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Ep180. 青い欠片

見えなかったものが、見えるようになる。それは答えへ近づいた証拠であると同時に、新しい危険が姿を現したということでもある。

   ◇ ◇ ◇

翌朝、俺とバーバラは診療所の棚の前に立っていた。昨日、蜜蝋で封じた岩清水――一重の紐を結んだ瓶の底に、淡い青色の欠片が沈んでいた。大きさは砂粒よりも小さく、よく見なければただ光が反射しているだけだと見落としてしまうだろう。だが、昨日まであの場所には何もなかった。

「本当に青いわね」バーバラは瓶に触れないよう注意しながら、朝の光へ透かして見た。「昨日はなかったのよね?」

俺は頷いた。開放したままの岩清水――二重の紐が結ばれた瓶には青い欠片はない。比較のために採った小川の水にも変化は見られなかった。封じた岩清水だけに、目に見える変化が起きている。

俺には、その理由が少しだけ分かっていた。瓶の中に散らばっていた魔力が、底へ集まっている。だが青い欠片は純粋な魔力だけではない。魔力は通常、このような固体にはならない。水に含まれていた何らかの微細な成分、その周囲へ魔力が集まっている可能性が高い。鉱物か、岩の成分か、それともまだ知られていない物質か――判断するには情報が足りない。

「記録しておかないと」バーバラは新しい記録帳を開いた。

『二日目、早朝。封止した岩清水の瓶底に、淡青色の微小な欠片を確認。開放した岩清水、および小川の水には変化なし。瓶は動かさず、封も開けていない』

正しい。変化を見つけたからといって、すぐに瓶を開けてはならない。触れる、揺らす、空気へ晒す――それだけで今の状態が失われるかもしれない。まず父の記録を確認するべきだ。父も過去に同じ岩清水を持ち帰っている。保存には成功しなかったが、水の変化を何日も観察していた可能性がある。

バーバラは棚から父の帳面を取り出した。薬草、患者の症例、調合の失敗、森の地図――父は決して有名な医者ではなかった。それでも残された記録の量は、前世の研究者にも劣らない。成功したことだけではなく、失敗も、疑問も、答えの出なかった仮説も、すべて残している。

前世の俺なら、失敗の記録を他人へ見せようとはしなかった。能力を疑われる、間違いを知られる――そう考え、成功だけを整えて発表した。父は違う。失敗を、次の誰かが進むための道として残していた。

「水について書かれているのは……」バーバラは一冊ずつ表紙を確認した。「これかしら」

取り出したのは薄い革張りの帳面。表紙の端が水に濡れたように波打っている。最初の数頁には岩壁の形、月雫草の生育場所、水が染み出す位置が細かく記されていた。

バーバラが記録を読み上げる。『岩壁の水を採取。持ち帰った直後は、月雫草の萎れをわずかに遅らせる。翌朝には効力が半減したように見える。二日後、通常の水との差はほぼなし』――これまでに確認した内容と同じだ。

さらに頁を進める。『陶器の壺で保存』『木桶で保存』『硝子瓶で保存』。父は容器を変えて何度も試していた。しかし壺には布を被せただけ、木桶には蓋を載せただけ、硝子瓶の栓にもおそらく隙間があった。父は水の力が空気へ逃げていることを知らなかった。魔力を見ることができなかったからだ。

やがて、バーバラの指が止まった。「これ……」頁の端に小さな瓶の絵が描かれている。瓶の底には幾つかの点。添えられた文章をバーバラが読んだ。

『採取より五日後。瓶底に、ごく微細な青色の砂を確認』

あった。父も青い欠片を見つけていた。『水はすでに効力を失っている。砂と水の効力に関連があるかは不明。砂を取り出そうとしたが、瓶を揺らすと消えた』

揺らすと消えた。なら完全な固体ではない。魔力が水中の微細な成分へ集まり、一時的に青い粒のような姿を作っているのだろう。

父の瓶では青い砂が現れるまで五日。俺たちの瓶では僅か一日。違いは密閉したかどうかだ。父の水では魔力の大半が砂へ集まる前に外へ逃げた。俺たちの水では魔力が瓶内に留まり、短い時間で目に見えるほど集まった。辻褄は合う。

父の記録には、さらに続きがあった。『翌日、再び瓶底へ青い砂が生じる。同じく揺らすと消える。三度繰り返した後、砂は現れなくなった』――集まり、散らし、また集まる。それを繰り返した後、青い砂は現れなくなった。父の容器では、揺らすたびに少しずつ魔力が外へ逃げたのだろう。

「お父さんも同じものを見ていたのね」バーバラの声には驚きと少しの寂しさが混じっていた。「でも、何なのか分からなかった」

違う。父は確かめる手段を持っていなかった。魔力を見る目、完全に封じる方法、細かな変化を測る器具――それらがない中で、父は青い砂を見つけ、揺らせば消えることを確かめ、繰り返し現れることまで記録した。父が届かなかった答え、だがそこへ続く道の大半は、すでに父が作っていた。俺はその続きを歩いているにすぎない。

「この青いものが魔力なの?」バーバラが尋ねた。

俺はすぐには頷かなかった。魔力そのものだとはまだ断定できない。指を広げ、中央へ集める仕草をした。

「魔力が集まったもの?」頷く。「触ったら危ない?」分からない。俺は首を傾げた。「分からないのね」もう一度頷く。分からないから触れない。それでいい。

「今日は瓶を開けず、揺らさずに、変化を観察しましょう」バーバラが言った。本来なら今日は再び森へ行き、新しい岩清水を採る予定だった。だが予定に固執するべきではない。目の前で未知の変化が起きている。なら、まずはそれを観察する。俺は迷わず頷いた。

「珍しい」バーバラが笑う。「いつもならすぐ森へ行きたいって顔をするのに」今は、それ以上に重要なものが目の前にある。

ほどなくして、トムとオリヴィアが診療所へやって来た。「今日は森に行くんだろ?」「予定を変えました」「ええっ?」トムの声が診療所に響く。「水に変化があったの」バーバラに促され、二人は瓶の底を覗いた。

「あ」「青い」「本当だ。きらきらしてる」朝日を受け、小さな欠片が僅かに輝いている。「宝石?」トムが興味に満ちた顔で尋ねた。「水の中で宝石ができたのか?」「宝石とは決まっていません」バーバラが答える。「お父さんの記録では、瓶を揺らすと消えたそうよ」「消える宝石?」トムの目がますます輝いた。

「絶対に触らないでね」オリヴィアが先に釘を刺した。「分かってるよ」「本当に?」「本当だって」

「分からないものへ触れないことは、薬師にとってとても大切なことです」バーバラが真剣な声で言った。「毒かもしれないから?」「それもあります。それに、触れたことで状態が変われば、もう同じ観察はできません」壊すとは瓶を割ることだけではない。残されていた変化を消してしまうことも、実験を壊すことになる。「分かった」今度はトムも真剣に頷いた。「絶対に触らない」

午前中、俺たちは一定の間隔を空けて青い欠片を観察した。最初は砂粒より小さかったものが少しずつ大きくなった。昼前には最初の欠片の周囲に新しい青い点が二つ、三つと現れた。「増えてる」オリヴィアが呟く。

俺の目には、さらに詳しい変化が見えていた。魔力が一つの場所へ集まっているのではない。瓶底に沈んだ、肉眼では見えないほど小さな粒――その一つ一つへ魔力が集まっている。岩清水は地下を通る間に、魔力を保持しやすい鉱物を取り込んでいるのかもしれない。そして月雫草は水と共に、その成分を吸い上げている。それなら月雫草が他の薬草より多くの魔力を保持できる理由も説明できる。まだ仮説だ。だが次に調べるべきことは見えてきた。青い欠片を水から分ける。欠片だけでも魔力を保持できるのか。月雫草や普通の植物へ与えた時、どのような変化が起きるのか。ただし今すぐ行うべきではない。取り出す方法も安全性も、まだ分かっていない。

「これ、ずっと増え続けたら瓶の中が全部青くなるのか?」トムが尋ねた。可能性は低い。新しい魔力が生まれているわけではない。水の中にあるものが集まっているだけだ。すべて集まれば、そこで止まるはずだ。俺は水面から瓶底へ指を動かした。「水の中にあるものが下へ集まってるの?」オリヴィアが読み取る。頷いた。「じゃあ全部集まったら大きな青い石になる?」トムはまだ宝石を諦めていないらしい。俺は首を横へ振った。「ならないのか」残念そうに言う。

だが魔力を保持できる鉱物なら、価値は宝石以上かもしれない。治療、薬の保存、魔力の運搬――使い方によっては大きな発見になる。だからこそ危険でもあった。青い欠片の価値が知られれば、商人や魔術師があの森へ押し寄せるかもしれない。岩壁を削り、水を汲み尽くし、月雫草を根こそぎ採る。前世でも薬効を発表された薬草が数年で姿を消したことがあった。月雫草を同じ目に遭わせてはならない。

「二人とも」バーバラがトムとオリヴィアへ向き直った。「この水のことは、今は外で話さないでね」「秘密?」「ずっと隠すという意味ではないわ。何か分からないうちに噂だけが広がれば、怖がる人も勝手に取りに行く人も現れるかもしれないでしょう?」「青い宝石ができるって言ったら、皆、欲しがるかも」「だから宝石とは決まっていません」バーバラがもう一度訂正する。「分かった。俺、誰にも言わない」「私も」オリヴィアも頷いた。「でも、危なくなったら誰かに助けてもらうんだよね?」「もちろん」バーバラは答えた。「私たちだけで扱えないと分かったら、信頼できる人へ相談します」

秘密にすることと、一人で抱え込むことは違う。前世の俺は、その違いを理解していなかった。自分だけが分かればいい、自分だけで解決できる――そう思い込み、誰にも危険を知らせなかった。その結果があの事故だった。今度は同じことをしない。

昼を過ぎる頃、青い欠片はさらに増え、瓶底へ薄い砂のように広がった。俺にしか見えない変化もあった。水中の魔力は失われていない。ほとんどすべてが青い欠片へ集まっている。つまり青い砂が生じたことは、水が力を失った証拠ではない。魔力を別の形で保持している状態だ。

この状態の水へ月雫草を挿したら、どうなる。集まった魔力を植物は吸収できるのか。あるいは一度に強すぎる魔力を受け、傷んでしまうのか。薬も量が多ければ毒になる。魔力も同じだ。確かめるためには、同じ条件で二本の封止瓶を作る必要がある。一方は青い砂が集まったまま、もう一方は父の記録と同じように揺らし、魔力を再び水へ散らす。その二つへ同じ月雫草を挿して比べる。次の実験は決まった。

だが瓶を開ける時には注意が必要だ。封じられた魔力が一気に外へ出る可能性がある。前世で俺は同じような事故を起こした。魔力を濃縮した容器を開けた瞬間、流れ出した魔力が助手の腕を傷つけた。あの時の俺は、助手の開け方が悪かったと責めた。だが本当は、容器の中で何が起きているのか十分に確認しなかった。俺の責任だった。同じ失敗を繰り返してはならない。開封する場所、人との距離、魔力を受け止めるもの――準備が必要だ。

前世なら魔力吸収石を使った。魔力を蓄えやすい、多孔質の鉱物を加工したもの。この村に同じ道具はない。だが似た性質の石なら森に存在するかもしれない。岩清水が染み出す壁、水の中に生まれた青い砂――あの岩壁自体が魔力を保持する性質を持っている可能性がある。次に森へ行った時、岩壁の近くに落ちている石を少量だけ持ち帰る。魔力へ反応するか、安全な範囲で確かめる。新しい道筋が見えた。

夕方、俺たちは再び瓶を観察した。青い砂は瓶底のおよそ四分の一へ薄く広がっていた。水の上部からはほとんど魔力を感じない。水と、魔力を抱えた微細な成分――それが完全に分かれ始めている。

「青い砂」バーバラが父の記録を見ながら言った。「お父さんはそう呼んでいたのね」青い砂。正確な名前ではない。砂ではない可能性も高い。だが今はそれで十分だ。正体の分からないものへ、無理に立派な名前を付ける必要はない。前世の俺なら自分の名を付けただろう。オリバー石。ルーク結晶。自分が発見したことを残すために。だがこれは俺が最初に見つけたものではない。父が見つけ、父が記録し、俺たちがその続きを調べている。だから今は、父が残した名前でいい。

「今日はここまでね」バーバラが言った。俺は思わず眉を寄せる。「明日まで、このまま観察しましょう。お父さんの記録では、一度揺らしたあとまた砂が現れたと書かれている。でも、この瓶は一度も揺らしていないでしょう? どこまで変化するのか、まず見届けたいわ」

正しい。俺も同じ結論だ。ただ、待つことが嫌なだけだ。俺は諦めて頷いた。「明日は瓶を揺らすの?」トムが期待を込めて尋ねる。「まだ決めていません。状態を見てからです」見て、考える。順番を変えない。俺たちは瓶へ再び木箱を被せた。

   ◇ ◇ ◇

その夜、俺は約束通り、一人で瓶を見に行かなかった。気にならなかったわけではない。何度も目を覚ました。青い砂は今も増えているのか。魔力は安定しているのか。瓶は耐えられるのか。不安が頭を巡った。それでも寝台から降りなかった。一人で調べない――バーバラと交わした約束が、俺の足を止めてくれた。

前世の俺は、誰かに止められることを嫌った。今は、止まれることを少しだけありがたいと思う。

   ◇ ◇ ◇

そして翌朝、バーバラと共に木箱を外した俺は、言葉を失った。瓶底の青い砂は、ほとんど増えていない。代わりに、砂の中央から細い青白い糸が伸びていた。それは水の中を、ゆっくりと上へ向かい、まるで植物の根のように枝分かれし始めていた。

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