Ep235. 役割を失った姉弟
翌朝。
王都の空は。
薄い雲に覆われていた。
宿の窓から。
高い塔が見える。
前世では。
何度も見た景色。
でも。
今日は。
違う。
「来るの」
「エリシア」
ノアが。
朝食のパンをちぎりながら言う。
「うん」
「怖い?」
「少し」
「会いたい?」
「分からない」
「便利」
「それ」
「ネイの真似」
「使いやすい」
今。
決めなくていい。
会ってから。
考える。
「どこで会うの?」
オリヴィア。
「医術院」
「第零研究室じゃない?」
「そこは」
「まだ」
「警備上」
「危ない」
セオドアが。
王立医術院の。
小会議室を。
用意した。
窓。
一つ。
扉。
二つ。
警護官。
外。
母も。
同席。
ノアも。
俺が。
そう頼んだ。
「二人きりじゃなくて」
「いいのかな」
ノア。
「むしろ」
「二人きりにしない」
母。
即答。
「エリシアが」
「嫌って言ったら?」
「その時」
「別の方法を考えます」
母も。
まだ。
整理できていない。
夫。
エドワード。
知らなかった娘。
当然。
「母さん」
「無理なら」
「来なくても」
「行きます」
「でも」
「つらい?」
「つらいです」
ちゃんと。
言う。
「だからこそ」
「一度」
「本人を見ます」
「分かった」
◇ ◇ ◇
王立医術院。
昨日より。
警備が増えていた。
東門。
北門。
六人の模造器。
ラドウィン。
未登録権限。
王都全体が。
少し。
緊張している。
「六人は?」
俺が。
セオドアへ尋ねる。
「全員」
「安定している」
「ミアは?」
「今朝」
「自分の名前を」
「もう一度確認した」
「覚えてた?」
「ああ」
「良かった」
残り五人。
名前。
まだ。
曖昧。
でも。
急がない。
「ラドウィン」
「北門詰所から」
「移送した」
「どこへ」
「王城監察房」
「話せる?」
「今は」
「やめた方がいい」
「どうして」
「エリシアとの面会を」
「先にしろ」
セオドア。
何か。
知っている顔。
「ラドウィンと」
「エリシア」
「関係ある?」
「ある」
「何」
「彼女を」
「育てたのは」
「ラドウィンだ」
止まる。
「父さんじゃなく?」
「エドワードは」
「研究を中止した後」
「エリシアを」
「施設から出そうとした」
「だが」
「王家が」
「許可しなかった」
「王家?」
「第三鍵の予備として」
「価値があると」
「判断した」
父。
やめようとした。
でも。
遅かった。
生まれた子ども。
研究対象。
王家。
手放さない。
「ラドウィンは」
「監督官として」
「エリシアの」
「保護責任者になった」
「保護?」
ノア。
声。
冷たい。
「第三鍵を」
「残したい人が?」
「当時は」
「エリシアを」
「実験へ使うことに」
「反対していた」
「じゃあ」
「本当に」
「守ってた?」
「ある意味では」
曖昧。
「ある意味?」
「本人に」
「聞け」
セオドア。
それ以上。
言わない。
良い。
先入観。
増やさない。
◇ ◇ ◇
小会議室。
俺。
母。
ノア。
オリヴィア。
ゲイル。
セオドア。
人数。
多い。
「これ」
「面会?」
ノア。
「尋問みたい」
「エリシアが」
「嫌なら」
「減らす」
扉。
外。
足音。
一人。
止まる。
警護官。
扉を開く。
「エリシア・E・オリバー」
女性。
入る。
昨日。
遠隔で。
声だけ。
聞いた。
今。
初めて。
見る。
白衣。
長い。
黒に近い。
濃い茶の髪。
瞳。
灰色。
俺。
少し。
息を止める。
似ている。
「父さん」
口から。
出た。
顔そのものではない。
目。
眉。
考える時。
少し。
首を傾ける癖。
零号。
父の記憶。
そこに。
近い。
エリシアも。
俺を見る。
長く。
見て。
「似てない」
第一声。
「何が」
「父に」
「あなたは」
「顔」
「母親似」
母。
少し。
反応。
「そう?」
「目は」
「エドワードに」
「似ています」
バーバラ。
エリシア。
二人。
初めて。
視線。
合う。
空気。
重い。
「座る?」
俺。
エリシア。
「そうする」
椅子。
俺の。
向かい。
母。
斜め。
ノア。
隣。
「人」
「多い」
エリシア。
「嫌?」
「少し」
「減らす?」
「いい」
「一人より」
「まし」
その言葉。
少し。
意外。
◇ ◇ ◇
「まず」
俺。
「本当に」
「父さんの娘?」
「遺伝認証」
「する?」
「できる?」
「できる」
セオドア。
準備。
白石。
血。
ほんの一滴。
俺。
エリシア。
母は。
必要なし。
『血縁照合』
『父系一致』
『高』
『同父異母血縁』
『確定』
姉。
本当。
「……姉」
俺。
言う。
エリシア。
少し。
顔。
動く。
「無理に」
「そう呼ばなくていい」
「じゃあ」
「エリシア」
「それで」
「いい」
距離。
今は。
それくらい。
「母親」
俺。
「誰」
「記録上」
「イレーネ・フォル」
「知ってる?」
セオドア。
「元研究協力者」
「生きてる?」
エリシア。
「十七年前に死亡」
「会った?」
「一度も」
「何で」
「研究契約」
「出産後」
「接触禁止」
「本人も」
「同意した」
母親。
いて。
でも。
母ではない。
役割。
提供者。
「父さんは」
「どれくらい」
「会いに来た?」
「幼い頃は」
「月に一度」
「その後」
「減った」
「俺が」
「生まれてから?」
エリシア。
目。
逸らさない。
「かなり」
胸。
少し。
痛い。
「ごめん」
「なぜ」
「俺が」
「生まれたから」
「あなたに」
「父さんが」
「会わなくなった」
「それは」
「あなたが」
「決めたことじゃない」
即答。
「父が」
「決めた」
「だから」
「あなたが」
「謝る必要はない」
言っていること。
正しい。
でも。
昔。
恨んでいた。
そう。
言った。
「それでも」
「昔」
「俺を」
「恨んだ?」
「恨んだ」
「どんなふうに」
「あなたが」
「いなければ」
「父は」
「もっと」
「私を見た」
「そう思った」
「今は?」
「それが」
「間違っていたと」
「分かっている」
「父は」
「あなたが生まれなくても」
「私を」
「研究から」
「切り離そうとした」
「それは」
「愛情?」
エリシア。
少し。
黙る。
「分からない」
「聞けなかった?」
「聞かなかった」
「どうして」
「怖かった」
同じ。
「父が」
「私を」
「娘ではなく」
「失敗した研究だと」
「思っていたら」
「確認したくなかった」
父。
もう。
いない。
聞けない。
だから。
ずっと。
分からない。
「零号」
俺。
「父さんの」
「人格保存体」
「会った」
エリシア。
初めて。
大きく。
反応。
「知っていたの?」
「存在は」
「知っていた」
「会わなかった?」
「会えなかった」
「どうして」
「父の姿で」
「父ではないものを」
「見るのが」
「怖かった」
母。
静かに。
聞いている。
「俺は」
「会った」
「何て」
エリシア。
声。
少し。
早い。
「父さん」
「最後に」
「研究より」
「人を助けろって」
「残してた」
「それは」
「知ってる」
「俺が」
「生まれた日」
「父さん」
「泣いたって」
エリシア。
止まる。
「嬉しくて」
「廊下で」
「一人で」
「泣いた」
「……そう」
声。
細い。
「ごめん」
「また」
「なぜ」
「それ」
「聞きたくなかった?」
「聞きたく」
エリシア。
一度。
止まる。
「なかった」
正直。
「でも」
「知りたかった」
両方。
ある。
「父は」
「私が」
「生まれた時」
「泣いた?」
「分からない」
セオドアも。
母も。
知らない。
「記録」
エリシア。
「ない?」
セオドア。
「第零研究室に」
「出産記録はある」
「映像?」
「ない」
エリシア。
少し。
顔。
落ちる。
俺。
何も。
言えない。
慰め。
適当。
したくない。
「でも」
母が。
静かに。
口を開く。
「エドワードは」
「あなたのことを」
「話したことがあります」
全員。
止まる。
「母さん」
「知ってた?」
「娘だとは」
「知りませんでした」
「では」
エリシア。
母を見る。
「何を」
「昔」
「研究で」
「取り返しのつかないことをした」
「そう」
「言っていました」
「誰かを」
「生まれた時から」
「役割へ縛ってしまったと」
エリシア。
目。
揺れる。
「名前」
「言った?」
「言いませんでした」
「でも」
母。
続ける。
「その人を」
「自由にしたい」
「自分を」
「父だと」
「思わなくてもいいから」
「自由にしたい」
「そう」
「言っていました」
エリシア。
呼吸。
止まりそう。
「いつ」
「ルークが」
「生まれる前です」
「俺より」
「前」
なら。
父が。
エリシアを。
切り離そうとしたのは。
俺が。
生まれたから。
ではない。
「私」
エリシア。
声。
震える。
「聞いてない」
「本人から」
「言われてない」
母。
「はい」
「だから」
「それが」
「あなたにとって」
「十分だとは」
「思いません」
「でも」
「知っておいても」
「いいと思いました」
エリシア。
俯く。
泣かない。
でも。
手。
強く。
握る。
「父」
「卑怯」
小さく。
「そうですね」
母。
即答。
俺。
少し。
驚く。
「母さん」
「何です」
「肯定」
「します」
「言うべきことを」
「本人へ」
「言わなかったのですから」
エリシア。
ほんの少し。
笑う。
「あなた」
「父に」
「怒ってる?」
「かなり」
「私も」
「そこは」
「同じですね」
初めて。
二人。
少し。
同じ場所。
◇ ◇ ◇
「ラドウィン」
俺。
本題。
「あなたを」
「育てた?」
「そう」
「どんな人」
「厳しい」
「でも」
「私を」
「実験へ使わせなかった」
「じゃあ」
「守った?」
「守った」
エリシア。
はっきり。
「少なくとも」
「子どもの頃は」
「でも」
「第三鍵の予備って」
「役割は」
「消してくれなかった?」
「逆」
「大きくなってから」
「それを」
「私の使命だと」
「教えた」
「なぜ」
「父が」
「研究を止めた後」
「ラドウィンは」
「中央泉の危険を」
「もっと強く」
「恐れるようになった」
「泉を」
「消すために」
「あなたを?」
「育てた」
保護。
役割。
両方。
だから。
エリシアも。
ラドウィンを。
簡単に。
悪人とは。
言えない。
「好き?」
ノアが。
突然。
「ラドウィンのこと」
エリシア。
少年を見る。
「好き」
「でも」
「今」
「やってること」
「嫌い」
「それ」
「ネイが」
「ナエルに」
「言ってたのと同じ」
エリシア。
少し。
目を細める。
「ネイと」
「話したことある?」
「ない」
「話してみる?」
「まだ」
「怖い?」
「怖い」
「何が」
「自分が」
「間違っていたと」
「思うこと」
そこ。
「第三鍵を」
「残すべきって」
「ずっと」
「信じてきた」
「ネイと話して」
「必要ないって」
「本当に思ったら」
「私の人生」
「何だったの」
役割。
失う。
怖さ。
「俺も」
俺は言う。
「第三鍵」
「消えた」
「何だったんだろうって」
「思う?」
「思う」
「答え」
「ある?」
「まだない」
「でも」
「役割のためだけに」
「生きたことに」
「しなくてもいいと思う」
「どういう意味」
「その途中で」
「会った人」
「選んだこと」
「失敗」
「全部」
「残る」
「俺」
「第三鍵じゃなくなっても」
「母さんの子」
「ノアの友達」
「村の」
「ルーク」
「それは」
「消えない」
エリシア。
俺。
見る。
「私は」
「何が」
「残る?」
「知らない」
正直。
「だから」
「これから」
「作る」
「簡単」
「じゃない」
「分かってる」
「でも」
「まず」
「今日」
「俺と」
「会った」
エリシア。
止まる。
「それ」
「残る」
「姉弟?」
「今は」
「分からない」
「でも」
「父親が」
「同じ」
「会った」
「それは」
「事実」
エリシア。
少し。
目。
赤い。
「あなた」
「変」
「よく言われる」
「言われない」
「最近」
「周りに」
「言われる」
ノア。
「僕は」
「言ってない」
「顔が」
「言ってる」
空気。
ほんの少し。
軽くなる。
◇ ◇ ◇
「エリシア」
母。
「これから」
「どうするの?」
「分からない」
「第零研究室?」
「戻る」
「なぜ」
「アルバート」
「ナエル」
「ネイ」
「第三根」
「技術的に」
「私が」
「必要」
「それは」
「自分で」
「やりたい?」
母。
ネイと。
同じ問い。
エリシア。
考える。
「……少し」
「少し?」
「研究」
「嫌いじゃない」
「初めて」
自分。
好み。
出た。
「じゃあ」
俺。
「それ」
「一つ」
「ある」
「何」
「研究」
「好きかもしれない」
エリシア。
小さく。
息。
吐く。
「そうね」
「でも」
「第三鍵」
「もう」
「ない」
「だから」
「別の研究」
「できる」
ノア。
「義足」
「何」
「セラの」
「ルーク」
「作ろうとしてる」
「魔力補助」
「第三流路」
「使う」
エリシア。
初めて。
明確に。
興味。
顔。
変わる。
「設計」
「ある?」
「ある」
「見たい」
「本当に?」
「第三流路を」
「生命補助ではなく」
「運動補助へ」
「限定接続するなら」
「干渉域を」
「分ける必要がある」
急に。
研究者。
早い。
「それ」
俺。
「考えてた」
「でも」
「安全率」
「足りない」
「三重制限」
「入れれば」
「上げられる」
「何それ」
「後で」
エリシア。
少し。
止まる。
「後で」
「うん」
「後が」
「あるのね」
「会うなら」
「ある」
エリシア。
微かに。
笑った。
◇ ◇ ◇
面会。
終わり。
ではない。
でも。
一度。
休憩。
「ラドウィン」
俺。
「会う?」
エリシア。
表情。
戻る。
「会う」
「一緒に?」
「あなたは」
「来ない方がいい」
「どうして」
「ラドウィンは」
「第三鍵を」
「失った直後」
「冷静ではない」
「俺」
「鍵じゃない」
「だからこそ」
「怒る」
「じゃあ」
「エリシアは」
「大丈夫?」
「私には」
「怒る資格」
「あると思ってる」
「危ない」
「警護」
「つける」
「分かった」
「俺も」
「後で」
「話したい」
「何を」
「ネイ」
「第三鍵」
「六人」
「全部」
「直接」
「聞く」
エリシア。
少し。
考え。
「分かった」
「その前に」
「私が」
「話す」
「何を」
「あなたが」
「もう」
「鍵ではないこと」
「それ」
「怒る?」
「かなり」
「大丈夫?」
「たぶん」
「たぶん」
俺。
言う。
エリシア。
少し。
笑う。
「便利ね」
「便利」
◇ ◇ ◇
午後。
俺たちは。
保護区画。
六人の子ども。
確認。
ミア。
今日は。
ベッドから。
起きている。
「ルーク」
「覚えた?」
「うん」
「ノア」
「僕も」
「名前」
「ちゃんと」
「ミア?」
「うん」
「良かった」
他。
一人。
少年。
名前。
思い出した。
「ケイン」
本人。
自分で。
選ぶ。
残り。
四。
「急がない」
俺。
セオドア。
頷く。
「模造魔力」
「少しずつ」
「抜けている」
「元の魔力は?」
「戻っている」
良い。
「ラドウィン」
「この子たち」
「どこから」
「連れてきた?」
「今」
「調査中」
「家族」
「いる?」
「三人」
「身元候補」
「確認中」
会える。
可能性。
ある。
「本人に」
「先に」
「聞いて」
「家族」
「会いたいか」
「もちろん」
同意。
もう。
大事。
◇ ◇ ◇
夕方。
宿へ戻る前。
第零研究室。
エリシアから。
短い連絡。
『ラドウィンと』
『話した』
「どうだった」
『怒られた』
「やっぱり」
『第三鍵廃棄を』
『裏切りと』
『言われた』
「何て返した?」
少し。
間。
『私の人生は』
『あなたの恐怖を』
『支えるために』
『あるのではない』
強い。
「それ」
「自分で」
「言った?」
『そう』
「どうだった」
『怖かった』
「でも」
『少し』
『楽だった』
「ラドウィンは?」
『泣いた』
「え」
『初めて』
「何て」
『すまない』
また。
大人。
謝る。
遅い。
『でも』
『第三鍵を』
『諦めてはいない』
「まだ?」
『そう』
「じゃあ」
「俺」
「話す」
『明日』
「うん」
『一人で』
「行かない」
『分かってる』
「もう」
「知ってる?」
『父の記録』
『あなたの話』
『少し』
「じゃあ」
「明日」
『ルーク』
「何」
『私も』
「来る?」
『いい?』
「うん」
『……ありがとう』
通信。
終わる。
◇ ◇ ◇
夜。
紫の欠片。
ネイ。
『姉』
「会った」
『どう』
「分からない」
『便利』
「うん」
『嫌い』
「じゃない」
『好き』
「まだ」
「分からない」
『でも』
「また」
「話したい」
少し。
間。
『それ』
『良い』
「ネイは」
「ナエル」
「どう」
『怒った』
「うん」
『泣いた』
「うん」
『また』
『話す』
「同じ」
『姉も』
「たぶん」
『家族』
「まだ」
「決めなくていい」
『そう』
ネイ。
少し。
静か。
『第三根』
「明日以降」
「話す」
『エリシア』
「参加」
「するかも」
『怖い』
「でも」
「信用しなくても」
「一緒に」
「管理できる」
『分からない』
「それでいい」
『便利』
「使いすぎ」
『良い』
俺。
笑う。
「ネイ」
「第三鍵」
「完全に」
「ない?」
『ない』
「本当に」
『作り直さない』
「うん」
『ラドウィン』
「明日」
「話す」
『私も』
「今は」
「つながらない」
『同意』
「そう」
『待つ』
「できる?」
『できる』
「えらい」
『えらい』
また。
自分で。
言う。
でも。
今日は。
それでいい。
◇ ◇ ◇
翌朝。
王城監察房。
俺。
母。
ゲイル。
セオドア。
そして。
エリシア。
五人。
面会室。
厚い。
ガラスではなく。
魔力遮断壁。
向こう。
ラドウィン。
白髪。
杖。
なし。
封魔具。
椅子。
老人。
俺を見る。
長い。
目。
「ルーク」
「初めまして」
「初めまして」
「第三鍵」
「もう」
「ありません」
俺。
先に。
言う。
ラドウィン。
目。
閉じる。
「そうか」
意外。
静か。
「怒らない?」
「怒っている」
「でも」
「エリシアに」
「昨日」
「かなり」
「怒った」
姉。
少し。
顔。
硬い。
「今日」
「君へ」
「怒鳴っても」
「鍵は戻らない」
「それは」
「そう」
「六人」
「どうして」
「使った?」
「中央泉を」
「消すため」
「本人たちに」
「聞いた?」
「聞いていない」
「何で」
「拒否すると」
「分かっていた」
最低。
「それ」
「駄目」
「ああ」
何。
老人。
認める。
「でも」
「必要だと」
「思った」
「今も?」
「思っている」
「じゃあ」
「同じこと」
「また」
「やる?」
ラドウィン。
長い。
沈黙。
「できるなら」
母。
息。
強く。
吸う。
エリシア。
目。
閉じる。
「なら」
俺。
「信用できない」
「当然だ」
「でも」
「話す」
「なぜ」
「ネイが」
「あなたと」
「話したいって」
「言ってる」
老人。
初めて。
表情。
変わる。
「泉が?」
「名前」
「ネイ」
「人間だった」
「知ってる?」
「記録では」
「見た」
「ネイラ」
「そう」
「でも」
「今」
「ネイ」
「あなたを」
「消したい人って」
「知ってる」
「それでも」
「話したい」
「何のため」
「分からない」
「本人に」
「聞く」
ラドウィン。
少し。
笑う。
「私が」
「同意すると」
「思うか」
「嫌なら」
「つながらない」
老人。
止まる。
「何」
「ネイ」
「勝手に」
「人の頭へ」
「入らないって」
「決めた」
「あなたが」
「嫌って言えば」
「話さない」
ラドウィン。
長く。
俺を見る。
「それが」
「学習した結果か」
「そう」
「信用できない」
「いい」
「でも」
「話さないと」
「もっと」
「信用できない」
老人。
少し。
笑う。
「父親に」
「似ていない」
「よく言われる」
「エドワードなら」
「まず」
「安全性を」
「数値で」
「並べた」
「俺も」
「前世なら」
「そうした」
「今は」
「人に」
「聞く」
「効率が悪い」
「うん」
「でも」
「それで」
「助かった人も」
「いる」
ノア。
リア。
セラ。
ネイ。
マティアス。
俺。
「ラドウィン」
「話す?」
老人。
目。
閉じる。
長い。
そして。
「条件がある」
「何」
「私が」
「いつでも」
「切断できること」
「できる」
「ネイにも」
「切断権」
「ある」
「対等か」
「そう」
「監視者」
「複数」
「当然」
「記録」
「残す」
「いい」
「なら」
老人。
目。
開く。
「話そう」
エリシア。
小さく。
息。
吐く。
「本当に?」
「私は」
「泉を」
「五十年以上」
「危険だと」
「考えてきた」
「だから」
「一度くらい」
「本人の話を」
「聞くべきだったのかもしれん」
遅い。
でも。
聞く。
「じゃあ」
俺。
「明日」
「準備する」
「なぜ今日ではない」
「ネイとの」
「対話日」
「明日」
「泉に」
「予定がある?」
「ある」
ラドウィン。
少し。
呆れた顔。
「中央泉へ」
「予定表を」
「作ったのか」
「待つ練習」
「してる」
「……そうか」
老人。
初めて。
ほんの少し。
笑った。
第三鍵を。
残すことに。
人生を使ってきた男と。
第三鍵を。
自分から捨てた泉。
二人が。
初めて。
直接。
話すことになった。




