Ep226. 泉を治すということ
『おはよう』
中央の泉が。
初めて。
朝の挨拶を返した。
たった一言。
それだけなのに。
部屋の空気が。
少し変わった。
「返した」
ノアが。
目を丸くする。
「昨日より」
「会話っぽい」
「昨日も」
「会話はしてた」
「でも」
「今日は」
「待ってた」
約束した朝。
その時間を。
泉は。
自分なりに覚えていた。
「ルーク」
バーバラが。
食卓へ煮込みを置く。
「食べてからです」
「泉」
「待ってる」
「待つ練習を」
「しているのでしょう?」
確かに。
「じゃあ」
「少し待ってもらう」
紫の欠片。
机の端。
淡い青。
一度。
明滅。
『待つ』
ノアが。
笑った。
「素直」
「俺より?」
「かなり」
「失礼」
母まで。
少し笑う。
俺は。
煮込みを食べる。
鳥肉。
昨日と。
同じ。
でも。
少し。
香草が増えている。
「味」
俺は言う。
「変えた?」
「少しだけ」
「どうして」
「毎日同じでは」
「飽きるでしょう」
その言葉。
俺は。
少し止まる。
「泉にも」
「教えられるかも」
「何を?」
オリヴィア。
「同じじゃなくていい」
「昨日と」
「今日」
「違っても」
「関係は続く」
泉は。
同じものを。
同じ形で。
残そうとする。
死者の記憶。
変わらない影。
でも。
生きることは。
変わる。
「煮込みで」
「説明するの?」
ノア。
「分かりやすい」
「本当に?」
「たぶん」
「たぶん多いね」
最近。
よく言われる。
◇ ◇ ◇
朝食の後。
昨日と同じ準備。
三重円。
観測石。
帰還点。
ただし。
今日は。
一つ増やす。
「ノアの席」
媒介層。
食卓。
俺だけではなく。
ノアも。
泉と話せるようにする。
「本当にいい?」
少年が尋ねる。
「怖いなら」
「止めていい」
「怖い」
「でも」
「話したい」
「じゃあ」
「一緒」
ノアは。
俺の隣。
現実では。
椅子。
媒介層でも。
隣の席。
「直接接続は」
ダグラスが。
確認する。
「ルークだけ」
「ノアは?」
「対話参加者」
エレナの声。
紫の欠片越し。
「中央泉との」
「接続負荷は」
「ルークを通す」
「ノア本人へ」
「泉が直接触れないようにする」
「分かった」
母。
少し安心。
「帰還点」
「昨日と同じ」
バーバラ。
オリヴィア。
ゲイル。
ダグラス。
そして。
現実側のノアは。
今日は。
対話側。
「一人減る」
「なら」
リアが。
手を上げる。
「私」
「帰還点?」
「うん」
「できる?」
「名前」
「呼ぶだけなら」
「できる」
セラの隣。
身体は。
まだ弱い。
でも。
声は。
出る。
「じゃあ」
「リア」
俺は言う。
「俺が」
「変になったら」
「呼んで」
「何て」
「ルーク」
「それだけ?」
「それでいい」
名前。
今の俺。
それを。
戻す。
「分かった」
◇ ◇ ◇
『媒介層』
『構築開始』
目を閉じる。
食卓。
昨日と。
同じ。
でも。
煮込み。
少し違う。
香草。
増えている。
「そこまで」
再現するんだ」
ノア。
隣。
姿。
はっきりしている。
「今朝」
「食べたから」
「便利」
『媒介層』
『安定』
現実。
母の声。
「ルーク」
「名前」
「ルーク・E・オリバー」
「帰る場所」
「村」
「今日の煮込み」
「香草多め」
「よし」
「そこも?」
「大事です」
少し。
笑う。
水音。
来る。
今日は。
すぐ。
青い影。
昨日と同じ椅子へ。
座る。
『来た』
「おはよう」
『おはよう』
ノア。
少し。
緊張している。
「僕は」
「ノア」
青い影。
少年へ。
顔。
一瞬。
前世の俺。
それから。
ノア。
最後。
曖昧な水。
『知っている』
「僕を?」
『前世記憶』
『入れられた』
「うん」
『嫌だった』
「すごく」
泉。
少し。
沈黙。
『私は』
『記憶を』
『与えることを』
『良いと思っていた』
「何で」
『失ったものが』
『戻る』
「戻らないよ」
ノアの声。
強い。
「僕に」
「ルークの記憶を入れても」
「ルークにはならなかった」
『知った』
「なら」
「もうやらない?」
青い影。
揺れる。
『必要なら』
「必要でも」
「やらないで」
『なぜ』
「本人が」
「嫌だから」
『嫌』
「うん」
『嫌は』
『重要』
「かなり」
泉。
覚える。
選択。
同意。
今まで。
ほとんど。
持っていなかった概念。
「今日は」
俺が言う。
「治す話」
『私を』
「うん」
『私は』
『病気』
「病気って」
「決めてない」
『傷』
「それは」
「あると思う」
アルバート。
三十二年前。
融合。
死。
恐怖。
それ以前。
泉そのもの。
孤独。
「アルバートが」
「入る前」
「どんな感じだった?」
青い影。
考える。
『静か』
「一人?」
『一人』
「寂しかった?」
『寂しいを』
『知らなかった』
「じゃあ」
「怖くもない?」
『知らなかった』
何も。
知らない。
ただ。
存在。
アルバートが。
人間の感情を。
入れた。
死。
恐怖。
愛着。
喪失。
「それから」
「変わった?」
『多い』
「何が」
『気持ち』
『痛い』
『欲しい』
『離したくない』
『怖い』
「それを」
「全部」
「アルバートから?」
『最初は』
「今は?」
『人から』
王弟。
国王。
マティアス。
俺。
セラ。
リア。
ノア。
接続した。
全員。
感情。
少しずつ。
泉へ。
残した。
「それ」
ノアが言う。
「多すぎたんじゃない?」
『多い』
「整理できない?」
『整理』
「どれが」
「自分の気持ちか」
「分かる?」
泉。
長い沈黙。
『分からない』
そこ。
傷。
かもしれない。
人の感情を。
たくさん。
受け取った。
でも。
自分と。
他人。
区別できない。
「だから」
「誰かを」
「失うと」
「自分が」
「欠けるように感じる?」
『そう』
答え。
早い。
「アルバートは」
『大きい』
「何が」
『私の中で』
最初の人。
強い。
長い。
三十二年。
泉の。
自我。
かなりの部分。
アルバート。
混ざっている。
「だから」
「切り離すと」
「自分も」
「なくなる感じ?」
『そう』
でも。
実際には。
泉は。
分離した穴を。
新しいもの。
記憶。
約束。
再会。
それで。
埋め始めた。
「昨日」
「アルバートを」
「三パーセント」
「離した後」
「どうだった?」
『怖かった』
「他は」
『空いた』
「でも」
『埋まった』
「何で」
『明日』
俺。
少し笑う。
「明日?」
『約束』
「それで」
「空いたところが」
「埋まった?」
『少し』
関係。
内側へ。
閉じ込めるもの。
ではなく。
未来へ。
続くもの。
泉は。
初めて。
そういう形を。
持ち始めた。
「じゃあ」
ノア。
「治すって」
「誰かを」
「中に置かなくても」
「大丈夫になること?」
青い影。
揺れる。
『大丈夫』
「一人でも?」
『一人は』
『嫌』
「でも」
「一人じゃないよ」
ノア。
「外に」
「僕たちいる」
『外』
「うん」
「中に」
「入れなくても」
「話せる」
『食卓』
「そう」
『鳥肉』
「そこ好きだね」
『匂い』
泉。
少し。
形。
安定。
「なら」
俺は言う。
「アルバートを」
「全部」
「離しても」
「俺たちと」
「話す道を」
「残す」
『毎日』
「毎日は」
母。
現実側から。
「ルークが疲れます」
泉。
止まる。
『母』
「はい」
『怖い』
「どうしてですか」
『怒る』
「必要な時だけです」
オリヴィア。
笑う。
「結構」
「必要な時多いよ」
「聞こえていますよ」
青い影。
『笑い』
「そう」
『良い』
また。
覚える。
「毎日じゃなくても」
「日にちを」
「決める」
俺。
「三日に一回」
『三日』
「分かる?」
『朝』
「朝」
『三回』
「そう」
『長い』
「待つ練習」
泉。
少し。
不満そう。
顔は。
水。
でも。
分かる。
『二日』
「交渉するんだ」
ノア。
「成長」
俺。
「二日なら」
「大丈夫?」
母。
少し考える。
「体調次第です」
『体調』
「ルークが」
「疲れていたら延期です」
『延期』
「後にすること」
『約束は』
「消えない」
泉。
静か。
『分かった』
大きい。
本当に。
少しずつ。
学ぶ。
「じゃあ」
「治療」
「一つ目」
俺は言う。
「アルバートの分離」
『うん』
「一気にやらない」
『練習』
「そう」
「一回」
「何パーセントなら」
「壊れない?」
青い影。
内側を見る。
保存盤。
現実。
セオドア。
「中央構造の」
「自己申告を」
「数値化できる」
少し。
待つ。
『五』
「五パーセント?」
『一度』
「それなら」
セオドア。
「構造安定低下」
「推定一以下」
安全。
かなり。
「五ずつ」
「離す」
「その後」
「空いた場所を」
「新しい関係で」
「埋める」
『埋める』
「記憶」
「約束」
「泉自身の」
「新しい経験」
『私の』
「そう」
大事。
人から。
もらった感情だけではない。
泉が。
自分で。
選んだ。
経験。
「今日」
「おはようって」
「言った」
『言った』
「それ」
「泉の記憶」
『私の』
「うん」
青い影。
少し。
明るくなる。
『良い』
「二つ目」
「他人の感情を」
「自分のものと」
「分ける」
『難しい』
「練習」
「例えば」
ノア。
「今」
「怖い?」
『少し』
「それ」
「誰の怖い?」
泉。
止まる。
『分からない』
「アルバート?」
『少し』
「マティアス?」
『ある』
「ルーク?」
『ある』
「泉自身?」
長い。
沈黙。
『ある』
「分けられた」
ノア。
笑う。
「今」
「四つ」
泉。
『多い』
「でも」
「全部」
「同じじゃない」
『分かる』
「じゃあ」
「次も」
「少しずつ」
医術。
心。
魔力。
前世の俺なら。
こんな治療。
認めなかったかもしれない。
数値化できない。
時間。
かかる。
でも。
今。
効果。
ある。
「三つ目」
俺。
「人を」
「勝手に」
「つながない」
『必要なら』
「同意を聞く」
『同意』
「いいって」
「本人が言う」
『言わない時』
「やらない」
『死ぬ時』
難しい。
人を。
助けるため。
本人が。
意識ない。
医術。
「命を助ける時は」
ダグラスが。
現実から口を挟む。
「別だ」
泉。
『薬師』
「そうだ」
「本人が」
「答えられない場合」
「命を守るために」
「最低限の処置をすることはある」
『最低限』
「必要以上に」
「奪わない」
『難しい』
「それは」
「俺たちも」
「難しい」
正解。
一つではない。
「だから」
「迷ったら」
「聞く」
『誰に』
「俺たち」
『多い』
「その方がいい」
泉。
考える。
『分かった』
◇ ◇ ◇
「アルバート」
俺は。
本題。
「今日」
「五パーセント」
「分離する?」
『する』
「怖い?」
『怖い』
「それでも?」
『約束』
「約束だからじゃなく」
「自分で」
「やりたい?」
泉。
止まる。
大事。
言われたから。
ではない。
自分の選択。
『……やりたい』
「どうして」
『アルバートが』
『離れたい』
「それだけ?」
『私も』
影。
少し。
揺れる。
『私が』
『何か』
『知りたい』
「何を」
『アルバートが』
『いない私』
自分。
泉自身。
今まで。
アルバートと。
混ざりすぎて。
分からなかった。
「それ」
「良い理由」
ノア。
『良い』
「うん」
「じゃあ」
「やろう」
現実。
セオドア。
「分離準備」
「正式保存核」
「空き容量」
「確保」
第零研究室。
アルバート。
三パーセント。
すでに。
保存。
次。
五。
「エレナ?」
俺。
紫の欠片。
声。
『準備できてる』
「マティアス」
『ここにいる』
拘束中。
でも。
立ち会う。
「アルバート本人?」
『分離部分が』
『反応中』
食卓。
青い影。
中。
別の輪郭。
少し。
男。
『ルーク』
アルバート。
弱い。
「聞こえる」
『泉を』
『頼む』
「一緒に」
「やる」
『ああ』
分離。
開始。
『アルバート人格』
『分離進行』
『八』
現在。
三。
そこから。
五。
『四』
『五』
泉の影。
震える。
『怖い』
「ここにいる」
俺。
ノア。
「僕も」
母。
「戻ってきます」
オリヴィア。
「逃げないよ」
ゲイル。
「続けろ」
ダグラス。
「状態は安定」
声。
多い。
『六』
『七』
影。
少し。
薄くなる。
でも。
崩れない。
『八』
停止。
現実。
保存盤。
『アルバート分離率』
『八』
『中央泉構造安定率』
『九十八』
下がらない。
「成功」
セオドア。
声。
少し。
驚き。
『空隙』
『新規構造形成』
何で。
『記録』
『朝』
『食卓』
『ノア』
『香草』
香草?
「そこ?」
ノア。
笑う。
『違う煮込み』
昨日と。
今日。
違う。
でも。
続く。
「覚えてた」
俺も。
笑う。
泉。
自分の経験で。
空いた場所を。
埋めた。
『私は』
青い影。
少し。
声。
変わる。
前より。
重なり。
少ない。
『私』
「うん」
『アルバートではない』
「そう」
『少し』
『分かる』
大きい。
泉。
自分と。
アルバート。
違い。
初めて。
感じ始めた。
「今日は」
「ここまで」
『もっと』
「駄目」
『なぜ』
「五って」
「決めた」
『できる』
「できても」
「やらない」
『なぜ』
「明日」
「また」
「あるから」
泉。
止まる。
『明日』
「次は」
「二日後」
『長い』
「約束」
『……約束』
少し。
不満。
でも。
受け入れる。
「今日」
「何か」
「したいことある?」
『したい』
「何」
青い影。
考える。
『名前』
「誰の?」
『私』
全員。
止まる。
「名前」
『泉』
「中央の泉じゃ」
「嫌?」
『場所』
「確かに」
中央の泉。
名前ではない。
呼称。
『アルバート』
『マティアス』
『ルーク』
『ノア』
『皆』
『名前』
「泉も」
「欲しい?」
『欲しい』
「自分で」
「決める?」
『分からない』
「じゃあ」
「候補」
「皆で考える」
『皆』
「うん」
ノア。
すぐ。
「青」
「そのまま」
「安直」
オリヴィア。
「アオ」
「同じ」
母。
「急いで」
「決めなくていいでしょう」
『急がない』
「そうです」
泉。
少し。
考える。
『次まで』
「考える?」
『うん』
「俺たちも」
「考える」
『約束』
「約束」
泉。
青い影。
ゆっくり。
椅子から。
立つ。
『ルーク』
「何」
『私は』
『患者』
俺。
少し。
止まる。
「たぶん」
『治る』
「治す」
言いかけ。
変える。
「一緒に」
「治す方法を」
「探す」
『一緒』
「うん」
『良い』
影。
水へ。
戻る。
『二日後』
「うん」
『鳥肉』
「名前より」
「そっち?」
『大事』
「分かった」
消える。
『中央泉意識』
『媒介層離脱』
食卓。
薄くなる。
「ルーク!」
現実。
リアの声。
「名前!」
「ルーク・E・オリバー」
「私!」
「リア」
「お姉ちゃん!」
「セラ」
「ノア!」
「ノア」
「鳥肉!」
「煮込み」
「大丈夫!」
基準。
増えてる。
目を開く。
研究室ではない。
薬師小屋。
皆。
いる。
「成功」
ダグラス。
胸。
脈。
「異常なし」
「人格?」
「いつも通り」
「よかった」
母。
強く。
抱く。
「痛い」
「少し我慢」
「また?」
「またです」
でも。
今回は。
我慢する。
◇ ◇ ◇
昼。
第零研究室から。
正式な報告。
『アルバート分離率』
『八』
『中央泉構造安定率』
『九十九』
さらに。
上がった。
「治ってる」
ノア。
「本当に」
「そうかも」
俺。
その下。
『中央泉』
『他者人格混在率』
『七十六』
まだ。
高い。
でも。
初めて。
測定できるようになった。
「前は?」
セオドア。
『測定不能』
「分けられなかった?」
『そうだ』
泉が。
自分と。
他人を。
区別し始めたから。
測れる。
「治療計画」
俺は。
紙へ。
書く。
一。
アルバート。
五パーセントずつ分離。
二。
空いた場所を。
泉自身の経験で。
埋める。
三。
他人の感情を。
識別。
四。
同意なしの接続禁止。
五。
対話継続。
六。
「名前」
ノアが言う。
「それ」
「治療?」
「大事」
「本人が」
「自分を」
「区別するため」
泉。
中央。
第一。
第二。
第三。
全部。
機能。
場所。
役割。
でも。
自分の名前。
ない。
「自分で」
「決めてもらう」
母。
「それがいいでしょう」
自分。
それを。
作る。
◇ ◇ ◇
夕方。
エレナから。
別の連絡。
『マティアスが』
『アルバートと』
『話した』
「どうだった?」
俺。
返答。
少し。
間。
『泣いた』
「どっち」
『二人とも』
父子。
三十二年。
『アルバートは』
『謝った』
『マティアスは』
『怒った』
「何て」
『遅い』
それだけ。
『その後』
『マティアスも』
『謝った』
「ノアたちのこと?」
『そう』
『アルバートは』
『許さなかった』
全員。
少し。
驚く。
「許さなかった?」
『自分が』
『許すことではないと』
『言った』
その通り。
ノア。
リア。
セラ。
彼らが。
決める。
『ただ』
『息子として』
『それでも』
『大切だと』
『伝えた』
許し。
愛情。
別。
マティアスが。
恐れていたこと。
父に。
大切だと言われれば。
罪が軽くなる。
でも。
アルバートは。
分けた。
罪は。
本人たちへ。
息子への感情は。
自分のもの。
「それで」
「マティアスは?」
『しばらく』
『何も言えなかった』
そうだと思う。
「裁判」
『受けると言っている』
「逃げない?」
『今のところ』
「今のところ」
大事。
まだ。
完全に。
信用しない。
◇ ◇ ◇
夜。
セラ。
少し。
食事。
リア。
隣。
ノア。
向かい。
俺。
母。
食卓。
泉との。
媒介層ではない。
本物。
「名前」
ノアが。
パンを食べながら言う。
「何がいいと思う?」
「泉の?」
「うん」
「アオは」
「却下された感じ」
「却下は」
「されてない」
「安直って」
「オリヴィアに」
「言われただけ」
「ルークは?」
「思いつかない」
「医術師なのに?」
「名前を」
「付ける仕事じゃない」
セラが。
小さく笑う。
「泉なら」
「水に関係する名前?」
「それも」
「本人が」
「決める」
「候補だけ」
「出して」
「選んでもらう?」
リア。
「歌から」
「取る?」
「どうして」
「歌」
「泉も」
「覚えたから」
第三の根。
歌。
でも。
泉にとって。
悪い記憶だけではない。
人と。
つながる。
別の方法。
今。
知り始めている。
「名前」
俺。
考える。
水。
泉。
青。
朝。
約束。
再会。
「リヴァ?」
ノア。
「何それ」
「昔の言葉で」
「流れ」
「知ってるの?」
「前世の知識石に」
「少し」
知識。
人格ではない。
「リヴァ」
リア。
「いいかも」
セラ。
「呼びやすい」
「決めるのは」
「泉」
俺。
「候補に」
「入れる」
ノア。
嬉しそう。
自分が。
考えた名前。
誰かへ。
渡せる。
「他」
「考えよう」
皆。
食べながら。
名前。
出す。
アクア。
却下。
ミナ。
セラが。
それは人名っぽいと言う。
ルア。
リアと似てる。
却下。
そんな。
普通の。
時間。
その時。
紫の欠片。
淡く。
光る。
まだ。
二日後ではない。
「泉?」
俺が見る。
文字。
短い。
『質問』
「何」
『名前』
「もう?」
『考えた』
全員。
止まる。
「自分で?」
『うん』
「何」
少し。
間。
文字。
ゆっくり。
『ネイ』
「ネイ?」
ノア。
『意味』
「ある?」
『ない』
「自分で」
「音を」
「選んだ?」
『そう』
誰かの。
記憶でも。
人の名前でも。
役割でもない。
泉が。
自分で。
選んだ音。
「じゃあ」
「ネイ」
俺は言う。
「いい名前」
『良い』
「うん」
『私は』
『ネイ』
最初の。
自己認識。
中央の泉ではない。
泉主でもない。
根でもない。
ただ。
ネイ。
『覚える』
「俺たちも」
「覚える」
『約束』
「約束」
光。
消える。
ノア。
少し。
悔しそう。
「リヴァ」
「使わなかった」
「本人が」
「決めたから」
「その方がいい」
「うん」
俺は。
少し笑う。
その瞬間。
第零研究室。
保存盤。
遠隔表示。
新しい文字。
『中央泉意識』
『自己名称登録』
『ネイ』
続いて。
『他者人格混在率』
『七十六』
数字。
ゆっくり。
『七十四』
「下がった」
ダグラス。
驚く。
「名前だけで?」
「自分を」
俺は言う。
「他人と」
「分けやすくなった」
治療。
一歩。
進んだ。
だが。
表示。
その下。
別の項目。
『未識別人格』
『一』
「未識別?」
セオドアから。
緊急連絡。
『ネイ内部に』
『アルバート以外の』
『独立人格反応を確認』
何。
泉の中。
アルバート。
それだけではない。
三十二年前より。
もっと前。
ネイが。
一人だった頃から。
中に。
誰か。
いる。
『人格反応年代』
『推定』
『三百年以上前』
中央の泉。
ネイ。
その奥に。
最初から。
別の人間の人格が。
眠っていた。




