# Ep231. 鍵ではない俺
『第三鍵機構』
『廃棄率』
『三十一』
王都から届いた招集状と。
保存盤の表示を。
俺は交互に見た。
七日以内。
王都へ来い。
中央の泉。
第零研究室。
未解読文書。
マティアスの裁判。
全部。
俺の証言が必要。
「行くんだね」
ノアが言う。
「うん」
「今度は」
「鍵としてじゃなく」
「そう」
そこ。
大事。
王都へ戻る理由。
第三鍵だから。
ではない。
父の息子だから。
でもない。
「俺が」
「見たこと」
「知ったこと」
「選んだこと」
「それを」
「話しに行く」
母が。
招集状を。
ゆっくり畳む。
「いつ出るの?」
「三日後」
「早い」
「でも」
「七日以内」
「王都まで五日」
「普通の道なら」
ゲイル。
地図を広げる。
「だが」
「北回りで」
「四日半」
「地下水路は?」
「もう使わない」
「どうして」
「マティアスの件で」
「第零研究室周辺は」
「王都側が封鎖した」
「なら」
「普通に入る」
「東門?」
「いや」
「北門」
セオドアの警告。
東門。
待ち伏せ。
今。
マティアスは拘束。
それでも。
誰が。
残っているか。
分からない。
「北から」
「安全に」
「入る」
「分かった」
母。
少し。
考える。
「私も行きます」
「え」
「今度は」
「残らない?」
「セラさんも」
「リアも」
「状態が安定しています」
「村の薬師は?」
「マリアさんに」
「頼みます」
俺。
一瞬。
止まる。
「マリア?」
「村の薬師の」
「おばあさん」
「あ」
そうだった。
母とは。
別。
今。
薬師小屋へ。
手伝いに。
来てくれている。
「行く」
母は言う。
「王都で」
「エドワードのこと」
「話す必要もあるでしょう」
「うん」
「それに」
「あなたを」
「一人にしないため」
「一人じゃない」
「もっと」
「増やします」
強い。
「私も」
オリヴィア。
「当然」
「ゲイルは?」
「護衛」
「ノア」
「行く」
「ダグラス」
「行く」
「リアと」
「セラは?」
姉妹。
顔。
見合わせる。
「私は」
セラが言う。
「残る」
「傷」
「まだ」
「移動は厳しい」
「私も」
リア。
少し。
不満そう。
「お姉ちゃんと」
「いる」
「紫の石」
「持ってく?」
俺。
共同所有。
第三流路。
今。
解体。
一時停止。
「持っていかない」
セラ。
即答。
「これは」
「私たちのもの」
「王都には」
「渡さない」
「うん」
「それでいい」
父が。
残したもの。
王家でも。
医術院でも。
俺でもない。
姉妹の選択。
◇ ◇ ◇
「でも」
リアが。
小さな紫の欠片を。
俺へ差し出す。
「これは」
「持ってって」
「前と同じ?」
「うん」
「連絡用」
「返す」
「絶対」
「うん」
預かる。
継承。
ではない。
ただ。
借りる。
「ネイと」
「話す時も」
「使える?」
「たぶん」
「第三流路」
「残すなら」
「今後」
「こういう使い方に」
「なるかも」
離れていても。
話す。
人を。
閉じ込めない。
第三の道。
本来の形。
「王都で」
「ネイに」
「聞く」
「残したいか」
「うん」
◇ ◇ ◇
翌朝。
保存盤。
『第三鍵機構』
『廃棄率』
『四十七』
半分近い。
『第一根』
『消失』
『第二根』
『消失』
『第三根』
『解体一時停止』
「全部」
「順調?」
俺が尋ねる。
セオドア。
『現状』
『異常なし』
「ネイは?」
『自己安定率』
『九十二』
「ナエル」
『九十四』
「アルバート」
『分離率』
『二十三』
「増えた?」
『昨夜』
『五パーセント分離を』
『ネイ自身が』
『実行』
「勝手に?」
少し。
不安。
『事前設定範囲内』
「約束」
「五ずつ」
『守っている』
「構造」
『安定率百』
良い。
ネイ。
自分で。
治療を。
続けている。
「アルバート」
「正式保存核」
『二十三パーセント』
「人格保持」
『五十六』
「上がってる?」
『分離するほど』
『中央泉由来の』
『混濁が減る』
アルバート本人の。
輪郭。
戻っている。
「良かった」
マティアス。
王都。
拘束中。
それを。
聞いたら。
少し。
安心するだろう。
◇ ◇ ◇
その日の昼。
ナエルが。
初めて。
紫の欠片から。
直接。
俺へ。
話しかけた。
『ルーク』
「ナエル?」
『はい』
「大丈夫?」
『少し』
「ネイと」
「話した?」
『まだ』
「どうして」
『怖い』
正直。
「ネイは」
「怒ってる」
『知っています』
「でも」
「話したいって」
「言ってた」
『それも』
『知っています』
「じゃあ」
「何が怖い」
『嫌われること』
同じ。
前にも。
言った。
「嫌われるかも」
『はい』
「それでも」
「話す?」
長い。
間。
『話します』
「なら」
「いつ」
『あなたが』
『王都へ着く前に』
「どうして」
『ネイが』
『あなたを』
『待っているから』
「俺?」
『第三鍵』
「もう」
「消えてる途中」
『だからこそ』
ナエル。
声。
静か。
『鍵ではない』
『あなたと』
『話したいのでしょう』
少し。
胸。
軽くなる。
ネイ。
俺を。
役割ではなく。
俺として。
待つ。
「分かった」
「出発前に」
「一回」
「皆で」
「話す」
『はい』
◇ ◇ ◇
夕方。
セラ。
また。
座位練習。
リア。
紫の流路。
少しだけ。
補助。
「今日は」
「長い」
セラ。
「何分?」
「十分」
ダグラス。
「昨日は」
「五分」
「倍」
「すごい」
リア。
「でも」
「疲れた」
「休む」
セラ。
すぐ。
横になる。
前なら。
もっと。
無理したかもしれない。
「待つ練習」
俺。
「うるさい」
セラ。
笑う。
「王都」
「行くんでしょう」
「うん」
「マティアス」
「会う?」
「裁判」
「たぶん」
セラ。
表情。
少し。
硬くなる。
「謝るって」
「言ってた」
「うん」
「聞く?」
「聞く」
「許す?」
「分からない」
「それでいい」
俺は言う。
「許すかどうか」
「今」
「決めなくていい」
「でも」
セラ。
失った。
両脚。
理由の。
一部。
マティアス。
「私は」
「聞きたい」
「何を」
「どうして」
「私たちだったのか」
リアも。
姉を見る。
「うん」
「それ」
「聞きたい」
「伝える?」
「いや」
セラ。
首。
横。
「本人に」
「私が」
「聞く」
「王都へ?」
「今は」
「無理」
「裁判」
「後で」
「会えるなら」
本人。
自分で。
聞く。
「分かった」
「それ」
「伝える」
「ありがとう」
◇ ◇ ◇
出発前夜。
最後の。
対話。
薬師小屋。
食卓。
鳥肉。
当然。
「母さん」
「また」
「何です?」
「もう」
「鳥肉」
「飽きない?」
「ネイとの」
「約束なので」
「俺たちが」
「食べる」
「なら」
「食べてください」
ノア。
「僕」
「まだ好き」
「良かった」
食事。
後。
準備。
今日は。
特別。
媒介層。
参加者。
俺。
ノア。
ナエル。
ネイ。
エレナは。
外から。
補助。
「ナエル」
俺。
「大丈夫?」
『怖い』
「ネイも」
「たぶん」
「怖い」
『そうですね』
「じゃあ」
「始める」
◇ ◇ ◇
食卓。
いつもの。
場所。
青い水。
ネイ。
今日は。
少女。
姿。
前より。
安定。
赤い布。
小さな鈴。
『鳥肉』
「うん」
『同じ』
「約束」
『守った』
「うん」
少し。
間。
ナエル。
別の椅子。
現れる。
若い。
神官。
ネイ。
すぐ。
見ない。
鍋。
見る。
ナエルも。
何も。
言えない。
「二人とも」
俺。
「俺が」
「最初に」
「話していい?」
『うん』
ネイ。
『お願いします』
ナエル。
「ナエル」
「ネイの記憶を」
「勝手に封じた」
『はい』
「ネイ」
「ナエルを」
「死んだ後も」
「勝手に残した」
『うん』
「二人とも」
「相手を」
「大事に思ってた」
「でも」
「相手に」
「聞かなかった」
静か。
「だから」
「今日は」
「自分のことを」
「話して」
「相手が」
「どう思うか」
「決めさせる」
『分かった』
ネイ。
ナエル。
深く。
息。
まず。
ナエル。
『ネイ』
少女。
少し。
顔。
上げる。
『ごめんなさい』
『記憶を』
『消したのは』
『あなたを』
『守るためだけでは』
『ありません』
ネイ。
静か。
『私が』
『あなたに』
『嫌われるのが』
『怖かった』
『あなたが』
『全部思い出したら』
『私を』
『閉じ込めた人だと』
『思うかもしれない』
『だから』
『逃げました』
ネイ。
長く。
黙る。
『卑怯』
ナエル。
目。
伏せる。
『はい』
『怒ってる』
『はい』
『嫌い』
ナエル。
身体。
少し。
震える。
『そうですか』
『でも』
ネイ。
続ける。
『歌』
『好き』
ナエル。
顔。
上げる。
『一緒に』
『話した時間』
『好き』
『でも』
『勝手に』
『記憶消したの』
『嫌い』
分ける。
人。
一つの。
感情。
だけではない。
『両方』
『ある』
ナエル。
泣く。
『ありがとう』
『何で』
『嫌いだけで』
『終わらせなかったから』
『終わるかも』
ネイ。
正直。
『これから』
『話して』
『もっと』
『嫌いになるかも』
『それでも』
ナエル。
少し。
笑う。
『話したいです』
『私も』
第一歩。
許し。
ではない。
関係。
再開。
「次」
俺。
「ネイ」
少女。
少し。
緊張。
『ナエル』
『何』
『死んだ時』
『離さなくて』
『ごめん』
ナエル。
止まる。
『嫌って』
『言ったのに』
『離さなかった』
『うん』
『怖かった』
『一人に』
『なるの』
ナエル。
手。
伸ばしかける。
でも。
止める。
触れる。
前に。
聞く。
『手を』
『握ってもいいですか』
ネイ。
少し。
驚く。
それから。
『うん』
手。
触れる。
青。
白。
混ざらない。
ただ。
隣。
『一人にして』
『ごめんなさい』
ネイ。
首。
横。
『一緒に』
『いてくれた』
『最後まで』
『でも』
『死んだ』
『うん』
『嫌だった』
『うん』
『今も』
『嫌』
『うん』
ナエル。
泣く。
ネイ。
涙。
水。
『でも』
『外に』
『いる』
『保存核』
『うん』
『また』
『話せる』
『うん』
『変』
『何が』
『離れたのに』
『いなくない』
そこ。
ネイ。
学ぶ。
最も。
大事。
『関係』
「そう」
俺。
「同じ場所に」
「いなくても」
「続く」
『良い』
ネイ。
ナエル。
手。
まだ。
握る。
でも。
吸収。
しない。
混ざらない。
ただ。
触れる。
「ネイ」
俺。
「第三根」
少女。
こちら。
見る。
『止めてる』
「全部」
「消したい?」
『人を』
『つなぐの』
『怖い』
「勝手に」
「つなぐ機能だけ」
「消す方法」
「あるかも」
『残す』
「理由」
『話せる』
「地上と?」
『うん』
「でも」
「ネイ一人が」
「管理すると」
「また」
「寂しくなった時」
「誰かを」
「離せなくなるかも」
ネイ。
目。
伏せる。
『怖い』
「だから」
「共同管理」
『誰』
「それを」
「相談したい」
ナエル。
『私』
ネイ。
すぐ。
見る。
『いいの?』
ナエル。
『私も』
『もう』
『勝手に』
『決めないため』
『一緒に』
『管理したい』
ネイ。
考える。
『セラ』
「うん」
『リア』
「うん」
今の。
第三流路。
所有者。
姉妹。
『二人も』
「聞く」
「本人たちが」
「いいって」
「言ったら」
『皆』
「四人?」
『多い』
ノア。
「多い方がいい」
『そうだった』
ネイ。
少し笑う。
『皆』
「じゃあ」
「提案」
「第三根」
「元の」
「対話用流路だけ残す」
「勝手な接続」
「生命吸収」
「人格保存」
「そういう機能は」
「全部消す」
『できる』
「本当に?」
『私が』
『作り替える』
「危険」
『少し』
「一人で」
「やらない」
ネイ。
すぐ。
『皆で』
「うん」
ナエル。
セラ。
リア。
セオドア。
エレナ。
ダグラス。
皆。
確認。
作業。
後。
「それなら」
俺。
「第三根」
「完全廃棄」
「止める?」
『止める』
現実。
保存盤。
『第三根』
『解体停止』
『再構築待機』
決定。
ネイ自身。
選んだ。
◇ ◇ ◇
「もう一つ」
ネイ。
『何』
「俺」
「明日」
「王都へ向かう」
『遠い』
「四日くらい」
『長い』
「連絡」
「紫の欠片」
「ある」
『話せる』
「たぶん」
『帰る』
「村に?」
『うん』
「帰る」
『約束』
「約束」
ネイ。
少し。
満足。
「第三鍵」
『消す』
「廃棄」
「進めていい?」
『うん』
「本当に」
『いらない』
「俺が」
「必要になったら?」
『ならない』
「どうして」
『私は』
『もう』
『開けてほしくない』
中央の泉。
自分。
閉じた扉。
誰かに。
開けられる必要。
ない。
『話す道』
『ある』
「うん」
『鍵』
『いらない』
単純。
答え。
「分かった」
『ルーク』
「何」
『王都』
『怖い』
「少し」
『一人』
「じゃない」
『多い』
「すごく」
『良い』
「うん」
『帰って』
「帰る」
ネイ。
少し。
笑う。
『待つ』
「できる?」
『できる』
「えらい」
『えらい』
ノア。
笑う。
「自分で言う」
『良い』
そして。
媒介層。
終了。
◇ ◇ ◇
現実。
目を開く。
母。
いつもの。
確認。
「名前」
「ルーク・E・オリバー」
「母」
「バーバラ」
「王都」
「行く」
「帰る場所」
「村」
「戻ってきますね?」
「うん」
「約束」
「約束」
母。
少し。
安心した顔。
保存盤。
『第三鍵機構』
『廃棄再開』
『廃棄率』
『五十二』
半分。
超えた。
「王都へ」
ノア。
「鍵じゃなく」
「行く」
「うん」
「何として?」
少し。
考える。
「ルークとして」
前世の。
天才医魔術師でも。
第三鍵でも。
エドワードの息子でも。
それだけではない。
「それで」
「十分?」
ノア。
「たぶん」
「また」
「たぶん」
「でも」
「今は」
「それでいい」
◇ ◇ ◇
翌朝。
出発。
村の入口。
馬車。
荷物。
白石。
薬。
父の手帳。
第三鍵関連を。
紙へ。
書き写した記録。
金色の知識石。
管理。
ダグラス。
ノア。
俺。
三人。
共有。
リア。
紫の欠片。
もう一度。
俺へ。
「返してね」
「うん」
セラ。
寝台ではなく。
椅子。
外まで。
運んでもらった。
「王都で」
「義足」
「職人」
「ちゃんと」
「見てきて」
「分かった」
「かわいい靴」
「履けるやつ」
「覚えてる」
「あと」
セラ。
少し。
表情。
硬くなる。
「マティアスに」
「伝えて」
「何」
「私は」
「まだ」
「許してない」
「でも」
「話は」
「聞く」
「分かった」
リア。
「私も」
「同じ」
「伝える」
「うん」
ノア。
二人へ。
少し。
手。
振る。
「帰ってくる」
「うん」
「ノアも」
「ちゃんと」
「戻って」
「もちろん」
母。
マリアへ。
薬師小屋。
引き継ぎ。
「お願いします」
「任せな」
老女。
力強い。
「こっちは」
「心配するな」
「ありがとうございます」
村。
皆。
見送る。
トム。
「ルーク坊!」
「王都の土産!」
「何がいい?」
「甘いもん!」
「分かった」
普通。
それ。
嬉しい。
「行くぞ」
ゲイル。
先頭。
馬車。
動く。
俺。
振り返る。
薬師小屋。
井戸。
森。
村。
今世。
帰る場所。
胸。
何も。
つながっていない。
銀。
青。
なし。
第三鍵。
消えかけている。
ただ。
俺。
「ルーク」
母。
隣。
「何?」
「大丈夫?」
「怖い」
「うん」
「でも」
「行く」
「はい」
ノア。
向かい。
「帰る」
「うん」
「それも」
「約束」
馬車。
北の街道へ。
進む。
王都。
前世の。
影。
父の。
研究。
マティアスの。
裁判。
まだ。
終わっていないこと。
全部。
待っている。
そして。
出発から。
ほんの一刻後。
紫の欠片が。
淡く光った。
『第三鍵機構』
『廃棄率』
『六十』
その下。
ネイから。
一言。
『いってらっしゃい』
俺は。
少し笑う。
「行ってきます」
もう。
中央の泉は。
俺を呼び戻す場所ではない。
帰りを。
待ってくれる相手の。
一人になっていた。




