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Ep171. 薬と毒の境界

毒とは。身体を害するもの。

薬とは。身体を治すもの。

では、その境界はどこにある?

「薬にも毒にもなる?」

トムが首を傾げた。

「そんなことあるの?」

「あるわよ」

バーバラは即答した。

「むしろ、薬になるものの多くは、使い方を間違えれば毒になるの」

その言葉に、俺は静かに頷いた。その通りだ。前世でも、薬と毒の境界は曖昧だった。量。使い方。患者の体質。同じものでも、条件が変われば薬にも毒にもなる。

「じゃあ」

ケントが恐る恐る尋ねた。

「この草はどうやって使うの?」

「それは今日は教えません」

「ええーっ!」

子どもたちから不満の声が上がる。だが、俺は少し感心した。正しい判断だ。中途半端な知識は、知らないことより危険になる。

「どうして?」

オリヴィアが尋ねる。

「使い方が難しいからよ」

バーバラは答えた。

「今日ここで少しだけ聞いて、自分でも使えると思ってしまったら危ないでしょう?」

子どもたちは黙った。

「だから今日は、この草には勝手に触らない。それだけ覚えて帰ってね」

「はーい……」

少し残念そうな返事。それでいい。知識には、教える順番がある。

前世の俺は、知りたい者には全て教えればいいと思っていた。理解できないなら、それは本人の能力不足。そう考えていた。だが、教える側にも責任がある。何を教えるか。いつ教えるか。どこまで教えるか。それを判断することも、知識を持つ者の責任なのだ。

「じゃあ次へ行きましょう」

バーバラが立ち上がる。子どもたちも歩き始めた。俺は最後にもう一度、その草を振り返った。

よく似た二つの植物。片方は熱を下げる薬。片方は触れれば肌を荒らす。だが、使い方次第では後者も薬になる。

面白い。実に面白い。胸の奥で、前世の俺が目を覚ます。調べたい。成分を知りたい。どう作用するのか。なぜ薬になるのか。知りたい。

だが、今の俺はまだ幼い。勝手に研究できる環境もない。

……なら、覚えておけばいい。いつか、自分で研究できる日が来た時のために。

そう考えた。その時だった。

「ルーク?」

バーバラが振り返る。

「どうしたの?」

俺は首を横へ振り、皆の後を追った。

   ◇ ◇ ◇

森の奥へ進む。少しずつ木々が高くなっていく。光が減る。湿気が増える。植物の種類も変わってきた。

「ここから先は」

バーバラが立ち止まった。

「少し珍しい薬草が増える場所よ」

子どもたちの目が輝く。

「珍しい薬草!」

「高いの?」

「そういう意味じゃないわ」

バーバラは苦笑する。

「この辺りでしか育たないものがあるの」

この辺りでしか。俺は周囲を見る。地面には苔。岩肌から水が染み出している。空気は冷たい。特殊な環境。なるほど。この湿度と温度なら、特定の植物だけが育っていても不思議ではない。

「ほら」

バーバラが岩陰を指差す。そこには、青白い小さな花が咲いていた。

「月雫草」

バーバラが言う。

「熱が長引いた時に使う薬の材料になるの」

俺は目を見開いた。青白い花。細い茎。丸みのある葉。見たことがある。どこで?

記憶を探る。そして、思い出した。三日前、町の薬種商から届いた、淡い青色の薬。あの薬と、同じ魔力の気配がする。

俺は無意識に一歩近づいた。そして、違和感を覚えた。

……待て。この魔力、自然に宿ったものではない。誰かが、意図的に、この植物へ魔力を与えている。

俺は青白い花を見つめた。胸の奥で、長い間眠っていた、天才医魔術師としての感覚が、静かに、確かに、目を覚ました。

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