Ep230. 第三鍵の終わり
『第三鍵機構』
『不要』
『廃棄処理開始』
保存盤に浮かんだ文字を。
俺は。
しばらく見つめていた。
第三鍵。
泉主。
前世の俺。
今世の俺。
三つの生を。
一つに戻すことで。
中央の泉を開くための仕組み。
父。
マティアス。
セオドア。
何人もの人間が。
それを恐れ。
利用し。
止めようとしてきた。
俺の人生にも。
ずっと。
つきまとっていた。
それを。
ネイ自身が。
いらないと判断した。
「本当に」
ノアが。
保存盤へ近づく。
「消えるの?」
「まだ」
セオドアの遠隔像が答える。
「処理は始まったばかりだ」
『第三鍵機構』
『廃棄率』
『一』
「時間かかる?」
「構造が」
「中央泉全体へ組み込まれている」
「完全消去には」
「数日」
数日。
短い。
でも。
その間に。
何か起こる可能性もある。
「廃棄中」
ダグラスが尋ねる。
「ルークへの影響は?」
『第三鍵候補』
『接続反応』
『なし』
「前世記憶は?」
「関係ない」
セオドア。
「第三鍵機構が消えても」
「ルーク本人の記憶や」
「金色の知識石が」
「消えるわけではない」
「じゃあ」
俺は。
少し。
息を吐く。
前世。
今世。
それを。
どうするかは。
まだ。
俺自身の問題。
泉が。
決めることではない。
「ネイは?」
リアが。
紫の欠片を見る。
「今」
「話せる?」
「今日は」
俺は首を横へ振る。
「休ませる」
過去。
ネイラ。
生贄。
母。
ナエル。
一度に。
全部。
思い出した。
今は。
休む時間がいる。
俺たちと。
同じ。
「明日」
「連絡だけ」
「それくらい」
皆。
頷く。
◇ ◇ ◇
「ナエルは?」
セラが尋ねた。
保存核。
新しく作られた。
人格保存用。
『ナエル人格』
『安定率』
『九十三』
「無事」
俺。
「少し休んでる」
「身体は?」
「ない」
「ずっと」
「石の中?」
リアの顔が。
曇る。
「それは」
「これから」
エレナの保存体。
同じ。
人格。
記憶。
魔力。
保存核。
だが。
人間として。
生きている。
とは。
言い切れない。
「ナエル自身に」
「聞く」
俺は言った。
「どうしたいか」
「新しい身体?」
ノア。
「作れる?」
「分からない」
「零号みたいに?」
「それだと」
「また模造体」
本人の。
人格を。
移す。
でも。
身体。
新しく作る。
それは。
本人なのか。
別人なのか。
難しい。
「今」
「決めなくていい」
俺。
「ナエルも」
「三百年」
「眠ってた」
「起きてすぐ」
「人生決めろって」
「無理」
「ルークも」
ノア。
「転生して」
「すぐ」
「変われなかったもんね」
「何で」
「俺の話」
「分かりやすいから」
否定。
できない。
◇ ◇ ◇
昼。
マティアスから。
報告。
王都へ。
移送が決まった。
『本日夕刻』
『王都へ出発』
「第零研究室から?」
『アーヴィン同行』
『警護官四名』
「アルバートは?」
『保存核は』
『第零研究室に残す』
「マティアス」
「離れるの?」
少し。
間。
『本人が』
『そう決めた』
「本人?」
マティアス本人から。
短い返答。
『父上と』
『一緒にいたい気持ちはある』
『だが』
『裁判から逃げる理由に』
『使いたくない』
以前なら。
父を。
理由に。
何でもした。
今。
父を。
理由に。
逃げない。
「分かった」
俺。
「王都で」
「会うかもしれない」
『来るのか』
「そのうち」
『中央泉は』
「今」
「安定」
「第三鍵」
「消し始めた」
しばらく。
返事。
ない。
『本当に』
「うん」
『なら』
長い。
間。
『父上を』
『無理に』
『急いで分離する必要も』
『ないのかもしれない』
「でも」
「人格保持率」
「低い」
『分かっている』
「だから」
「治療は」
「続ける」
『頼む』
自分が。
離れても。
他人に。
任せる。
マティアス。
本当に。
少しずつ。
変わる。
◇ ◇ ◇
夕方。
セラの傷。
また。
確認。
「痛い?」
俺。
「少し」
「昨日より?」
「減った」
「熱」
「ない」
「腫れ」
ダグラス。
「問題なし」
「義足」
セラ。
すぐ。
「まだ」
「聞いただけ」
「三週間」
「長い」
「待つ練習」
リアが言う。
セラ。
溜息。
「ネイと」
「同じ扱い」
「似てる」
「どこが」
「待つの苦手」
セラ。
少し笑う。
それだけでも。
良い。
「王都の職人」
俺。
「セオドアが」
「探してくれてる」
「もう?」
「うん」
「早い」
「設計だけ」
「傷が塞がってから」
「合わせる」
「靴」
「履ける?」
「最初から」
「そうする」
セラ。
嬉しそう。
「約束?」
「探すって」
「約束」
「歩けるは」
「約束しない」
「うん」
もう。
理解している。
結果ではなく。
続けること。
探すこと。
そこを。
約束する。
◇ ◇ ◇
夜。
久しぶりに。
静かな。
食卓。
母。
ノア。
オリヴィア。
ダグラス。
リア。
セラ。
俺。
ゲイルは。
礼拝堂周辺の。
最終確認。
「第三鍵」
ノアが。
パンをちぎりながら言う。
「消えたら」
「ルーク」
「普通になる?」
「何を」
「普通って」
「泉に」
「狙われない」
「前世記憶」
「残ってる」
「でも」
「それは」
「ルークの問題」
「そう」
俺。
少し。
考える。
「普通」
前世。
天才。
医魔術師。
今世。
転生。
中央の泉。
第三鍵。
普通。
どこ。
「別に」
「普通じゃなくていい」
俺は言った。
「どういう意味」
リア。
「前世があっても」
「なくても」
「俺は」
「今」
「ここで生きてる」
「それでいい」
母。
少し。
嬉しそうに笑う。
「前なら」
「前世を」
「失ったら」
「自分じゃなくなるって」
「思ってた」
「今は?」
「怖いけど」
「それでも」
「今の記憶がある」
「母さん」
「皆」
「村」
「それが」
「俺」
ノア。
「僕も?」
「いる」
「良かった」
当たり前。
でも。
確認。
大事。
「金色の知識石」
ダグラスが言う。
「今後」
「どうする」
「医術に」
「使う」
「人格は?」
「入れない」
「知識だけ」
「誰が管理」
俺。
少し。
考える。
「俺と」
「ノア」
「二人?」
「ダグラスも」
「私までか」
「一人だと」
「また」
「勝手に使う」
「自覚あるな」
「ある」
皆。
少し笑う。
知識。
所有。
共有。
管理。
前世の俺なら。
自分だけ。
今は。
複数。
◇ ◇ ◇
翌朝。
紫の欠片。
青。
淡く光る。
『朝』
「おはよう」
俺。
『おはよう』
「大丈夫?」
少し。
間。
『分からない』
「それでいい」
『夢』
「見た?」
『たくさん』
「ネイラの?」
『うん』
「苦しい?」
『苦しい』
「話す?」
『今日は』
『少し』
「いいよ」
文字だけ。
直接接続。
しない。
『母』
ネイ。
『顔』
『思い出した』
「どんな」
『泣いてた』
「うん」
『私を』
『見てた』
「うん」
『嫌い』
少し。
間。
『でも』
『会いたい』
両方。
同時。
「それ」
「変じゃない」
『嫌いなのに』
「会いたいこと」
「ある」
『人間』
『面倒』
「本当に」
『私も』
「今は」
「人間じゃないけど」
『昔』
「うん」
『今』
『ネイ』
「それでいい」
『ナエル』
「保存核で」
「休んでる」
『起きたら』
「話す?」
間。
『話す』
「怒る?」
『怒る』
「いい」
『でも』
『ありがとうも』
『言う』
「それも」
「いい」
ネイ。
少し。
静か。
『第三鍵』
「今」
「廃棄中」
『私』
『いらない』
「うん」
『ルーク』
「何」
『自由』
言葉。
止まる。
「自由?」
『鍵』
『もう』
『しなくていい』
胸。
少し。
詰まる。
ずっと。
俺を。
定義していた。
役割。
第三鍵。
それを。
ネイ本人が。
終わらせる。
「ありがとう」
『なぜ』
「俺を」
「役割から」
「外してくれた」
『私が』
『決めた』
「うん」
『ルークも』
『自分で』
『決める』
「何を」
『次』
第三鍵。
終わる。
泉。
治療。
アルバート。
ナエル。
それが。
全部。
落ち着いた後。
俺。
何をする。
「まだ」
「決めてない」
『決めなくていい』
ネイ。
俺が。
いつも。
言っていた言葉。
「覚えたね」
『便利』
ノア。
横から。
「ルークと同じこと言ってる」
『ノア』
「いるよ」
『前世』
「僕じゃない」
『うん』
すぐ。
区別。
できる。
ネイ。
進んだ。
「今日は」
「休んで」
『待つ』
「次」
「二日後」
『長い』
「もう」
「慣れたでしょ」
『少し』
「鳥肉」
『次』
「分かった」
光。
消える。
通信。
終了。
「自由」
ノア。
俺を見る。
「何する?」
「今?」
「第三鍵」
「終わった後」
「分からない」
「医術師?」
「たぶん」
「前世と」
「同じ?」
「違う」
「何が」
「一人で」
「やらない」
それだけでも。
かなり。
違う。
◇ ◇ ◇
昼前。
第零研究室。
保存盤。
廃棄状況。
『第三鍵機構』
『廃棄率』
『二十三』
「早い」
セオドア。
『ネイの』
『自己安定後』
『処理速度が上昇』
「危険」
『なし』
続き。
『第一根』
『消失』
「完全?」
『完全』
第一の根。
最初。
採石場。
俺たちを。
ずっと。
苦しめた。
その一本が。
消えた。
『第二根』
『消失率』
『九十二』
『第三根』
『解体率』
『四十』
全部。
終わりへ。
向かう。
でも。
俺は。
少し。
不安。
「ネイ」
「根を」
「全部消したら」
「人と」
「話せなくなる?」
セオドア。
『対話経路は』
『根構造とは別』
「じゃあ」
「大丈夫」
『ただし』
また。
それ。
『中央泉の』
『外部干渉能力』
『大幅低下』
「どういう意味」
『地上へ』
『直接』
『魔力を送れなくなる』
「つまり」
「ネイは」
「地下から」
「出られない?」
『現状』
『そうなる』
俺。
止まる。
根。
悪いもの。
人へ。
勝手につながる。
だから。
消す。
でも。
同時に。
ネイが。
外へ。
触れるための。
手段でもあった。
「ネイは」
「知ってる?」
『自己廃棄判断なので』
『認識しているはず』
自分で。
選んだ。
人を。
傷つけないため。
外へ。
出る力まで。
手放す。
「それ」
母が。
静かに言う。
「本当に」
「本人が望んでる?」
「次」
「聞く」
俺。
「でも」
「廃棄」
「進んでる」
「止められる?」
セオドア。
『可能』
「なら」
「一旦」
「第三根だけ」
「止めて」
『理由』
「ネイと」
「もう一度」
「話す」
「根を消すと」
「できなくなること」
「全部」
「理解してるか」
「確認」
『了解』
『第三根解体』
『一時停止』
また。
自分で。
決めたこと。
でも。
情報。
足りているか。
確認。
必要。
「第一と第二は」
「もう?」
『第二も』
『間もなく』
「止める?」
「第一」
「第二」
「危険接続が」
「多かった」
俺。
「ネイも」
「そこは」
「分かってるはず」
「第三」
「人と人」
「対話」
「歌」
「性質」
「違う」
第三根。
セラ。
リア。
紫。
今は。
姉妹。
共同所有。
ネイとは。
切れている。
でも。
構造。
使えば。
安全な。
外部接続。
作れる可能性。
「全部」
「消す必要」
「ないかもしれない」
ダグラス。
俺を見る。
「治療でも」
「悪い部分だけ」
「切る」
「全部」
「取らない」
「うん」
前世。
俺なら。
根治。
全部。
除去。
そうしたかもしれない。
今。
残せる機能。
あるなら。
残す。
「第三根を」
「治療する?」
ノア。
「かも」
また。
泉。
根。
治療。
壊す。
ではない。
◇ ◇ ◇
午後。
ナエル。
保存核。
目覚めた。
エレナから。
連絡。
『ナエル』
『会話可能』
「ネイと?」
『まだ』
「どうして」
『先に』
『ルークと』
『話したいそうよ』
「俺?」
『そう』
「何で」
『聞いてみて』
短い。
対話。
紫の欠片。
ナエルの。
声。
『ルーク』
「うん」
『ありがとう』
「何が」
『ネイへ』
『選ばせてくれた』
「俺だけじゃない」
『それでも』
「うん」
「どういたしまして」
少し。
沈黙。
「怒ってる?」
『誰に』
「俺」
『なぜ』
「ナエルの」
「封印」
「勝手に」
「解こうとした」
『怒っていない』
「ネイには?」
『怒られると思う』
「本人」
「怒るって」
「言ってた」
『当然』
少し。
笑う声。
「ナエル」
「三百年」
「何考えてた?」
『眠っていた』
「ずっと?」
『ほとんど』
「辛くなかった?」
『夢を』
『見ていた』
「何の」
『ネイラと』
『話していた頃』
歌。
会話。
地下。
最初。
幸せ。
でも。
封じた後。
現実では。
話せない。
『私も』
『怖かった』
「何が」
『ネイラが』
『全部思い出して』
『私を』
『嫌うこと』
「嫌われるかも」
『うん』
「それで」
「記憶」
「封じた?」
長い。
間。
『それも』
『あった』
ネイを。
守る。
だけではない。
自分。
守る。
嫌われたくない。
「なら」
「ネイに」
「それも」
「言った方がいい」
『分かっている』
「怖い?」
『とても』
「でも」
「話す?」
『話す』
良い。
ナエルも。
逃げない。
「その前に」
「一つ」
『何』
「第三根」
「ネイが」
「消そうとしてる」
『そう』
「全部」
「消した方がいいと思う?」
ナエル。
少し。
考える。
『いいえ』
即ではない。
でも。
明確。
「どうして」
『第三の道は』
『私が』
『ネイラへ』
『歌を届けるために』
『作ったものが』
『元になっている』
「やっぱり」
第三流路。
歌。
ナエル。
起源。
『本来は』
『人を』
『奪うためではない』
『離れている人と』
『つながるための道』
「じゃあ」
「第一」
「第二」
『後から』
『作られた』
「誰が」
『人間』
何。
「ネイじゃない?」
『ネイラの力を』
『利用した』
『昔の神官たち』
重要。
「いつ」
『私が』
『泉へ入った後』
『私の後継者たち』
神殿。
泉。
利用。
人の願い。
封印。
根。
「第一と第二は」
「人間が」
「作った?」
『そう』
「第三は」
「ナエルと」
「ネイラが」
「作った」
『原型は』
『そう』
だから。
性質。
違う。
「ありがとう」
『ルーク』
「何」
『第三の道を』
『残すなら』
『所有者を』
『ネイ一人にしないで』
「どういう意味」
『あの子は』
『寂しいと』
『また』
『人を』
『離せなくなる』
怖い。
でも。
その可能性。
ある。
「共同管理?」
『そう』
「誰と」
『本人たちが』
『決めること』
それ。
全部。
同じ。
「分かった」
『ネイに』
『私からも』
『話す』
「二日後」
『うん』
通信。
切れる。
◇ ◇ ◇
夜。
俺は。
紙へ。
三つ。
書く。
第一根。
消す。
第二根。
消す。
第三根。
残す可能性。
ただし。
勝手に。
人へ接続できないように。
構造変更。
「所有者」
ノアが。
隣。
「誰」
「ネイ」
「ナエル?」
「今」
「保存体」
「セラとリア」
「第三流路」
「持ってる」
「ルーク?」
「俺は」
「鍵じゃなくなる」
「なら」
「管理も」
「しない方がいい?」
「分からない」
「また」
「それ」
「候補」
「皆で」
「考える」
第三の道。
人を。
閉じ込めない。
でも。
離れていても。
話せる。
今。
俺たちが。
ネイと。
使っている。
対話経路。
それに。
近い。
「残せたら」
俺。
「ネイ」
「地上と」
「話せる」
「閉じ込めなくても」
「うん」
「それなら」
「良いかも」
ノア。
「でも」
「ネイが」
「嫌なら?」
「消す」
本人。
決める。
次。
話す。
◇ ◇ ◇
そして。
深夜。
王都から。
セオドア。
緊急ではない。
でも。
重要な。
報告。
『マティアス』
『王都到着』
『拘束継続』
『裁判準備開始』
現実。
進む。
続き。
『王家より』
『ルークへの』
『正式招集状』
「王家?」
俺。
『中央泉問題』
『終結協議』
『第零研究室』
『未解読文書』
『マティアス裁判』
『全件』
『ルーク本人の』
『証言を求む』
王都。
行く。
避けていた。
最後の場所。
「いつ」
『七日以内』
マティアスの裁判。
十日後。
間に合う。
「母さん」
俺。
呼ぶ。
バーバラ。
手紙。
読む。
「行くのね」
「うん」
「今度は」
「皆と」
「行く」
母。
長く。
俺を見る。
「分かりました」
「反対しない?」
「します」
「でも」
前と。
同じ。
「止めません」
王都。
前世。
父。
泉。
マティアス。
全部。
最後に。
向き合う場所。
そして。
保存盤。
『第三鍵機構』
『廃棄率』
『三十一』
もう。
三分の一。
俺が。
王都へ着く頃。
第三鍵は。
完全に。
消えているかもしれない。
鍵としてではなく。
ただ。
ルーク・E・オリバーとして。
王都へ。
戻る時が。
近づいていた。




