
見る。
「……いる」
母。
少し。
笑う。
「どうぞ」
「ありがとう」
エリシア。
扉。
前。
俺。
見る。
「ルーク」
「何」
「明日」
「第零研究室」
「来る?」
「何で」
「第三根」
「再構築の」
「設計」
「一緒に」
「見る」
「行く」
「母さん」
「午前だけ」
「分かった」
エリシア。
少し。
驚く。
「許可」
「取るんだ」
「最近」
「そうしてる」
「良い」
また。
「姉弟」
ノア。
横。
小声。
「何」
「似てきた」
「どこが」
「良いって」
「言うところ」
「それだけ」
エリシア。
少し。
笑う。
「じゃあ」
「明日」
「うん」
帰る。
姉。
まだ。
そう。
自然に。
呼べない。
でも。
明日。
また。
会う。
それで。
今は。
十分。
◇ ◇ ◇
夜。
王都。
静か。
紫の欠片。
光る。
『ルーク』
「ネイ?」
『老人』
「ラドウィン」
『怖い』
「うん」
『でも』
『話した』
「どうだった」
『まだ』
「分からない?」
『便利』
「本当に」
「使うね」
『良い』
「第三根」
「明日」
「設計見る」
『姉』
「エリシアも」
『信用』
「まだ」
『私も』
「それでいい」
『でも』
『研究』
「好きみたい」
『良い』
「今日は」
「そればっかり」
『良い』
俺。
笑う。
「ネイ」
「アルバート」
『二十八』
「また」
「五?」
『うん』
「安定」
『百』
「良かった」
『ナエル』
「何」
『話した』
「どうだった」
『怒った』
「まだ?」
『でも』
『歌』
何。
『歌った』
「ナエルが?」
『うん』
「ネイも?」
『少し』
歌。
第三の道。
原型。
「良かった?」
長い。
間。
『良かった』
「じゃあ」
「次」
「第三根」
『皆で』
「うん」
『ルーク』
「何」
『姉』
「うん」
『良い?』
俺。
少し。
考える。
「まだ」
「分からない」
『でも』
「また」
「会いたい」
『それ』
『良い』
「うん」
通信。
終わる。
明日。
第零研究室。
第三根。
再構築。
もう。
人を。
閉じ込めるためではない。
離れていても。
話すため。
助けを。
求めるため。
そして。
必要なら。
切るため。
新しい。
第三の道。
それを。
ネイ。
ナエル。
セラ。
リア。
エリシア。
ラドウィン。
皆で。
作り直す。
父たちが。
一人で。
作ってきたものを。
今度は。
一人ではなく。
作り直す。
俺は。
それが。
第三鍵がなくなった後の。
最初の仕事に。
なるのかもしれないと。
少しだけ。
思った。




